第3話転生
異世界転生。
最近のライトノベルでよく見かける言葉だ。
例えば、トラックに撥ねられて異世界に飛ばされたり。
神様の手違いで死んでしまい、そのお詫びで転生させてもらったり。
テロ組織の破壊工作に巻き込まれて死んだり。
最後のパターンは、私の体験談だけど。
「563番、いつまで訓練場に居るつもりだ?」
軽く体を動かしながら考える事をしていたら、見張りに見つかってしまった。
「訓練に熱心なのはいい事だが、そろそろ門限だ。いい加減自分の部屋に戻れ」
「…」
ここで反抗してもいい事はない。部屋に戻るか。
私は、見張りに従って、部屋に戻ることにした。
そうだ、ここが何処か言っておく必要があるね。
ここは、ある商会が運営している『奴隷訓練施設』
異世界ものに奴隷が登場するのはよくある事だが、私もその奴隷だ。
産まれたときから。
私の左腕には、奇妙な紋章が魔法で焼き付けられている。
これは、『奴隷紋』と呼ばれるもので、これを付けられると契約者に絶対服従させられる。
契約者が死ねと言えば、ありとあらゆる方法で自殺しようとするし、動くなと言われれば、ピクリとも動けない。
そんな代物だ。
「ん?なんだ、またお前か。もうすぐで閉めるところだったぞ?門限は守れよ」
私の部屋がある舎房の前まで来ると、出入りの管理をしている見張りに叱られた。
私は何度か門限を守らなかった事で、部屋に帰れなかった事があった。
そして、普段から門限ギリギリに帰ってくるので、見張りからは多少嫌われている。
門限の時に外に居ると、奴隷には罰があるし、その奴隷が居る舎房の管理人は、責任を取らなければいけない。
そのため、私が門限を過ぎても帰ってこないと、見張り達は血眼になって私を探す。
他の見張りに見つかる前に。
さっき訓練場で声を掛けてきたのは、別の舎房の見張りだが、ある種の遅刻常習犯である私は、ほぼ全ての見張りに顔を知られている。
「おっ、563番じゃないか。良かったな、今日はペナルティは発生しないぞ」
「やめてくれよジャック。こいつなら、今からでもどっかに行きかねない。こいつを部屋に送り届ければ、確実にペナルティは発生しねえよ」
前から歩いてきた見張りが私を見て、そんな事を話す。
一人はこことは違う舎房の見張りだ。
そのため、私が帰ってきたのを見て、もう一人をいじっている。
そして、もう一人は私の手を引いて、私の部屋に向かう。
万が一私がこの舎房から出るなんて事になれば、連帯責任でペナルティが発生する。
そのため、私を確実に部屋に送り届ける必要があるのだ。
「まったく、お前はいつも俺達をヒヤヒヤさせてくるな」
「…」
「あと、564番との喧嘩も程々にしろよ?万が一どっちかが死んだら、俺達の責任なんだから」
私のいる『奴隷訓練施設』は、刑務所のような所で、ここも牢獄とほぼ変わらない。
そのため、『部屋』と呼んでいる場所も、『牢屋』と呼んだ方がいい見た目をしている。
牢屋は基本、二人で一つ。
そのため、同居人?がいる。
それが、564番。
私が563番なので、私の次の番号の奴隷だ。
詳しい事は、もうすぐ話す。
何故なら、私の部屋はすぐそこにあるからだ。
「ほら、お前の部屋だ。さっさと寝ろよ」
「…」
私を部屋まで連れてきた見張りは、部屋の鍵を開けると、私を中に押し込む。
そして、勢いよく扉を閉めて鍵を掛ける。
鍵を掛けると、そのまま来た道を歩いていった。
「…」
私は、一つしかないベットに視線を向ける。
ベットには、私と同い年の女の子がスヤスヤと、寝息を立てて寝ていた。
これが、564番。
ちなみに、ベットが一つしかないのは、私が喧嘩した時に壊したからだ。
それからベットが一つになり、しばらく新しいベットを用意するつもりはないそうだ。
つまり、どちらかが床で寝る。
石で出来たカチカチの床で。
「564番、毛布貸して」
私は、564番が使っている掛け布団を剥ぎ取る。
すると、564番が目を覚ました。
「563番…早い者勝ちでしょ?毛布返して」
「嫌だ」
私がすぐに断ると、564番は毛布を引っ張ってきた。
私も負けじと毛布を引っ張る。
すると、564番が毛布を手放し、私の頬を殴ってきた。
私はそれでコケてしまう。
「毛布返して」
「…」
先に殴ってきたのは564番だ。
私は毛布を手放して、564番に殴り返す。
564番は、私と同じようにコケる。
そして、私を睨んできた。
もちろん、私も睨み返す。
「「…」」
しばらく睨み合っていると、起き上がった564番が掴みかかってきた。
いつもの喧嘩の始まりだ。
私達は、ほぼ毎日のように、ベットや毛布を取り合って喧嘩している。
私達の体がいつも傷らだけなのは、いつも喧嘩しているから。
勝率は五分五分。
いくら私のほうが鍛えているとは言え、喧嘩の仕方を知らない子供。
そして、子供だからこそ、普通はしないような事もしてくる。例えば、噛みつくとか。
「いっ!?」
ちょうど今、564番に噛みつかれた。
しかも、かなりの力で噛みついて来てるから、なかなか離れない。
「うぅーー!!」
「はっ、離せ!!」
私は、564番の髪を掴んで、無理矢理引っ張る。
大人でも、喧嘩で髪を掴むことはあるから、これは別に恥ずかしくない。
だって、体は五歳児だけど、精神は三十代のOLだ。
噛みつくなんて恥ずかしい事は…してる。
今はしてないけど、普段からよくやってる。
「おい!お前等何やってる!!」
私達の喧嘩に気付いた見張りが走ってきた。
部屋の鍵を開けて中に入ってくると、私達を無理矢理引き剥がす。
流石は大人の腕力。
簡単に私達を引き剥がし、そのまま距離を置かせてくる。
「まったく。とりあえず、563番は着いてこい。564番はそのままそこで寝てろ」
見張りの指示を聞いた564番は、床に転がった毛布を回収して、ベットに入る。
そして、私は見張りに引っ張られて、部屋の外に出る。
「そんなにベットで寝たいなら、寝かせてやる。ただし、明日の朝飯は減らすからな?」
それは困る。
育ち盛りの子供の体に、少ない食事は悪影響だ。
「はぁ…まったく、お前は問題しか起こさないな」
「…」
しかし、疲れたような雰囲気の見張りを見て、文句を言うのは止めておいた。
なにせ、私のせいで疲れているんだから。
「563番。問題行動も程々にしろよ?お前は他の奴隷と違って賢いんだから、こんな事すればどうなるか分かるだろ?」
「…」
私は、五歳児とは思えないような頭脳を見張りに見せている。
そのため、多少優遇されており、他の奴隷達が受けないような教育も受けている。
例えば、私はこの世界の文字を知っている。
特別に文字を覚える教育を施されたのだ。
他には、お金の価値、この国について、魔物と呼ばれる化け物の事、魔法の存在。
様々なものを教育された。
「すぐに喧嘩するという事さえ無ければ、もっといい待遇を受けられるんだがな」
「もっといい?」
今よりいい待遇ってなんだろう?
ある程度の自由が認められるとか?
「そうだな。例えば、豪華な食事が出されたり、大きくて寝心地のいいベットで寝られたり、常に武器を持ち歩いて良かったり。まあ、奴隷とは思えないような暮らしが出来るぞ?」
何だそれ?
行動が制限されている事も考えれば、軍隊教育を受ける学校や、警察学校の生徒みたいじゃないか。
もし、そこに行ければ、十分な食事が取れるんじゃ…
「どうやったら、そこに行けるの?」
「ん?一番てっとり早いのは、強くなる事だな。強くなって会長の目に止まれば、特別待遇を受けられるかも知れないからな」
会長か…
ここの最高管理者にして、私達の主人。
奴隷商売で大儲けしているそうだ。
そいつに気に入ってもらえば、少しはいい暮らしが出来るようになる。
…もっと努力しないと。
「とりあえず、今日は反省してろ」
独房のような隔離部屋へと連れてこられた私は、そこのベットで夜を過ごすことになった。
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