第10話 悠の告白(愛)
「悠、俺もこれから家に帰るから、荷物持ってやるよ。亜美さんも持ちますよ」
「あら、ありがとうね、智也君」
「智也、ありがとう。お礼に結婚してあげるね♪」
「あっ 大丈夫です」
「ぶぅ~」
悠が頬を膨らませて抗議してくるが、俺はそれをスルーして悠と亜美さんが持つ買い物袋を持つと、彼女達と一緒に家に向かう。
彼女たちの家の玄関に荷物を置くと、悠が俺に感謝の言葉を述べる。
「智也、本当に助かったよ。ありがとね」
「気にするな。じゃあまた明日な」
俺が帰ろうとすると、亜美さんに引き止められる。
「智也君、お茶でも飲んで行きなさいよ。何なら、悠ちゃんも頂いていってもいいのよ?」
「お姉ちゃん!!」
悠は恥ずかしさと怒りが混じった赤い顔で、亜美さんのセクハラ発言に抗議する。
―が、俺の方を向くと両手の指を合わせ、今度は100%恥ずかしさで赤くなった顔で、少し小さな声でこのような事を言ってきた。
「でも…… 智也が望むなら… ボク… そういうこと… してもいいよ? でも、ちゃんと責任は取ってね……?」
更に顔を赤くしながら上目遣いで、俺を見てくるあざと可愛い幼馴染に、俺はこう答えることにした。
「あっ 大丈夫です」
「ぶぅ~」
俺の先程と同じ答えに、悠も同じリアクションを返してくる。
「まあ、冗談はここまでにして、お礼にお茶とお菓子を用意するからあがって行ってよ」
「そうよ、遠慮せずにあがっていきなさい」
二人に勧められ、俺はお邪魔することにした。
「それじゃあ、お邪魔します……」
俺は悠の家に入ると、買い物袋を台所まで持って行きその後、リビングへと通される。
悠はそのまま台所に残り、お茶とお菓子を用意している。
ソファーに腰かけると、亜美さんが声をかけてきた。
「ねえ、智也君は悠ちゃんのことどう思っているの?」
「えっ? 大切な幼馴染で親友だと思っていますけど…… それがどうかしましたか?」
俺は亜美さんが何を聞きたいのか解っていたが、あえて惚けることにした。すると、彼女は予想通りの質問をしてきた。
「ねえ、智也君。あなたは悠ちゃんのこと、異性としてどう思っているのかしら? いや、余計なお節介だとは解っているのよ? でも、私は悠ちゃんの君への健気な姿を見ているから、同じ女として力になってあげたいのよ…」
「亜美さん……」
俺は(この人… 真面目なことを言えたんだな)と思いつつ、亜美さんの悠への思いやりの心に触れ感動してしまう。
そして、俺と亜美さんの間にしばらく沈黙が流れる……。
その静寂を破ったのは亜美さんの携帯であった。
「ごめん、智也君」
亜美さんは、着信音がなり続ける携帯を持って廊下に出ると電話に出て、話し相手と何やら会話を始める。
しばらくして、戻ってくると申し訳なさそうな顔をしながら、こんな話をして来た。
「智也君、ごめんね。急な呼び出しで出かける事になったの。私はこれで失礼するけど、ゆっくりしていってね」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
俺がそう言うと、亜美さんは何かを手渡して来たので、それを見るとそれはゴムだった。
「私には、今までとこれからも暫くは使用する機会は無かったモノだけど、智也君は有効活用してね!」
笑顔でサムズアップをして去っていく亜美さんに、俺は引きつった笑みを浮かべながら見送るしかなかった。
(俺の感動を返せ、この残念美人!!)
俺が心の中でそんな事を考えながらも、渡されたゴムを見つめていると
「あれ? 智也、お姉ちゃんは?」
悠に声を掛けられたので、慌てて手に持ったモノをポケットに突っ込む。
「えっ?! ああ… 誰かから、電話がかかってきて出かけたよ!」
「ふーん…… あっ お茶とお菓子用意できたよ。食べようよ」
「おう……」
俺は先程の出来事を無かったことにするために、悠との会話に集中することにした。
だが、俺と机を挟んで座る悠は、頬を赤く染め肩に掛かる亜麻色の髪を触りながら、チラッチラッとこちらを見てくる。
そんな仕草をする悠の可愛さと亜美さんとやり取り、そしてゴムの件で彼女に変な意識をしていまった俺はつい目を逸らしてしまう。
「二人っきりだね…… 」
「そっ そうだな……」
俺は何とか平常心を保とうとするが、心臓の鼓動は早くなるばかりだった。
それから、俺達は無言のままお茶とお菓子を食べていたのだが、悠が突然立ち上がると俺の隣に来て上目遣いでこんなことを言い出す。
「ねえ、智也…… あのさ…… さっきお姉ちゃんが言ったこと覚えてる……?」
「えっ!? なんの事かな?」
もちろん覚えているがはぐらかす。
「さっきも言ったけど…… 責任取ってくれるなら… ボクは… 智也と… 」
そこまで言って、恥ずかしさからなのか耳まで真っ赤にして俯く。
恥ずかしさに耐える悠の瞳は潤んでおり、自分から男を誘うという行為に、彼女の体は小刻みに震えている。
悠がここまで勇気を出している以上、このまま彼女の好意をはぐらかすのは、不誠実な行為だ。そう考えた俺は、意を決し彼女に気持ちを伝える。
「悠の好意は嬉しい……。だけど、君のその好意は俺ではなくて、この世界の俺へのモノだ。だから、俺がその好意を受け止めることは出来ない……」
「再会した時にも言ったけど、ボクにとっては、平行世界の智也も智也であることに変わりはないよ! だから、智也もそんな事は気にせずに、ボクのことを… ボクの気持ちを受け止めてよ!!」
悠は必死な表情で、俺に訴えかけてくる。
俺はそんな彼女を見て胸を締め付けられるような思いになるが、ここで中途半端な対応をしてしまえば、彼女を傷付けてしまうかもしれないと思った俺は、自分の正直な気持ちを話す事にした。
「悠……。俺はひょんな事でこの世界線に来てしまった。だから、またひょんな事で元の世界に戻るかもしれない…。その時、悠(♀)と恋人関係になっていたら、俺はきっと男の悠に『どうして、
悠(♀)は何も言わず黙っているので、そのまま話を続ける。
「それは14年間一緒に過ごした幼馴染を… 親友を否定する事なんだ。俺はそんな感情を
俯いたまま黙って俺の言葉を聞いている悠(♀)に、俺は最後にこう伝える。
「だから、ごめん。君の気持ちは受け入れられない……」
俺はそう言って、最後に頭を下げる。
「それって…… 女の子のボクより…、男の子のボクの方が大事… ってこと…?」
すると、頭を下げる俺に悠(♀)は、微かに震える声でこう尋ねてくる。
「そうなるのかな……。あっ! だからといって、俺は別に男の方が好きとかそういうのじゃないから! 友情を選ぶって事だから!!」
悠(♀)の質問を肯定しつつ、腐られてもこまるので誤解も解いておく。
俺に思いが届かずに泣いているかもしれない… と思い恐る恐る顔を上げる。
―だが、悠(♀)は“最高に幸せーー!!”というような笑顔に両手をあてて、体をクネクネさせており、幸せオーラをバンバン出している……
「えへへへ~♪」
目の前で喜んでいる悠(♀)を見て困惑する。
(あれっ?! 俺、悠(♀)のことフッたよ… な…? それなのに、なんでこんなに喜んでいるんだ?)
俺の頭の中はもう(?)だらけだ。
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