第4話
「────」
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「────」
翌朝、リビングのテーブルでは5人全員が集まり、無言で食卓を囲んでいた。
俺としては無言の状態があまりにも気まずすぎて、テレビをつけたいのだが今はそんな余裕はない。
なぜなら、目の前に置かれている食事から手が離れない。
すなわち、とてつもなく美味しいのである。
「……はー! 美味しかったぞよ〜」
アイチの皿を見ると全て空となっている。
そしてアイチの顔を見るといかにも満足げで、つくづく俺が作らなくてよかったと思う。
俺ならこんな、主菜 副菜 副副菜 汁物 といった一汁三菜の揃った朝食なんか揃えられない。
「にしても、二之丸おまえ……こんな特技あったのか……?」
「ふっ……惚れてくれても、いいんだぜ……!!」
「一言余計ぞよ。それに献立考えたのはみーぞよ」
既にテンプレになり始めたやり取りを片目に、食器をつつく。
昨夜メンツに魔力を送り込んだ時、あまりにも多すぎてアイチにも流れ出たことで、翌日の朝には魔力不足による体調不良も回復し、本調子ではないようだが元気なアイチへと戻った。
昨夜の件は、主に俺がみんなへ説明するとしてアイチと涼風に話合わせていたが、なぜかシュテルンは昨夜男が不法侵入し、アイチを連れ出そうとしたことも知っていた。
情報の出処……恐らく女神的な何かの力によるものなのだろうが、もしリアルタイムで把握していたのならば加勢して欲しかったのが本音だ。
まあ一人説明しなければいけない人が減ったから良しとして、残りの二之丸には朝食を食べる時に説明しよう。
しかしいつ話し出すべきか……。
そんなことを考えていると、シュテルンが箸を難しそうに握り変えたりして顔をしかめている。
「な、なによこの道具……無茶苦茶使いにくいじゃないのよ……」
「シュテルンさん、あなた転生者とは聞いていましたけど、一緒に来た透さんは箸を扱えているのにどうして使えないんですか……?」
「なぜって?そりゃ私は女神だからハシなんて道具使わないし使う必要はないのよ!」
「………………そう、ですか……」
「え!? 何その反応!?」
「なんでもないです」
「も、もしかして疑ってるの!? 私が女神ってことを!?」
「さぁわかりませんねー」
まあそりゃ、誰でもいきなり他人から「私は女神よ!」とか言っても信じる人は居ないだろう。
そんなやり取りを片目に、俺は食器をつつく。
──にしてもうんめぇ……!!
とくにこの味噌汁っ!!
熱すぎず、温すぎず。65~75℃くらいの、味噌汁がいちばん美味しい適温。
そして具材は、箸で優しく掴まないとほどけてしまうくらいに柔らかい豆腐。
箸で掴むのは簡単だが、口に入れてしまうと簡単にほどけ、同時に少し独特な味を出してくれるニンジン。
風味と食感、そして味の3種を兼ね備え、そのうえで各具材に絡み合って、とくに味噌汁がうんと染みこんだ油揚げとの相性がなんとも……。
自称味噌汁評論家(笑)の俺として、この味噌汁に得点をつけるとしたら、問答無用の100点……いや120点だ!
「……そして」
そして、うまい具合に他の副菜などが片付き、残すところ半分ほど残ったご飯と、半分ほど残った味噌汁。
これをミックスさせた先に、更なる
俺が味噌汁のお椀にご飯を入れようとした時、隣に座っている二之丸が真顔で言った。
「そういえばだけど、みんな名前呼ぶ時さ、いちいち○○さんってさん付けで読んでるじゃん。
あれってなんかさ、新婚の夫婦みたいでイライラするんだよな。」
瞬間、食卓が凍りつく。
たしかに、いちいち○○さんとさん付けするのはめんどくさいが、それにしても表現の方法がアレだ。
それも変態として認知されている二之丸が言うのだからなおさら。
「……つまり、あれか? あだ名を付けようってこと……だな?」
俺はひとまずこの擬似的な氷を溶かすため、確認をとる。
「いや、そうじゃなくて──」
「なるほどぞよ! にのまるもたまには良いこと言うんぞよね」
「た、たまにはってなんだよ!? て、そうじゃなくてボクが言いたいのは──」
「お、おーし、そうと決まったら早速決めよう!!」
「……しゅん」
絶対に二之丸には何も言わせない。
なぜなら確実によからぬ事を平然と喋り出すからである。
そのため、かなり無理して話題変更したのだが、当然無計画なのである……。
「ふーん、わかったわ。あだ名……あだ名ねぇ……あ、そうだった。私のことは女神さまと呼びなさい」
シュテルンが胸を張る。
……俺の無計画を救ってくれたのはいいものの、さすがに女神さまはないだろ、女神さまは……。
「い、いやいや、シュテルンあんたはシュテルンでいいだろ。カタカナだし」
「……私もシュテルンと呼びます」
「みーはシューちゃんって呼ぶぞよ!」
「んじゃ僕もシューちゃんと──」
「おまえはダメぞよ。キモイぞよから」
「……シュン」
このテンプレと化したやり取り。
どうやら氷は溶けてくれたらしく、このままあだ名を考える時間になってくれるだろう。
すると、萎んでいた二之丸が勢いよく手を挙げた
「それじゃあ次僕! そうだな……僕は──」
「「「「にのまる」」」」
「……………………決定事項なの!?」
全会一致で即答、見事可決である。
まあ
だって、にのまるだもの。
「……えーと、次!」
次いで、今度はアイチが手を上げる。
「はいはーいぞよ!次みーの番ぞよ〜!」
俺に顔を向けてくる。
たぶんいいあだ名を期待しているのだろうが……、
「うーむ……アイチは、アイチだな」
「えっ!?」
「……じゃあ、私もそれで」
「シグレもぞよか!?」
アイチは「しゅ、シューちゃんも……」とシュテルンをみる。
「う、うぐ……っく、私は女神……こんないたいけな子の期待を裏切るなんて、私にはできない……」
「しゅ、シューちゃん……!」
「……………………アイチって名前、よくよく考えたらいい名前よね……?」
ね? ね? と俺たちに同意するように促す。
いやまあ、たしかにいい名前だと思うけど、今は名前を褒めるんじゃなくて、あだ名を付けるんだよ……。
「……………………………………信じたみーが、ダメだったぞよ……」
「え!? なに!? 私だけそんな目で見られるの!?」
「そりゃ期待させちゃったからだろ……」
「トールも…………いや、もういいぞよ」
どうやら完璧に落ち込ませてしまったらしい。
シュテルンの気遣いが裏目に出てしまったようだ……、ほんとに女神か?
「ふっふっふっ……アイチお嬢。ボクがあだ名をつけてあげま──」
「にのまるはやめ……」
そこで言葉が止まった。
そしてアイチは確認するように、にのまるを見ると言った。
「決めたぞよ……!」
「え、まだ言ってな──」
「みーのあだ名は、アイチお嬢、ぞよ!」
な、なんやそれ……!?
てかそれだと完全ににのまるが下になるんだが……。
しかしアイチは嬉しそうな表情だし、にのまる自身もそんなつもりで言っていなかったようで、ここはそっとして──、
「お嬢って下僕が言う言葉じゃないの」
「い、いやいやいやいや! そんな言葉じゃないだろ!?」
シュテルンが変なこと言い出すので、急いで訂正する。
幸いアイチは気にしていないらしく、「これからみーのことは、アイチお嬢と呼ぶぞよ!」とにのまるの背中を叩く。
「ぼ、ボク……下僕…………!?」
「にのまるもにのまるで真に受けんな。
冗談だって、じょーだん。」
「何言ってんの? 冗談なわけ──」
「はい! いったんこの話ストーープ!!」
など、そんなことをしていたら食器は空になっていたので、各々が食器を洗う。
そして、皆がそれぞれテレビを観るなり自室に籠るなりの行動に移ろうとした時、アイチが重要なことに気がついた。
「そーいえば、シグレのあだ名、まだ付けてなかったぞよ!」
そういえば忘れていた。
涼風時雨に目を向けると、「ちっ、バレました……」と舌打ちしている。
結局、一波乱起きそうであったものの、涼風のあだ名、ニックネームは単純に下の名前で、「時雨」ということになった。
ちなみに、存在が空気だったのか話題に上がることが無かった俺は、アイチが勝手に言っているあだ名をそのまま流用する人(アイチ、シュテルン)、普通に苗字で呼ぶ人(にのまる、時雨)という感じになった。
みんなお開きになり、それぞれの部屋に行ったり外出したり、各々の行動をする。
いつかはみんなでテレビとかみて談笑とかするのだろうか。
想像できねぇ……。
俺はアイチが街を見てみたいということで、外出した。
外の風景はTHE・TOKAIという感じで、果てしなくビル群が続いている。
中央の大通りや主要道路以外はアストラムラインではなく、地下鉄で繋がっているし、バスも走っているため交通の便はいい。
ただ、どこに何があるかなんて来たばかりだから分かるわけもないし、分かりやすく書かれた地図を見ても、そもそも街の規模がでかすぎてよく分からない。
しかし何故かアイチには理解できたようで、「こっちぞよー」と俺を引っ張っていく。
アイチに引っ張っていかれた所には、大きなショッピングモールのような、商店街のような場所であった。
入らなくても入口から見ただけで分かる。
この規模、東京ドームがどんなところか分からないけれど、それが丸々2つ以上入ってもおかしくないのでは無いか? と思うほどに大きい。
まるでここだけでこの街全体の需要と供給をになっているような……。
……にしても、
「……こんな偶然、あるんだな」
俺は思わず呟いた。
なぜなら商店街の入口で、既に時雨とにのまるが対峙していたのだから。
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