第14話 悠、女の子になる その2
「自己紹介をしましょうか、
「どうして、ボクの名前を!?」
女性の言葉に悠が驚くのも無理はない。といっても、単純な話で悠は身分証明するモノを所持していなかったからだ。
その悠の疑問に、女性は冷静な口調で淡々と説明する。
「簡単な理由です。緊急事態だったので失礼とは思いましたが、アナタの脳から記憶を解析したからです」
「ボクの脳から…… 」
「はい。アナタが失踪したとなれば、ご両親や周囲の人々が心配しますからね。その対処のためだと思って、許しください」
そう言って、女性は軽く頭を下げた。
そんな女性の態度を見て、悠は戸惑いながらも尋ねる。
「因みにどのような方法で、ボクの記憶を解析したんですか?」
「そのことについては、今は言えません。どのように対処したのかというのも今は言えません。ですが、ご両親や周囲に人々はアナタが海外に短期留学しているという認識になっています」
「そうですか……」
女性が口にした内容は、悠にとって驚くべき内容だった。しかし、同時に両親や周囲の人が心配していないなら良かったとも思う。その方法は不明だが……
「話が脱線しましたね。では、改めて自己紹介をしましょうか。私の名は<
「こうやって、直に話すのは初めてね。アミス=イーオケアイラよ― です。この度はほんとうに申し訳ありませんでした」
亜美ことアミス=イーオケアイラは、自己紹介の後に頭を深く下げて、悠に正式に謝罪をする。
その姿を見た悠は、慌てて頭を上げるように言う。
「あ、あの、頭を上げてください。アミスさんには、2週間前に散々謝ってもらったので……。それに、アミスさんのおかげで女の子になれたので、ボクとしてはむしろ感謝しているぐらいです!」
「えっ そう? そう言ってもらえると助かるわ~」
悠の言葉を聞いた亜美は、いつものお気楽な感じで嬉しそうな表情を浮かべる。
―が、月夜に睨まれて、また叱られた猫のように”しゅん”としてしまう。
「コホン」と咳払いをすると、月夜は真剣な表情で悠に語りかけてくる。
それは完全な仕事モードであり、悠にもそれが重大な会話である事が伝わってきた。
「それで、悠さん。その女性の体への性転換実施というこちらの条件履行によって、今回の事故について【示談】の成立ということでよろしいですね?」
「はい!」
「わかりました。では、このタブレットにサインをしてください」
月夜の言葉を聞いた悠は、手渡されたタブレットに視線を落とす。そこには契約書のような内容が書かれていた。悠はその文章を読み終えると署名欄に人差し指でサインをする。
「これで示談成立です。これにより、今後アナタがいかなる賠償を求めても応じることは無いとお考え下さい」
「はい、それで構いません」
悠は納得してうなずく。
何故なら悠にとっては、その事故のおかげで女の子の体になれて、智也と恋人になれる未来が開けたのだから、恨むどころかむしろ感謝しているからだ。
「それでは、次はアナタの今後の事のことなのですが…」
(ボクのこれからの事……?)
月夜の問いかけに対して、悠は首を傾げる。質問の意図がわからなかったからだ。
悠の反応を確認した後、月夜は説明を続ける。
「実は悠さんの脳から記憶を解析している時に、アナタに超能力の才能があることがわかりました」
「えっ!?」
悠は驚きの声をあげる。
超能力というのは漫画やアニメの… そして、智也が大好きなオカルトの世界だけに存在するモノと思っていたからだ。そのためまさか自分が、そのような才能を持っているとは夢にも思わなかったのだ。そして、そんな悠の様子を見ながら月夜はさらに話を進める。
「そこで、悠さんに私達の仲間になってもらって、その超能力を活かしてこの地球を守って欲しいのです」
「ちょ、ちょっと待ってください! ボクに、超能力が……?」
突然の話に悠は混乱する。だが、そんな悠を無視して話は進んでいく。
「ええ、間違いありません。それもかなりの力です。アナタが望むなら、すぐにでもリハビリと同時進行で、訓練を開始できますがどうしますか?」
「ど、どうしますかと言われても…… ボクはまだ中学生ですよ?」
困惑する悠に対し、月夜は淡々と答える。
「もちろん、今すぐという話ではありません。訓練には2年から3年はかかりますから、その時には16か17歳。元服してもう立派な大人です」
「元服って… いつの時代の話ですか?!」
悠が思わずツッコミを入れるが、月夜は気にせずに話をつづける。
月夜の話によると、この地球は悪い宇宙人に狙われており、人間が奴隷として攫われているらしい。
だが、広大な宇宙において地球は辺境なので、十分な人員が充てられず慢性的な人員不足のため、辺境では現地から超能力者を【特別保安官】としてスカウトしているようだ。
もちろん、正しい心を持っていることが第一条件である。
「どうですか? 同胞を救うために、命をかけて犯罪者達と戦いませんか?」
その態度からは冗談ではなく本気だということが伝わってきた。
そもそも月夜は冗談を言うようなタイプではないことは、短い付き合いながら悠にはわかっていた。だからこそ、悠は動揺する。
「ボクは…… その…… 」
悠は返答に困ってしまう。なぜならば、悠にとって一番大切なのは、智也との幸せな時間なのだから。もっと言えば、イチャイチャ、ラブラブしたい!
それなのに、【特別保安官】になればそんな時間が削られるのは自明の理であるが、月夜の言う通り、悪い奴らから世界を守りたいという気持ちもある。
「すみません…… 少し考える時間をいただいてもいいでしょうか?」
悩んだ末に悠はそう答えた。
「そうね。リハビリ期間に考えてくれればいいわ。今日は疲れたでしょうし、ゆっくり休んでちょうだい」
月夜は微笑みを浮かべてそう言うと、立ち上がって部屋を出ていこうとする。
すると、亜美がこのような事を悠に吹き込む。
「【特別保安官】になってくれたら、特別に悠ちゃんと智也くんが上手くいくように手伝ってあげてもいいわよ? まあ、100%付き合えるという保証はできないけど」
亜美の言葉を聞いた悠は、ビクッと反応してしまう。
そして―
「世界の平和のために、ボクがんばります!」
即答する。
「う~ん。動機が少し不純なような気もしますが…… まあ、いいでしょう。それでは、明日から本格的な訓練を開始しましょう。詳しい事は明日説明するので、今日はゆっくり休んでください」
月夜の言葉を聞いた悠は、「わかりました」と返事をした後、退室していく二人の背中を見送ったが、亜美は月夜を外まで見送ると室内に戻ってくる。
「どうしたんですか?」
悠の質問に亜美は、隣の空いているベッドに腰を掛けると悠の方を向いてこう答える。
「悠ちゃんは、まだあまり体がうまく動かないでしょう? だから、私が補助してあげるわ」
「ええっ、いいですよ! そんな事をしてもらわなくても、大丈夫ですから……」
「遠慮しなくていいのよ。もともと私の責任だし…。それに…」
「それに?」
「男の子だった悠ちゃんには、これからの女の子としての生活でわからないことや、不安なこともあると思うの。例えばおトイレの仕方とか、お風呂での体の洗い方とか… ね?」
亜美は悪戯っぽく笑う。
「!?」
悠はその言葉の意味を理解して顔を真っ赤にする。
「そ、それは確かに…… ですね……」
悠が恥ずかしそうな表情でうつむくと、亜美は楽しげな口調で話しかけてくる。
「ふふっ。大丈夫。最初はちょっと戸惑うかもしれないけれど、きっと慣れるから」
「うぅ…… はい」
悠は、恥ずかしさのあまりに消え入りそうな声で、そう呟くことしかできなかった。
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リハビリとは、人の体とは一定期間動かしていないと、筋肉が弱くなったり固まったりして動き辛くなってしまう。
悠の新しい体はまさにその状態で今まで通りに動かすことができない。そのため、日常生活を送るために、リハビリが必要なのである。
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