やっぱりミルクティーしか勝たん!!!
「……あのー、良ければ私が代わりに……言いましょうか」
「そうしてくれ!」
男性も予定外でテンパっています。普段なら自分でそこまで行って、手を挙げさせるはずだったのでしょう。
「わっ……わか、分かりました」
「えー。ココアちゃん、何でそいつと話してるの~? ただのかまちょじゃん、そいつ。それかぁただの意気地なしか」
まさかの発言。彼が手に持っているものが見えていないのでしょうか。
「なっ……! てめぇ、もう一回言ってみろ!」
この様子だと何をしでかすか分かりません。早く説得しなくては。
「なっ……何……言ってるんですか! 相手は拳銃持ちですよ。大人しく抵抗せずにした方が」
「相手にする必要なんてないさ。マカロン君」
そう口にしたのは伊集院さんでした。と同時に一斉にみんなが振り向きました。
「やっぱり、分かっていたのは私達だけだったみたいね」
「しょうがねぇさ。相手もそれなりに演技が上手いからな」
ほのかさんはにんまりと笑いました。
「あんた、それ本物の拳銃じゃないでしょ」
「はっ……はぁ?!」
そう言った途端にほのかさんは吹き出しました。
「あっはっはっは。いや~まさか日頃YouTubeで色々見ていたのが、役に立つとは思ってなかったよ~」
「どっ……どういうことですか」
「これは至って簡単なトリックよ。まず拳銃を撃つ音をいつでも流せるように、セットする。そしてタイミング良く拳銃を上に向けて撃ったようなポーズを取る。と同時に薬莢を落とせば完成ってわけよ」
「なっ……なるほど」
そんなトリックだったとは。全く気付かなかった。
「お前ら……、全員これが分かってたのかよ……」
確かに。何も気にしなかったということはそういうことになります。
「ほんの少しだけ薬莢が落ちるのが遅かった感じがしたから、それで分かったわ」
「同じく、ほんの少し音質が悪くてそれでトリックが分かったのさ」
「ほのかちゃんと同じ理由で俺も分かったぜ」
なんだこの天才集団は。それとも私が愚かだったのだろうか。
ちなみにこの騒動に巻き込まれているのは私達だけです。
何故かここは人通りが少なく、誰も気づいていないようです。
「んで、あんたはどうしてこんなことをしたわけ」
「俺を警察に突き出すのか」
「質問に答えてちょうだい。とりあえずあんたが何でこんなことをしたのか。まずはそれを聞きたいだけよ」
男性はチラッとほのかさんが持っている大量のミルクティーを見ました。
「……もしかして、これが目的なの?」
コクリと静かに男性は頷きました。そして何故こんなことをしたのか話し始めました。
彼の話はこうです。上京してから会社で働いていました。でも去年の冬に倒産してしまいました。
それからは職に就くこともなく、バイトをして毎日をしのいでいました。
しばらくはバイトをきちんと続けていました。
けど働くのが馬鹿らしくなり、一か月前にやめてしまいました。
そして数日前に電話がかかってきました。相手は彼の母親でした。
両親には会社が倒産したことを伝えてませんでした。心配をかけたくなかったからです。
とても元気そうでした。久しぶりに声を聞いて、つい涙を零してしまいました。
母親だけでなく、父親とも会話をしました。二人とも特に変わりはなかったです。
そう、変わってしまったのは自分だけ。でも会話をしていて楽しい気持ちに嘘はありませんでした。
話をしていると、数日後に発売されるミルクティーの話になりました。
彼の実家は田舎で発売してから一ヶ月遅れほどで、入荷されるらしいとのこと。
そこで発売当日に手に入れて自宅に送ってくれないか、と言われました。
正直に言って、そんな余裕はなかったです。家賃も払えるか払えないかくらいの所持金なのに。
でも働き始めてから、それらしい親孝行をしたことがなかったのです。
だからこそ今回は是非とも、どんな手を使っても成し遂げたい。
そう思ったのでした。
そこでテーブルの上に転がってある、エアーガンが目に入りました。
数年前に夏休みの屋台の景品で当たったものです。それを見て一つの案が思いつきました。
これで脅して手に入れてしまえばいいと。
しかしただ脅すだけではきっとこれ本物ではないと。すぐにバレてしまうでしょう。
何か小細工をしないといけません。ふと会社の忘年会で当たった景品のことを思い出しました。
貰った時はどんな使い道があるのか、なんて思っていました。
まさかそれが今になって使い道が思いつくなんて。それは薬莢そっくりの形をした金属です。
3個、箱の中に入ってありました。いわゆる、なんちゃってグッズってやつです。
こんな都合のいいことなんてあるのか、とつい笑ってしまいました。
まるで自分がそうするのかを神様が読み当ててみたいです。
ということで彼は計画を実行に移したのでした。
思ったより複雑な事情に誰もが何も言わずに沈黙としていました。
その状況をぶち破ったのがほのかさんでした。
「じゃあ、ミルクティーあげるよ」
誰もが彼女のことを見ました。
「いっ……いいのか……。俺は犯罪者だ。だからこれから刑務所にぶち込まれるから意味がないぞ……」
「え、通報なんてするわけないじゃん。別に人を傷つけたわけでもないし、マジで銃をぶっ放したわけでもないし」
きょとんとした表情のほのかさん。
まさかの解答に最初はみんな少し動揺をしていましたけど、みんな賛成してくれました。
「そうね。それでいいと思うわ」
「刑務所に行くと今後の人生に不利になるのは確実だからね。僕も彼女に賛成さ」
「そもそも俺らは何もされてないしなぁ。マカロンちゃんがちょっと怖い思いをしただけで」
ほのかさんが私の元に近付きます。
「それで? ココアちゃんの意見は」
「わっ……私ですか……」
「そっ、私達は何もされてないもの。ココアちゃんはちょっとだとしても怖い思いしたから、あなたに一番権利があるわ。さぁどうするの」
確かに、他のみんなは何もされていません。だから私が決める権利がある……ですか。
ほのかさんがそんなこと言い出すまでは、もう通報しかないだろうなと思っていました。
でも言われてみたら彼はただ銃で脅しただけ。実際に撃ったわけじゃありません。
それだけで刑務所に行くのはあまりにも酷ではないでしょうか?
それに動機も親を喜ばせたいからという理由です。
やり方はいささかどうかと思いますけど。
何より刑務所に行くということは、自分の人生に罰がついてしまうようなものです。
今後の人生が圧倒的に不利になってしまうでしょう。それはあまりにも可哀想です。
今回は見逃してもいいかもしれません。
「……私も、皆さんと同じ意見です」
「ほっ……本当かっ!」
「はい、やり方は少し良くないと思いますけど。少し怖い思いはしましたけど、通報はしません」
そう言うと男性は土下座をしました。まさか通報されないなんて思わなかったからでしょう。
「やっぱり、ココアちゃんならそういうと思ったよ。じゃあ私からもう一つ条件、追加してもいい?」
「大丈夫ですよ」
「hey.boy」
何故に英語なのでしょうか。しかも相変わらず流暢です。
「ココアちゃんが言っている通りに私達は何もしないわ。その代わりに」
男性の視線に合わせる為にしゃがみました。
「ぜっっっったいにきちんと親御さんに会いに行って、これを渡すのよ。これが私の条件」
「そ……そんなことでいい……のか」
「そんなことって……あ・ん・た・ねぇ~。そんなことで親御さんは喜ぶのよ! 電話で声を聞くのもいいけど、やっぱり実際に会って色々とお話したいものよ。あ、きちんとお仕事のことも話すのよ。心配させたくない気持ちも分かるけど。やっぱりきちんと伝えなきゃ。秘密はいずれ何かしらの形でバレるのよ。それだったら自分の口で言った方が良いでしょ?」
「そ……そうだな。でも就職先は決めたから行きたいな……」
「そういうことなら安心しな! とりあえずあんたをバイトで雇ってあげる」
そう言うと男性はサングラスを外しました。
ぱっちりとした二重。先ほどまでの行為をしていたのが、嘘のように思える瞳でした。
「ほ……本当に……いいのか……」
「ちょうど助手みたいな人が欲しかったからね~。あんたも私も助かってwinwinじゃん? 就職はまだあんたの働きぶりを見なきゃ判断できないけど。何も決まってなくて親に会いに行くよりマシでしょ」
「ありがとう……。これで親に会いに行ける……」
「お金はあんの」
「お金は……少し厳しいけど、あんたの所で働かせてもらって稼いでから会いに行く」
「それじゃあ結構時間かかりそうね~。給料前払いするわ。それで来週にでも一旦故郷に帰りなさい。……待って、ちょっと時間やばそうじゃない?」
時刻は14時半を指そうとしていました。だいたいの銀行は15時で閉まってしまいます。つまり……。
「時間がないじゃん!!!」
「これは緊急事態だね、とりあえずみんなで車に向かうとしようか」
「そうね、ショッピングはまたの機会ねぇ」
「非常事態だからな、善は急げだぜ」
満場一致。買い物はまたの機会ということで、車に乗り込むことになりました。
車中にて。
「ごめん! 今日のお泊まり出来なさそう」
と手を合わせて謝られました。
「別に大丈夫ですよ。またお互いの都合の合う時にしましょう」
「あ~り~が~と~! それでね、お泊まりはなしになっちゃったんだけど、ホームページを作って欲しいの。私のパソコン貸すからさっ」
「他の皆様を送り届けてからで良ければ、私がそこまで行きますよ」
と爺やさんが。それは有り難いです。
「私達は別に後からでいいわよぉ。それより銀行行ってから、この子を駅まで送り届けて。そしてそのままほのかちゃんの家まで直行すればいいわ。急ぐことなんて何もないしね。もう今日は休みにしてるから」
「まぁ困ったときはお互い様ってやつだ」
「僕も家に帰ってすることはないから大丈夫さ。そう言えば気になっていたことがあるのだけど」
そう言うと私の方を見ました。
「何で君は制服を着ているんだい」
まさかの質問です。そう言えば花森さんは今日は学校のはずなのに、タキシードを着ています。
お休みしたのでしょうか。
「今日は始業式だったから……着ているのですけど……」
彼は首を傾げました。
「おかしいな。今日は学校はまだ休みのはずだけど」
「ココアマカロン様。学校は来週の月曜日からですよ」
「……え?」
いや言われてみると確かに学校へ連絡した時。先生が少し困惑していたのを思い出しました。
通りであんな反応をしたわけです。
「……えええぇぇぇぇっ!」
後から驚きのリアクションが出ました。我ながらに大きい、私の声が車中に響き渡ったのでした。
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