第5話
ショッピングモール。
全体的に白で統一されたデザインのモール内で、にのまるが物珍しそうに見回している。
「お嬢、あれはなんだ!?」
「あれは魔力ジュースぞよ。飲んだら元気が出るけど飲み過ぎには注意ぞよ」
「お嬢お嬢、これはなんだ!?」
「それは
「お嬢お嬢お嬢、ここは本当にショッピングモールなのか!?」
「そうぞよ。逆にショッピングモール以外何があるぞよ」
「お嬢お嬢お嬢お嬢──」
「あーもういい加減黙れぞよ!!!!」
質問攻めをするにのまるにしびれをきたしたアイチが、手をブンブンと振るう。
「これとこれと……あ、あとこれと……」
一方、一人で黙々と文房具を──俺の知っているようなノートとペンではなく、USBメモリのようなやつだが──買っている。
「…………」
ちなむと俺は1人、2人と1人の間に立っている。
この位置関係、つまるところ必然的に俺は荷物運びにされるわけだ。
そして1時間後、俺以外の各々が買い物を済ませ、フードコートで一息つくことになった。
「お、重……か、た……」
3人分、そのうち2人は転生者と……得体の知れない人であり、買い物の量が半端ない。
いったい何をどれだけ買ったらこんな重さになるんだ……。
俺だって授業に必要そうな物買っておきたかったのに……。
ぐったりと椅子に座っていると、既に注文を済ませたらしい時雨が諭したように言った。
「荷物運びご苦労様です。そうそう、2人分授業道具買ってしまったので、欲しかったらお金ください」
「え、まじ??」
確認してみると、USBが18個、ノートも8個入っていて、五教科+副教科4科目と考えるとほんとに2人分の買ってくれてるようだ。
「おーありがとう! おかげで買いに戻る手間が省けたよ」
「別に、私は周りのことが見えないバカ2人とは違いますから」
いやや、バカは言いすぎじゃないか? にのまるはともかく。
ふと時雨の手元を見ると、複雑な模様の入ったカードが置かれており、「ラーメン・オダワラ」と書かれている。
ラーメンだと……!?
俺は特別ラーメンが好きというわけではないが、天界で2ヶ月間飲まず食わず──天界、つまり死んでるから飲まず食わずて生きれる──、そして転生者保護組合の東京施設でも寮でも、ラーメンというガッツのある食事は食べられなかった。
時間を見ると11時30分を過ぎたところだ。
自分も昼食をとるため席を立った時だった、アイチが凄い形相でこっちにやってきているのが見えた。
どうやらさっきの「バカ」という2人の言葉が聞こえたらしい。
「じゃ、じゃあおれ飯買ってくるから……!」
その後、どんな会話が行われたのかはわからないが、少なくとも穏便では無かったようで、多少髪が乱れていた。
その後も多少のいざこざがありつつも食事を終え、次はどこに行くか? という話題になった。
「……決めてなかったのか!?」
おもわず声を上げる。
午前中の動きを見ていたかぎり、3人ともどこに何があるかわかっているようだったし、入る店も全くの迷いが無かったことから、てっきり午後もみっちり計画を練っているだろうと思っていた。
だが現実は違い、いまや3人で大会議が行われている。
「だーかーらー、もう帰るんぞよ! 買うもの買ったし、こんなところ長居する必要はないぞよ!!」
「いーやそれは違うお嬢! こーいうお店にはいるだけで価値があるんだ! それに、まだまだこのモールを満喫しきれていないっ!」
「私としてはこんなモールより、もっとこう、風情のあるお店に行きたいです」
「見事に3人とも意見が分かれてるな……」
そう口を挟んでみると、
「トールはどう思うぞよ!?!?」
「とーるはどれがいいと思うんだ!?!?」
「3人じゃ埒が明かないので透の意見を聞きたいですね」
と、各々から顔を向けられる。
「え、えぇ……!?」
突然言われてもわかんねーよ、というのが本音。
俺は下調べなんかしてないから、ここのモールに何があるかとか一つも知らないし、あんまり無駄使いしたくないから正直俺としても必要最低限を買ったらさっさと帰ってしまいたい。
しかし、せっかくモールまできたから何かしらしてから帰りたい、と思ってしまう気持ちもある。
なにせ俺自身は一切買い物をしていないのだ。
だからこのまま帰るのはなんとも味気ないし、かといってモールですることと言っても特に……。
いやまてよ? あった。
ショッピングモールに来たらすることといえば。
高校生が学校の帰りに寄るところといえば。
「じゃじゃあ……ゲームセンター、とか」
一瞬場が凍った気がするが、幸い名案だったらしく、みんな快諾──とは行かなかったが──してくれた。
──────────
「違う違う、もっとこう……左寄りに動かして……ああストップストップ! 行き過ぎだって」
「え? え? え? え?」
「スタート位置から右へ46センチ1ミリ、奥に9センチ5ミリ進むぞよ」
「え? え? え? え?」
「このアーム、もうちょっとやる気出せないのですか。ちょっとクレーム入れてきます」
「やめなさい」「やめるのだ」
ゲームセンターの中、とあるクレーンゲームに熱烈に見入っている集団がいた。
すなわち、俺たちだ。
プレイヤーはにのまる。
挑戦する台は前世とは少し形は違うもののほとんど同じ仕組み設定のUFOキャッチャー。
景品はよくあるぬいぐるみ系で、比較的掴みやすい。
しかし、いくら比較的掴みやすいといってもアームの強さが超がつくほど弱いため、普通に掴むだけでは無理なのだ。
だからこそ、特殊な取り方が必要になるのである。
俺だったら数手で取れるレベルの台なのだが、プレイヤーであるにのまるは既に10回以上使っており、引くにひけぬ状態。
横でバンバン取りまくる俺とアイチにヘルプを求めてきて今に至るのだ。
しかし、いくら自分では取れると言っても、他の人に動かせてとるというのは難しい。
……いや、難しいというか俺たちの説明がいけないのか?
「あーにのまる違う! もっとこう、こっちにこう引き寄せてグイッとする感じでやるんだ」
「と、どう……??」
「さっきのところからあと右に5センチ8ミリと、奥に1センチ2ミリ行ってたらタグに引っ掛けられるぞよ」
「え、み、ミリ……??」
すると、痺れを切らしたように呆れ顔で時雨が言う。
「……2人とも説明が下手すぎます。
それに、にのまるはそもそもUFOキャッチャーが下手すぎです」
「そ、そうか? 俺的にはわかりやすくザックリと説明してたつもりだったんだけど……」
「いや、トールのは説明になってないぞよ。
もっと確実な数字じゃないと説明にならないぞよ!」
「…………と、取れたぞ!!」
挑戦回数が20に差し掛かったところで、アームがぬいぐるみを綺麗にがっちり掴み、GETゾーンに落ちた。
「やった……やっと取れた……!」
「おめでとうにのまる。……聞かない方がいいかもだけど、いくら使ったんだ?」
「……2300円」
財布を見ながら、絶望の表情となるにのまる。
その姿を見たからか、元々乗り気ではなかった時雨が「はぁー」とため息。
「もう気は済んだでしょうし帰りますよ。これ以上お金を無駄にするのは馬鹿同然です」
「い、いや、今ならまた取れる気がするんだ……! だからもう一個。もう一個とったら帰ろう!!」
「はい、取ってきたぞよ」
「な、ナニィィィ!?!?」
にのまるが次の台を探す暇も与えずアイチが景品を取り、持ってきた。
これで寮に帰るわけだが、俺はちょっと物足りない気もしなくもない。
ただ、金がもったいないような気もして、あれこれ悩んでいるうちに、3人は先に歩いていた。
「透くん、置いていきますよー」
「あー、すまんすまん。いま行──」
「ちょっといいですかねぇ」
「は、はい? どうしたんです……」
不意に言葉が途切れる。
違和感……いや、デジャブに似たものを感じたからだ。
それは何か。ズバリ、声音である。
男らしいダンディーな声であり、だが語尾がすこしねっとりとした感じの声だ。
この声を俺は過去に、いやつい昨晩聞いている。
たしか名前は……、
「め、メンツ……!?」
「おや、覚えていてくれたのですねぇ」
反射的に数歩後ずさる。
こいつ、またアイチを狙っているのか。
その過程で、1番弱い俺を一人になったところで始末しようというのか。
いや、そうであるならば、わざわざ姿を現す必要は無いだろうし、後ろから拳銃なりなんなりで頭を破壊すればいいだけだ。
実際、俺は物思いに浸っていて後ろのことなんか気にしていなかったから、もし不意打ちを受けた場合避けることは出来なかっただろう。
なのにそれをしなかったのは、一体なぜ……?
俺の頭の中で様々な考えが巡る。
するとメンツは肩をすくめる。
「そんなに警戒しなくても、もう何もしませんかるねぇ。」
メンツは、戦う気は無い、とアピールするかのように両手を開いてみせる。
「……い、いったい何が目的だ……?」
「すこしお話としたいことがあるんですよねぇ」
「…………すこしお話したい、って言われても、俺としては問答無用でアイチを連れ去ろうとしたのに、今更一方的に話を聞けなんて言われて、聞けるかっての」
チラッとアイチ達の方を見る。
どうやら異変に気づいたようで、こっちに来ようとしている。
だが、アイチも含めて迷惑や心配はかけたくない。
「ッ……!」
俺は無音の気合いと共に、アイチたちの方向、つまり出口に向かって走り出した。
「何かあったぞよか?」
「ああちょっとな……とりあえずここから出るぞ……!」
人の間をすり抜けるように走る。
チラッと後方を確認すると、3人とも付いてきているようだ。
そしてその後ろにはメンツの姿もうっすら見える。
このまま外に出ても追いかけられ続けられるだろうから、ひとまずモール内をくねくね適当に移動する。
そして、なんとかメンツを撒くことができた。
「ふぅ…………なんとか、撒けたな」
そう俺が呟くと、 膝に手を置いた時雨が息苦しそうに言った。
「ま……撒けたなじゃ……ない、ですよ……」
見ると、時雨だけでなく、アイチとにのまるの2人もその場に座り込んでいる。
「あ、あーすまん。ついついペース考えずに走っちまった……」
一応俺は体力にはすこし自信があり、人並み以上は走れる。
そんな俺が全力ダッシュで敵の追跡を撒くほど走れば、こうなるのも仕方ないのだろうか。
すると一番早く息を整えたアイチが言った。
「……それで、何があったぞよ?」
「落ち着いて聞いてくれ、さっきゲームセンターで昨晩部屋に入ってきたメンツの野郎が話しかけてきたんだよ」
「あ、あの不法侵入してきた変態男がですか……!?」
「そのとおり。それでヤバそうだったから逃げて、今撒いた。
……その、何も言わず全力ダッシュしたのはすまん。」
謝辞を述べてから、さて……と考える。
みんな体力を消耗しているし、今から逃げるのは現実的では無い。
だからいまはこの辺りで身を隠すしかないのだが、ここはモール内の端っこの端っこ、隣の店は昼間なのにシャッターが閉まっている。
そしてベンチや自販機もなく、職員用の扉もあることから、普段から人が寄り付かない場所らしい。
それにここに来るまでのルートは限られているため、要所を見て置ければメンツの接近にいち早く気づけれるだろう。
ひとまずこの場で待機か……。
気を緩め、とりあえず通路を監視しておくべく歩き始めたその時だった。
「──君たち、ちょっといいかな?」
男性の声だ。
それもにのまるとも俺とも違う、すこし大人がかった声音。
「だ、誰だ!?」
声が聞こえた方向に振り返る。
それは通路とは逆の方向で、職員専用の扉がある方向だ。
そこには何やら特殊装備を着た男が一人……いや後ろにも何人かいる。
一気に気が引き締まると同時に、何故? という疑問が生まれる。
こいつらの狙いはなんだ。
メンツと同じアイチか? それとも他のこの場にいる3人のうち誰かなのか?
だが、さっきこいつは「君たち」と言った。
つまりこいつらの目的は誰か個人ではなく、この場にいる全員……?わ
「お、お前たちは……」
「……。気を引き締めなくてもいい。
私達は君たちを保護しに来たのだからね」
「保護……??」
「ひとまず時間が無い。約束しよう、私達は君たちに危害を加えないし加えさせない。
なんてったって、この街の保安警察だからね」
我らがAIする異世界の国立学園都市であれば、元女神と厨二病と転生者がいても全くもって不思議じゃない。 清河ダイト @A-Mochi117
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