人生で初めて美味しく飲めた紅茶が、ミルクティーでした
私達の目的地は一階。エスカレーターを使わずにただ無心に、ひたすら降りていきます。
その様はただ降りることしか能がない生物の如く。
あのほのかさんでさえも真顔でした。ちょっとみんなの様子にひいてしまいました。
ちなみに爺やさんは車の中で待機しておくとのこと。
何か用事があれば連絡して下さいと、車に乗っていた全員に連絡先を教えてくれました。
すぐに一階にたどり着いきました。あっという間でした。
「あっという間だったね~」
一番最初に口を開いたのはほのかさん。
そこから次々と何事もなかったかのようにみんな喋り出していきます。
「ここまでが思ったより長かったぜ」
「まぁここでまだあるとは言い切れないけどね」
「確かに。言い切れないけど高確率で、まだここにはあるはずさ」
みんな、スイッチの切り替えが早いようで。
階段を降りていた時に誰も話さなかった一体感。
これは初めて会った人たちが簡単に出来る行動ではないです。
実は知り合いでしたとドッキリをされた方が信じられます。
ただそれらしいカメラなんてないから、本当に初対面なのでしょう。
こんな出来事や人間関係ってドラマやアニメの中だけだとずっと思ってきました。
勉強をして友達とそれなりに遊んで、いつの間にか3年生になって。
そして大学に行ってどこか分からないけど、それなりに名の知れた企業に就職する。
いつの間にか未来はそうなるのだろうと思っていました。
テレビに流れているニュースや番組を見て、勝手にそう思い込んでいた。
でも、それはただ思い込んでいただけ。よく考えてみれば、夢を叶えている人だっています。
たまたまテレビで流れている番組の内容で覚えていたのがそんな人達だけで、他にも色んな人のことを放送しているというのに。
人生って思ったより、なんとかなるかもしれません。案外楽しいものかもしれません。
自宅の祖父母のことで疲れ切って悩んでいた数時間前が、はるか昔のように感じます。
「私も……この人達みたいに……自分を出せるようになるかな」
誰にも聞こえないような声で一人呟きました。
「ん、どったの~。ココアちゃん、体調悪いとか疲れたとかそんな感じ?」
「あっ……。いえ、大丈夫です。至って健康ですよ。さぁ早くミルクティーを買いに行きましょう。こうしている間に、なくなってしまうかもしれませんよ」
「それは困る! よ~し、行くぞ~」
目の前に広がっているスーパーへと私達は向かっていったのでした。
想像以上に店内は広かったです。今まで来た中で一番と言えるくらいに。
全体的に野菜売り場といい、お菓子売り場といい、たくさんのものが置いてあります。
「ここに来れば、だいたいの有名な輸入品も手に入ったりするのさ」
歩きながら伊集院さんがそう教えてくれました。
そんなに遠くない距離で、輸入品が簡単に手に入る場所があるとは。今まで知りませんでした。
もしかしたら自分の町にも、そんな店があるかもしれませんけど。
そう考えると、私は今まで少しでもいつもとは違う行動を全くしていなかったな、ということに気付きました。
予定調和なことしかしていなかったなと。
何より、予定外のことが起きることが嫌でした。
だからだいたいのことはいつも穏便に済ます為に、笑ったり主張したりせずにやり過ごして来ました。
その結果が今日の有り様でしょうう。
嫌だなと思った時からきちんと伝えていれば、限界になることはなかったはずです。
『我慢しなくていいんだよ』
駅でそう言ってくれました、ほのかさんの声が脳内に響きます。他にもこの後に言葉を言っていましたけど。
その部分だけがもう一度、再生されました。
……我慢ですか。確かに私は生きてきて16年間、数えきれないほど我慢をしてきました。
どんなことに我慢したか、なんて数えきれないくらいに。
少しずつでいいから自分の意見を主張していきましょう。その方がきっとお互いの為になります。
「あっ、あれじゃない?」
少し数メートルほど離れた真っ直ぐの方向に、新発売と大きく書かれたペットボトル飲料が置かれてありましたた。
そしてその文字の下には大きく、私達が探し求めていた商品名が書いてありました。
周りには全然人がいなかったです。商品は綺麗にケースの中で真っ直ぐと列に並べられていました。
「想像以上にありますね! 皆さん、良かったで」
言葉を言い終わる前にみんなは駆けだして行きました。その様子はまるで風の如く。
本当に事前に打ち合わせしているのではないかと思ってしまう程の団結力。
私のことには気づかず盛り上がっています。それ程に見つかって嬉しかったのでしょう。
一人ゆっくりと歩きながら向かいます。何を話しているかは分からないけど喜んでいる様子が見えます。
ただ一人だけ予想外の行動を取っていました。一人だけと言えばだいたいの方が分かると思います。
そう、ほのかさんです。
他のみんなは各々に、会話しながら1本か2本を手に持っています。
それに引き換え彼女はいつの間にかかごを手に持っていて軽く10本以上は入っていました。
……そんなにいるものでしょうか。つい疑問に思ってしまいます。
「あら、ほのかちゃん。そんなにいっぱい入れちゃって。全部一人で飲むの?」
おばさんが聞いてくれました。伊集院さんの時と言い、代わりに聞いてくれて有難い限りです。
疑問に思うのは思っても全然口にすることはないですから。
「そうだよ~ん。ほとんど一人で飲むつもりっ! あとはお客さんとか友達に出したり、かな~」
「なるほどね。それなら納得だわ。あら、ごめんなさいね、ココアちゃん。つい夢中で忘れちゃっていたわ」
おばさんがやっと存在に気付いてくれました。
別に気にしていなかったけど、やっぱり気付いてくれると嬉しいものです。
「大丈夫です。皆さん目的の品が見つかって夢中になってしまう気持ちは私にも分かりますから」
「あら、そう? それなら良いのだけど。思ったことは素直に言っていいからね。おばちゃん、伊達に生きてるわけじゃないから」
と言い終えてからウインクをしました。
この人もほのかさんほどじゃないけど、心が若く感じます。
素敵な歳の取り方をしています。
私もとりあえず何本か取ろうとした時です。
銃声が近くで響きました。と同時に何かが落ちた音が聞こえました。きっと薬莢でしょう。
後ろを振り向くと拳銃を持った男性がいました。サングラスにマスクをしていて素顔が見えません。
その近くの床には予想と同じものが。
サーっと血の気が引きました。
「えっ……」
「おっと。とりあえず手を挙げてもらおうか。無駄な抵抗はしない方が自分の為だぜ」
「はっ……はい……」
どうすることもできずに私は手をゆっくり挙げました。
「……ん?」
あれ。待って、何で私だけ手を挙げているのですかね。他のみんなは何をしているのでしょうか。
「おい、そこのお前らも手を挙げろよ! 聞こえてるんだろ」
ガン無視。声の様子を聞くからに、談笑をして楽しんでいると思われます。
一体この状況をどう考えているのでしょうか。命が惜しくないのでしょうか。
そもそも気付いていないのでしょうか。色んな考えが頭の中を過ぎりました。
散々考えた上で、これは言うしかないという結論に至りました。
ちなみにこの
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