四話ノ二(選択肢2を選択)

 メナータさんは唖然としながら、俺のことを見ていた。レヌは「お兄さん!?」と口にして、青い目を見張っていた。


 身体の中を熱気が蹂躙してゆく。俺はうずくまった。激痛に支配されてゆく。声を漏らす。


 痛い。

 痛い。

 痛い。

 痛い。


 痛……く、ない。


 気持ち、いい。

 気持ちいい。

 気持ちいい。

 気持ちいい。


 そんな気持ちよさも、段々と、収まっていった、ので――


 ――俺は、顔を上げた。そこには二匹の【人間】がいた。見覚えがある気がしたが、どうでもいいことだった。


 何故なら【人間】を見た瞬間、俺は狂おしいほどの殺意に支配されたから。今すぐに【人間】を殺さなくてはならないのだと、本能的に理解した。


「あああ……私の、私の【雪月ノ命】を、よくも……よくも! 返しなさい……!」


 一匹の【人間】はどうしてか、ひどく苛立っているようだった。【人間】は何やら言葉を紡いだ。紅蓮の炎が浮かび上がったが、その熱気は心地のいいもので、何ら害はなかった。


 俺は少し癇に障って、その【人間】を引っ掻いた。血飛沫が舞って、その【人間】はどさりと倒れ込んだ。その赤い液体を見て、香りを嗅いで、浴びたことで、俺は言い表しようのない恍惚に支配された。


 もう一匹の【人間】に、ゆっくりと近寄った。【人間】は、口を開いた。



「お兄さん……」



 オニイサン?


 その響きはどうしてか、俺の心をざわつかせた。オニイサン。オニイサン。オニイサン……イモウト? イモウト……レ、ヌ。レヌ? レヌ? レヌ。レヌ……


 ……ああ、どうして忘れていたのだろうか。


 この【人間】は――レヌは、俺にとってどうしようもなく大切な、ひとだった。


「お兄さん……わたしですよ、大丈夫、大丈夫ですから……」


 レヌはそう言って、俺に歩み寄ろうとする。その肉が近付いてくるだけで、俺の心は凄まじい程の殺意に蹂躙された。頭がおかしくなりそうだった。


 俺は、口を開いた。


【しあわせに、いきて――】


 レヌの表情が、歪んだ。俺は四本の足を動かして、走り去った。



「お兄さん……待って、行かないで……!」



 そんな声も、すぐに聞こえなくなった。


 雪の降る町を駆けながら、俺は咆哮を上げて、どこか遠いところ――レヌを殺さないで済む場所――へと向かった。



―― END2 雪行ノ猛獣

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