【後輩と迎える明日】



「……あ、やっと起きた」

「おはようございます、せんぱい。もう十時過ぎですよー? 起こさなくても大丈夫でしたよね? 今日、何も予定ないですよね? ……そうですか、良かったー」

「私ですか? 私は七時には起きてましたよー?」

「シャワー浴びて、着替えて、ご飯を作って……。それからはー……ふふん、せんぱいの寝顔を愛でてました!」

「だってせんぱい、全然起きないんですもん! ほっぺつんつんしても、耳を甘噛みしても、キスしても……。『んんっ……!』とか『……っ、ぁ……!』とか、かわいー声を出すだけで、全然目を覚まさないんですから! もー、せんぱいの方がよっぽどねこちゃんじゃないですかー。あざといなー、このぉ! えいえい!」

「……え? どこにキスをしたか、ですか?」

「そんなの、秘密ですよ! 恥ずかしいこと訊かないでくださいよー」


「ふふっ。もし、付き合うことになったら、教えてあげますよ」

「同情じゃなく心から、私を好きになってくれたなら」

「今日だけじゃなくて明日からもずっと、私を愛してくれるなら」



「じゃあ、せんぱい。私、帰りますね」

「朝ごはんはラップを掛けて冷蔵庫の中にしまってありますから、良かったら食べてください。あ、バスタオル、ありがとうございました。忘れ物はー……多分ですけど、ないと思います。もしあったら、また連絡ください」

「せんぱい。昨日は本当に本当に、ありがとうございました」


「あ、そうだ」

「……せんぱーい、ちょっと、目を閉じてください。え、なんで、って? いいですからいいですから! 私が、いいよー、って言うまで、絶対目を開けちゃダメですよ? 絶対ですからねっ!」

「せんぱーい、どうです? 見えますかー? 見えませんかー? ……何も見えない? じゃあオッケーです! そのまま目を閉じててください」


「―――ちゅっ……!」


「……はい。もう目を開けてもいいですよ」

「あ、びっくりしちゃいました? ごめんなさい、せんぱい」

「では、せんぱいに問題です。今、せんぱいの唇に触れたのは、私のこの指か、それとも私の唇か、どちらでしょーかっ!」

「分かります? 分からないですよねー? 正解はー……内緒ですっ!」

「昨日、たくさんワガママを聞いてもらった、ささやかなお礼です。もっとして欲しいですか? だーめーでーすー。これ以上は正式にお付き合いしてからです!」


「それじゃあ、せんぱい。ありがとうございました!」

「……え? 『もう帰るのか』って? 帰りますよー。これでも、とっても恥ずかしがってるんですからっ! もう、せんぱいの顔も見れないくらいに……!」



「じゃあ、せんぱい。またねっ!」


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