第4話 小さな嘘と小さな楽しみ


その日から私はリハビリが終われば彼…梵 陽斗がいる部屋へ通った。彼曰く「入院中の暇つぶし」として歌を歌っているらしい。私は少し嬉しかった。退屈していた毎日が彼のおかげで少しは退屈じゃなくなったから。今日も私はリハビリを終えたあと彼の居る部屋へ向かって歩いていた。その途中、グラリと目の前が揺れた。「……またか」小さく呟いた言葉は空に消え私はそのまま倒れてしまった。【あと何年……生きられるかな……】そう考えながら私は廊下で意識を手放す瞬間、看護師たちの慌てた声を聴きながら意識を手放した。




私が意識を取り戻したのはその日から3日後だった。私は近くに居た医師に「先生。私あとどれだけ生きられますか」と問いかけた。医師は少し困ったような表情浮かべたあと「大丈夫。まだ生きられるよ」と答えた。私は小さく頷いたあと両親の姿を探した。するとドアが開き、両親が入ってきた。

「煌……目が覚めてよかったわ」

「本当に。心配したんだからな」と両親は笑みを浮かべながら告げてきた。私は笑みを浮かべ「……ありがとう……心配かけてごめんなさい」と告げたあと「……もう来なくていいから」と付け足した。両親は驚き少し目を見開いていた。

「煌……どうしてそんなこと……」

「分かったでしょ。私はもうすぐ死ぬの。だったらお父さん達は私の事なんか忘れて2人で暮らして。」

「煌っ……!」両親は泣きそうな顔で見ていたが私はそっと目を閉じた。もう何も見たくない。そう思っていた時トントンと小さなノックが聞こえた。母が変わりに「はい」と答えれば「失礼します」と前に聞いた声が聞こえてきた。私はゆっくりと目を開けばそこには梵くんが立っていた。「看護師さんに部屋を聞いてさ。最近来てくれなかったから心配してた。」と彼は笑って言った。私は目を逸らし「……ごめん。最近調子悪くて」と告げれば彼は「じゃあ今度は僕がここに来る番だ」と答えた。両親は彼と私を交互に見たあと「煌の母です。これからも煌と仲良くしてあげてね」と母が答えた。私はその言葉を聞いて目を見開いたあと小さく「……さっきはごめん……ちょっと体調悪くてイライラしてた」と告げれば両親は気にしてないと答えてきた。



暫くした後両親が帰り病室には私と梵くんの2人だけになった。私はそっと彼を見つめ「ねぇ……あの歌歌ってよ。」と告げた。彼は頷きそっと口を開いた。その声から発せられるメロディーはとても心地よく私の心を落ち着かせた。そっと目を閉じその歌を聴いていた。すると彼は「おやすみ涼宮さん」と小さく呟いたあとサイドテーブルに何かを置き病室を出て行った。それが彼の伝言と連絡先が書かれていたと知るのは私が目を覚ました夕方だった。

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