気温だけ見れば、いくらか暖かいはずだった。

視界に入る雪の量は明らかに減ったが、波のようにうごめく人の波が視界と脳を埋め尽くす。


ここのところで見かけた人の何倍もの数が一視界に入り、自分が生きているのかすらはっきりとしない。

他人の人生を見たり考えたりすると、自分の人生が急激に色あせてしまうような感覚を覚える。

そういう意味でも、自分の視界は冷え切っている。


逃げるようにして入った細い路地にも、人影はある。

暗く隠れるようにして煙草をふかす者、被ったフードにうっすらと雪を湛える者。


ふと、自分の身なりが気になった。

一人でいるときは、なにも考えなかったのに。


誰かがいることで、自分が二つに分かれてしまったような気もする。

分かれたら素直に別の道を行けばいいのに、付かず離れずなものだから質が悪い。


吸った空気を肺に深く突き刺して、また細く暗い道を進んでいく。

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とうひこう 川口 暗渠 @childghana

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