4. 事業に SDGs を組み込むには (1)

 では企業が SDGs を自社の事業に組み込むにはどうしたらいいのだろうか。その手順を記したものが 「SDG コンパス」(*9) である。SDG コンパスは SDGs を政府側からと経済側から推し進めたい 3 団体が作成した(*10)。SDG コンパスには、SDGs が企業にとってなぜ重要か、どうやって経営に組み込めばいいかが手順を追って書いてある。ELEMINIST というエコ系の情報発信サイト(*11) にこの手順がとてもわかりやすく説明されているので、ここで読むよりささっと知りたい方はぜひ読んでほしい。


 SDG を事業に組み入れる手順を以降に説明する。手順は 5 ステップになっている。結構長いので分割してお送りする。


 ステップ 1: SDGs を理解する

 会社の経営陣がまず SDGs の内容と目的を理解する。

- SDGs とは何なのか: ミレニアム開発目標に基づいた、環境と社会で実現しようとする 16 の目標を理解する。ざっくりまとめると、貧困と差別の解消、健康で安全な環境の確保、健全な経済の仕組みの形成、および就学機会の提供となるだろう。

- なぜ SDGs に取り組む必要があるのか: 新しい事業機会を創出できる。SDGs に貢献していることで企業価値が高まる。社会と良い関係を保つことで社会的な信用を得られる。SDGs を通じて社会が安定すると事業も安定する。SDGs という共通意識を持つことで、様々なセクターと協業しやすくなる。

- 企業責任の意義: 今日の事業の社会的な影響と倫理的な責任を理解する。また、企業責任を果たすにはコストがかかるが、企業価値の向上や信頼の確保で相殺できる。


 ステップ 2: 優先課題を決定する

(ここから先は、本当に面倒くさそう。SDGs はお金のある企業じゃなきゃ出来ない、という話があるが確かにそうだと思う。これほどの時間と労力を割いても、リターンが得られるのは国際企業くらいだろう。)

 自分の会社が SDGs のどこに貢献できるのかは、会社によって違う。この手順では、自社のバリュー チェーンが SDGs のどの目標に関わるのかを洗い出す。バリュー チェーンとは原料の生産・入手から製品の生産・流通・利用・廃棄までのすべての過程を指す。出版業の紙の本であれば、作品の発掘から本の印刷・流通、古本の廃棄までとなるだろう。自社のバリュー チェーンのどの部分で SDGs に貢献できるかを見つけ出すことをマッピングという。マッピングできたら、誰がそれに関連するのかも洗い出す。関わりのある人々はステーク ホルダー (stakeholder) と呼ばれる。Stake というのは利権、holder は保持者。ここでは、本ができるまでの過程で何らかの関わりを通じて利権を持つ人のことを指す。この範囲は意外に広くて、例えば出版社がコンテンツを探す対象となる小説投稿サイトを利用している人は、ユーザー登録をしていてもいなくてもすべてステーク ホルダーである。

 さらに、何をどれくらいしたら、どんな影響をもたらすことができるのかを具体的な数字で試算する。例えば、出版業で紙の本に使われる資源に注目して環境に貢献しようと考えた場合、毎年何トンの紙とインクを使っているのか、それに使われる木材の量や化石燃料の量、流通にかかるコストや炭素排出量はどれくらいかを調べる。このうちの紙資源に再生紙を使うとした場合、再生紙が出来上がるまでの資源量や炭素排出量も含めて、自社の投資額を調べる。インクは植物性にするとか、デジタル化したらどうかとか、様々な事例を洗い出して、各事例で最終的に投入する自然資源や炭素排出量を何トン減らせて、それが全世界の消費量の何%なのかまで計算する。

 環境以外にも、社会の分野でも SDGs に貢献できるか調査する。例えば、目標4 「質の高い教育をみんなに」に貢献するために、オンライン授業のノウハウや技術を海外に輸出するなども考えられる。または、日本国内でもコンテンツを多言語化して海外からでも受講できるようにするなどが可能かもしれない。これも投資と効果を具体的な数字に落とし込んで検討する。

 そうして何件か案を出して、一番社会的に影響があって実現できそうなもの、かつ自社の利益にも結びつくものを優先課題として抽出する。


 ステップ 3 からは次章に譲る。




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