第7話 悠の家にお呼ばれされたが
「智也。一緒に帰ろう」
学校が終わりの帰ろうとすると悠が笑顔で近づいてきて、当然のように一緒に下校しようと言ってくる。
「そうだ。俺コンビニに寄って、弁当買わなきゃいけなかった。買い物に付き合わせるのも悪いから、一人で帰ってくれ」
「どうして、コンビニ弁当を買うの?」
「今日は、たまたま両親が二人共いないんだ」
父は残業、母は友達とお出かけしているので、今夜二人共帰ってくるのが遅い。
そのため、晩御飯を作るのが面倒なので、コンビニで弁当を買って帰ることにした。
「そうなんだ…。じゃあ、ボクの家に晩御飯を食べにおいでよ。ボクが智也のために腕によりをかけて、ご飯を作るから♪」
悠が笑顔で提案してくる。
悠(♂)は料理が上手で、俺は御馳走になる度に「お前が【女の子】だったら、結婚するのにな~」と冗談を言っていたが、今となっては軽率な言葉であったと反省している。
アイツが俺に告白してきたのも、この冗談が一因かもしれないからだ。
「いや、遠慮しておくよ。亜美さんに迷惑だろうし……」
女性が二人で暮らしている家に、男が行くのは迷惑かもしれない。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、家に連れ込んでもいいって言っていたから」
「マジかよ……。じゃあ、今度食べさせてもらうよ。それじゃ!」
俺はそう言って逃げようとしたが、笑顔の悠にがっつり腕を掴まれる。
その反射神経にも驚いたが何よりその腕力で、悠はその細い腕で俺の逃亡を阻止すると
「さあ、デパートで材料を買ってから、ボクの家にゴー!」
笑顔で俺の身体を引っ張りながら、デパートに向かって歩いていく。
俺は本気ではないがそれなりには抵抗した。だが、結局引きずられるようにして連行されてしまう。
悠(♂)には、こんな腕力は無かったし反射神経もここまで良くなかったのだが、どうやら悠(♀)の身体スペックは悠(♂)より高いようだ。
観念した俺は、おとなしく買い物に付き合い荷物持ちをする。
悠(♂)との買い物の時にも俺が持っていた。細身の悠(♂)は荷物の重さ次第では、フラフラとしてしまうので、いつも俺が持っていたので、もう慣れたものだ。
「いつも荷物を持ってくれるよね…。ありがとうね」
家への帰り道、荷物を持つ俺に悠は頬を赤くしながら、嬉しそうな表情で礼を言ってくる。
そして、その視線には熱っぽいものを感じた。
俺はそれに気づかないフリをして、平静を保つように心がける。
俺達は自然に無言となってしまいそのまま歩き続け、やがて悠の家に到着すると家の中に運んできた荷物を置く。
「ありがとうね、智也」
「俺は一旦家に帰って、鞄と着替えをしてくるよ」
「じゃあ、ボクも着替えるよ」
「悠ちゃん。着替えるなら、【裸エプロン】にしなさい。その方が智也君も喜ぶわよ? ねぇ~、智也君?」
この声は……
俺達が台所の入り口を見ると、そこにはこちらに向かってニヤリと笑みを浮かべている眼鏡美人が立っていた。亜美さんだ。
(この人は、何を言っているんだ?)
心の中でツッコミを入れる俺に、悠は恥ずかしそうに顔を赤らめモジモジとしながら尋ねてくる。
「智也…… 裸エプロンがいいの……? 智也が望むなら、ボク…… 」
「あの人の言うことは、真に受けるな」
俺は悠の言葉に被せるように否定すると、悠は不満げに唇を尖らせる。
「なるほど……。智也君は【裸ワイシャツ】派ね~?」
(今の会話で、どうしてそうなる?!)
再び心の中でツッコミを入れたその時、悠が亜美さんをジト目で見つめながら窘め始める。
「お姉ちゃん、またご飯前に飲んでいるでしょう?」
どうやら、数々のエロ発言は酔っているからのようだ。
「何よ、いいじゃない。少しぐらい飲んだって」
そう答えた亜美さんの右手には、ストロング系のお酒の入った飲みかけの缶が握られている。
「ダメです。お姉ちゃんは、酔うと碌な事がないんだから…」
「はいはーい。わかりました~」
悠は呆れた様子で注意するが、亜美さんは全く反省していない感じで返事をする。
「じゃあ、俺は一旦帰るよ」
「うん……。ボクも着替えたら、ご飯を作り始めるよ」
こうして、俺は一旦自分の家に帰宅する。
そして、着替えて悠の家に戻ってくると彼女は台所でご飯を作っており、亜美さんはリビングで先程の酒を飲みながらテレビを見ていた。
「悠、俺も手伝うよ」
「いいよ、いいよ。智也もテレビでも見て、ゆっくりしていてよ」
悠はそう言って、笑顔を向けてくれるが俺はその言葉に甘えるわけにはいかないので、再度手伝いを申し出る。
「いや、やっぱり何か手伝わせてくれ」
「智也は荷物を運んでくれたから、休んでいていいの。それにボクが招待したお客様なんだから座っていてよ。それにお姉ちゃんなんて、何の遠慮もなく休んでいるんだから、気にしなくていいよ」
「なになに? いきなりお姉ちゃんに矛先が向いているんだけど~?」
亜美さんは、テレビを見ながらおどけたような口調で俺達の話に入ってくると、酒の缶を片手にソファーに横になって寛いでいる。
「そうか…。じゃあ、お言葉に甘えるよ。何かあったら、呼んでくれ」
「うん♪」
満面の笑顔で答えるエプロン姿の悠に、俺はドキドキと胸を高鳴らせてしまう。
そんな俺の気持ちなど露知らず、悠は機嫌がいいのか鼻歌を歌いながら料理を続ける。
俺がリビングに来ると、亜美さんはニヤニヤとしながら俺の横に座り話しかけてくる。
「私が居なかったら、新婚さんプレイだったわね~」
俺はその言葉を聞こえないフリをして、テレビに視線を移す。
亜美さんは俺が反応しない事に、つまらなさそうな表情をしていたが、テレビの画面に映った失踪事件のニュースを見て急に真剣な表情になって呟く。
「遂にこの町にも失踪者が出たわね……」
テレビには俺たちが住む町の名前がテロップで出ており、アナウンサーが淡々と事件の概要を説明していた。
どうやらここ最近、若い女性を中心に次々と行方不明者が現れているらしい。
警察は誘拐犯の犯行も視野に入れて捜査をしているそうだが、未だ犯人の目星すらついていない状況だと報じられ、ついに今日この町に住む女性の一人が、いなくなったと報道されていた。
「悠も亜美さんも気をつけてくださいよ?」
俺達が住む町で起こっているという事もあり、俺は少し不安を感じて注意を促す。
「心配してくれるの? ありがとう~、智也君~。どう? 悠ちゃんから、お姉さんに乗り換えない~?」
亜美さんはそう言いながら、俺にその綺麗な顔を吐息が掛かる距離に近づけてくる。
その吐息は甘く、そしてアルコールの匂いが含まれていた。
揶揄われているのは解っていたが、俺は思わずドキッとしてしまい、慌てて亜美さんから離れようとする。だが、亜美さんは俺の腕を掴み逃してくれない。
そして、再び顔を近づけてきてくる。
その時、背後に包丁を持った悠が側に立っていることに気付き、俺達は二人揃って真っ青になる。
悠は俺達に鋭い視線を向けると笑顔になるが、低い声で亜美さんに注意をする。
「亜美お姉ちゃん…… 智也から離れてくれるかな? でないと、ボク…… 手が滑っちゃうかもよ?」
「すみませんでした! お姉ちゃん調子に乗り過ぎました!」
亜美さんは慌てて俺から離れると、ソファーの上で土下座する。
俺はそんな悠(♀)が怖くて、何も言えなかった。
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