4. 事業に SDGs を組み込むには (2)
SDG を事業に組み入れる手順の続きである。ステップ 3 からお送りする。
ステップ 3: 目標を設定する
試算に基づいて、何をいつまでにするのかを決定する。例えば、ステップ 2 の結果、紙の本からの炭素排出量を減らすことが最優先課題だという結論に至ったとする。その場合、SDGs の目標年である 2030 年時点で基準年の排出量に比べて何%減らすのかという目標量、2030 年に至るまでの中間目標を設定する。このステップで重要なのは、単なる数値設定というよりも、実現可能だが緩すぎない目標を設定し、目標に至るまでのモチベーションをどうやって保つのかという戦略を決める側面が強い。
2015 年と 2020 年の紙からの炭素排出量がそれぞれ 1050 万トンと 900 万トンだったとする。排出量を 50% 削減しようとした場合、2015 年を基準年にすると 525 万トン削減しなくてはならないが、2020 年を基準年にすれば 450 万トンで済む。ここで、じゃあ 2020 年を基準年にしようと思うと、そうは問屋がおろさない。
このステップで「アウトサイド イン アプローチ」という言葉が出てくる。目標を決めるのに「インサイド アウト アプローチ」より「アウトサイド イン アプローチ」を取れ、という。なんだろうと思って調べてみたら、「インサイド アウト アプローチ」は自分が今できることに基づいて目標を設定することをいい、「アウトサイド イン アプローチ」は世界のニーズに基づいて目標を設定することらしい。
もう既に炭素排出量は徐々に削減されているのだから 2020 年を基準年にしてこつこつ 450 万トン減らそうとするのが「インサイド アウト」。そうではなくて、自社の排出量を減らしつつ、世界のニーズである地球温暖化防止に更に貢献するために、2015 年を基準年にして 525 万トン減らすのが「アウトサイド イン」となるらしい。インサイド アウトであれば 2030 年時点での排出量は 390 万トンになるが、アウトサイド インなら 315 万トンとなる。そのままのアウトサイド インのペースで進めれば、2035 年には排出量が 0 になり、いわゆるカーボン ニュートラリティを達成できる。これは 2020 年を基準にした場合より 2 年早い。このあたりがちょっと背伸びした実現可能な目標の設定の仕方のようだ。
目標を決めたら、SDGs へのコミットメントを公表する。言ったからにはやらなきゃいけないってことだろう。社員へ周知することにもなるし、社外のステーク ホルダーと協業したり、株価対策にもなる。
ステップ 4: 経営へ統合する
ステップ 2 で SDGs に向けてとるアクションが決まり、ステップ 3 で最終目標と中間目標が決まったので、日々の仕事にどうやって組み込んでいくのかを決める。
まずは社内での目標の定着である。経営陣が旗振りをして社員に SDGs の重要性と日々の作業でアクションをとることを啓蒙する。すべての部門で実行することも大切だ。
ステップ 3 で述べたように紙からの炭素排出量を減らすのであれば、再生林から伐採された木材で出来た紙を使い、かつ使った紙の分量以上の再生林を増やすようにする。具体的には、印刷会社に再生林認証を受けた紙で印刷するように依頼したり、再生林事業をしている会社を探して植樹に投資したりする。社内で使う紙にも再生紙や再生林認証済みの紙を使ったり、紙のサプライヤーがそういう製品を取り揃えていなかったら取り扱うように働きかけたりするのも必要だ。サプライヤーに働きかけるのもそうなの?と思うかもしれないが、SDGs のゴールはバリュー チェーン全体で達成するものなので上流・下流すべての協力が必要だ。
ステップ 5: 報告とコミュニケーション
社内外に SDGs への目標努力を公表したり、進捗を報告したりする。ここで重要なのは、正しい手順に則って進捗の測定と報告を行うことだ。これは、報告された内容が世界的な SDGs の進捗具合を把握するためのデータとして取り込まれるからだ。
例えば SDGs の目標達成のために再生林の増加に貢献している企業は何社もある。これらの企業の進捗を合わせて、世界の SDGs の進捗を把握しようとしたときに、各社の進捗の測り方がばらばらでは困る。また、報告の内容に一貫性が無くてデータに抜けがあっても困る。ということで、これを統一化するイニシアティブがある。業界標準を謳っているのが Global Reporting Initiative (GRI。正式な日本語名は無いようだが、「世界報告機構」とでもなるだろうか) だ。SDG コンパクトでも GRI の 10 原則を用いることを推奨している。10 原則とは、ステーク ホルダーとの協業、持続可能性を常に視点に入れること、マテリアリティ (重要性)、網羅性、バランス、 (データなどを前後で) 比較できること、正確性、タイミング、明暸性、および信頼性だそうだ。この 10 原則は、企業の全般的なコミュニケーションにも有用らしい。
GRI 以外にも、炭素排出量に特化した Carbon Disclosure Project (CDP) や、人権についての情報開示ガイドラインである国連指導原則報告フレームワークなどがある。
報告は、いわゆるサステナビリティ レポートに記述するが、これだけでは自己申告なので信憑性がない。しっかり SDGs やってますアピールをするには、これらのイニシアティブに登録して、データを提出する。これが大事(おおごと)なのだ。数十ページにわたる質問に答えるほか、チャートなども作る必要がある。しかも、質問そのものは日本語版があっても、提出は英語。ESG 株価と信用を得るのは大変だ。
以上で、SDGs の基本は学んだ。次の章でこれまでに学んだことをまとめる。
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