第6話 あははは、そっか、私……捨てられちゃったんだぁ

「な、なんて、やつだ」 


 聖剣エスカーナに電撃をあびせられた俺は身体を回復させるまでに、一時間以上もの時間をかけてしまった。


 あれから聖剣エスカーナは、妄想の世界に踏み込んでしまったのか戻ってこない。ずっと独り言を呟いているようだ。


『……夕日をバッグに、後ろからやっちゃいますか? 竜也さんが、お望みでしたら、わたし……』


 エスカーナは、いつになったら、独り言をやめるんだ。こちらから、話しかけても全くうんともすんとも言わない。


「はぁ~」


 俺は、ため息をついた。


 俺は熊について再び考えることにした。


 いつまた、熊とエンカウントするか分からない。対策を練ったほうがいいだろう。


「……蜜か」


 メガネで調べたところ、この森に出没するモンスターの大部分は熊が占めているようだ。蜜があれば熊に襲われた時、役に立つかもしれない。とりあえず、周りの木から探してみるか。木に登るのは久しぶりだな。こいつは、どうする?


 聖剣エスカーナには鞘がついてなかった。抜き身の状態になっている。聖剣エスカーナをじっくりと俺は眺めた。見るだけで魅了されてしまう、それほどの美しさを持った剣だ。刀身に触れただけで木の葉が真っ二つになるほどの鋭さ、切れ味がある。数舜おいて、俺は聖剣エスカーナの刀身を見て俺は青ざめた。


「…………」


 この刃が、いつ、俺に向かって振り下ろされるか分からない。ああ、想像するだけで恐ろしい。


 俺は唾をごくりと飲み込んだ。


 さすがに、剣を持ちながら木に登るのは危険だな。


 俺は、また恰好よくポーズを決めメガネをかけ直した。


 うむ、大きめの鏡も必要だな。ポーズの種類も増やすことにしよう。敵を探知してみたが、この周辺には敵がいないようだ。あの木が近いな。


「おい、エスカーナ、蜜を探してくる。ここで少し待っていてくれ」


 切り株の上に聖剣エスカーナを置いて、俺は蜜を探すことにした。


◇◆◇


 エスカーナは妄想にふけていた。


『二階堂竜也の栄光ですか? 私も見て見たいなぁ。私も竜也さんと同じように日記を書いているんです。もちろん、竜也さんが私に、あんなことやこんなことをする未来日記です。最後は、竜也さんと私がゴールインするんです。小さな教会で……えへへ。ハッピーエンドに仕上げましたよ。見たいですか? タイトルは、≪旦那様へのご奉仕日記≫なんです。最近、読んだ雑誌に外でエッチすると、すっごく気持ちいいって書かれていたんです。竜也さん……野外プレイに興味はありませんか? その後のエピソードを日記にしたいので協力してくれると嬉しいです。えへへ。竜也さんを受け入れる準備はできていますよ。もうアソコが、とろとろなんです。私のアソコがうずいて……もう、ビショビショなんです。だから、今すぐしましょう。激しく抱いてほしいなぁ。私の本当の姿を今、見せますね。ってあれ? 竜也さんがいない。そんな……嘘だよね……まさか……私は捨てられた? 竜也さんどこ? 隠れてないで出てきてくださいよぉ。……竜也さん……」


 辺りに静けさが訪れた。


 静けさの中……、風の吹く音だけが聞こえる。


『…………』


 しばらく無言だったエスカーナが、ぼそりと呟いた。


『あははは、そっか、私……捨てられちゃったんだぁ』


 そのとき、聖剣エスカーナから激しい光が解き放たれた。光が消えたとき、そこには、銀色の髪の美しい少女が立っていた。なぜか少女は、衣服を身につけておらず、生まれたままの姿であった。


 ふらつくような足取りで少女は、どこかへ向かおうとしている。その目はまるで、人生に絶望し自死するのではないかと疑うほどに生気がない、目のハイライトが消えていたのだ。そして、手には包丁が握られていた。


 少女の身体から冷気のようなものが、ゆらゆらと立ち昇っていく。その冷気に触れてしまった草花は凍りつき、風が触れた瞬間、パキンッ!! と、砕け散った。


「えへへ、竜也さんに捨てられちゃった。こんなに愛してるのにおかしいよぉ。竜也さんは私のモノだよね? ずっとずっと離さないんだから。そっか、竜也さんは悪くないよ。きっと、竜也さんの手と足が邪魔をしているんだね。私と竜也さんの邪魔をするなんて許せないなぁ。あっ、あっちから竜也さんの匂いがする。えへへ、今からソイツを殺しに行くね。待っててね、竜也さん」

 

 少女は、見えない誰かに笑みを浮かべていた。しかし、目が笑っていなかった。そして、ふらふらと竜也の元へと歩き出した。


 そして――


 彼女が通りすぎた道には、凍りづけにされた獣たちにペロペロ熊さん、草花が発見されるのだった。


★★★


 あれから、俺は蜜を探し続けた――


「やはり、ないか」 


 結局、見つけることができなかった。


「っぅ、寒いな」


 急に温度が下がったのか。


「なんだ?」


 草を踏む音、いや、これは……、何かが砕け散っている……、そんな音だ。どうにも胸騒ぎがする。音がやんだのか?


「えへへ~♪」


 俺の額から大量の汗がふきだした。


 振り向いてはダメだ。俺の人生が、いや命にかかわることだ。振り向かずに、ここは走って逃げるべきだ。だが、俺は、プレッシャーに耐えることができず、振り向いてしまった。


「だ、だれだ!?」


 後ろを振り向くと――


 抽選会場で出会った少女が、笑みを浮かべながら、俺の背後に立っていた。なぜか手には包丁を握っている。


 目の錯覚か? 彼女は服を着ていない。


 ま、丸見えじゃないか。


 俺は彼女のアソコに釘付けとなった。とうとう、俺は蜜を見つけることができたようだ。そう、彼女のアソコから垂れ流れる蜜を……


「えへへ、竜也さん、みーつけたぁー!」

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