第4話564番

およそ、十時頃(目算)


「はぁ…はぁ…」


私は今、564番を背負って走っている。

何故そんなことをしているかと聞かれると、体を鍛えるためとしか言えない。

564番は五歳なので、とっても軽い。

しかし、私も五歳。

いくら軽いとは言え、五歳児が同い年の子を背負って走るなんて、スパルタも良いところだ。


「ちょっと!お尻が落ちてきてるよ!!持ち上げて!!」

「はぁ…はぁ…うぅ、ふっ!!」

「うわっ!?もう!もっと優しくやってよ!!」


私が564番を、振り上げるようにして持ち上げた。

そのせいで、勢いよく私の腕に落ちてきしまった。

きっと、お尻が痛かったんだろう。

私も腕が痛いし。


「はぁ…はぁ…奴隷の癖に…はぁ…はぁ…贅沢…はぁ…はぁ…言うな…はぁ…はぁ…」

「ふ〜ん?じゃあ降りちゃうよ?せっかくの訓練が台無しになっちゃうよ?」

「別に…はぁ…はぁ…良いよ…はぁ…はぁ…他の人を…はぁ…当たるからさ…はぁ…はぁ…」


564番は、私を煽るように言ってきたが、別に564番じゃないといけない理由は無い。

他にも、協力してくれそうな奴はいっぱい居る。

ただ、同じ部屋で過し、何度も喧嘩してきた564番には、他の奴隷よりも話しかけやすい。

564番を選んだ理由はそれだけだ。


「…」

「はぁ…はぁ…」


私に言い返された564番は、黙ってしまった。

それも、しっかり抱きついた状態で。

口喧嘩で負けたから、何か悪あがきがしたかったんだろう。

年相応に可愛いところもあるみたいね。


「はぁ…はぁ…」

「ねぇ、563番」

「はぁ…はぁ…なに?…はぁ…」


564番が、塩らしい声で話しかけてきた。

その声は、何処か悲しそうな声色をしている。


「563番は、どうしてそんなに頑張るの?」

「はぁ…はぁ…どうして?…はぁ…はぁ…強くなりたいから?…はぁ…はぁ…」

「強くなりたい?」


背中越しに、564番が首を傾げるのがわかった。

きっと、きょとんとした、可愛らしい顔をしてるに違いない。


「はぁ…はぁ…強くなったら…はぁ…はぁ…美味しいご飯と…はぁ…はぁ…ふかふかのベットで…はぁ…はぁ…寝られるんだよ…はぁ…はぁ…」

「それ本当!?」

「さぁ?…はぁ…はぁ…でも…はぁ…はぁ…強くなれば…はぁ…はぁ…ちょっとは…はぁ…はぁ…良い生活が…はぁ…はぁ…出来ると思うよ…はぁ…はぁ…」


564番が、ぷるぷると震えている。

私の言った、贅沢な生活を想像したんだろう。

その生活を出来るようになるまでに、どれほどの努力が必要か。

まだ五歳児の564番には、想像出来ないんだろう。


「止まって!563番!!」

「ぐぇっ!?」


564番が、私の首を締めながら止まるよう言ってきた。

ヤバい、吐きそう。

私は564番の言う通り止まって、四つん這いになる。


「ゲホッ!ゲホッ!…はぁ…はぁ…急に首絞めないでよ」

「ごめんなさい。でも、どうしても止まってほしくて…」

「はぁ…はぁ…」


まだ呼吸が荒い。それに、凄く苦しい。

流石に急に止まるのは不味かったか…


「564番」

「な、なに?」

「ちょっと、水飲み場まで行くの手伝って」

「う、うん…」


私は、564番に支えられて、水飲み場に向かう。

途中、何度も倒れそうになりながら、なんとか水飲み場に着いた。

汗を掻いた分、水を飲まないと…


「ふぅ…ありがとう、今日は私が床で寝る」

「え?いいの?」

「色々と手伝ってもらったからね。そのお礼だよ」 


水を飲み終わった私は、564番にお礼をする。

まあ、これくらいしてあげないとね。


「…今日は私が床で寝る。563番がベットで寝ていいよ」

「別にいいよ。遠慮しないで」

「でも…」


564番は、不満そうにモジモジしている。

…可愛い。

私は、無意識に564番の頭に手を伸ばす。


「ふえぇ!?」


私に頭を撫でられて、564番が変な声を上げる。

…やっぱり、可愛い。


「ね、ねえ、563番。何してるの?」

「564番の頭をナデナデしてるの。優しくしてくれたお礼だよ」

「うぅ〜、なんか変な気持ち」


表情的に、嬉しいと恥ずかしいが混じってるね。

やっぱり、これくらいの子は、撫でられると喜んでくれる。

そして、喜んでる可愛い顔を見ると、もっと撫でたくなる。


「よしよし〜」

「うぅ〜」


564番が、恥ずかしそうにぷるぷると震えている。

…可愛い(三回目)


「うぅ〜〜!!」

「うわっ!?」


耐えられなくなった564番が、私に抱き着いてきた。

…え?


「はぁ〜563番の体、あったかいなぁ〜」

「ど、どうしたの?」

「痛い事してくる563番はキライだけど、優しい563番は大好き!!」

「そ、そう…」


珍しく、564番がデレてる。

普段は、私に子供らしい悪口を言ってくる564番。

前に、虐められてた564番を助けた時も、こんな感じだった気がする。

564番は、優しくされるとデレるのかな?

すると、昨日私を独房に連れて行った見張りが、近くを通り掛かった


「おっ?なんだお前達、仲直りしたのか?」

「うん!今日の563番は優しいの!!」

「そうかそうか。反省したんだな、563番」

「え?あっ、はい」


とりあえず、反省したという事にしておく。

そのほうが、見張りに好印象を抱いてもらえる。


「これからも仲良くしろよ。特に、563番は喧嘩っ早いからな」

「別に、好きで喧嘩してるわけじゃ…」

「だったら、もっと564番に優しくするんだな」


そう言うと、見張りは嬉しい笑いながら歩いていった。

…はぁ、面倒くさい事言いやがって。

私が564番を見ると、瞳をキラキラ輝かせていた。

私はこの瞳に弱い。


「はぁ、おやつ貰いに行く?」

「行く!!」


私は、よく食堂でおやつを貰っている。 

大抵は蒸した芋だけど、たまに干し肉とパンが貰える。

これも、私受けている優遇の一つだ。


「おやつ♪おやつ♪」

「蒸した芋くらいしか出てこないよ?」

「いいもん。おやつが食べられるなら、何でも良いよ」


これは…餌付け出来そうだね。

これからも、おやつのために食堂に行けば、564番を餌付け出来る。

可愛いペットが手に入るかも知れない。


「少しはいい生活が出来るかもね」

「ん?どうしたの?」


おっと、口に出てたか。


「なんでもないよ。それより、早く食堂に行きましょう。おやつ無くなっちゃうよ?」

「ヤダ!早く食堂に行く!!」


そう言うと、564番は食堂に向かって走り出した。

ペットと言うよりは、妹が出来たみたいね。

私は食堂へ走る564番を追いかけて走った。


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