第5話
「そうですけど、男の人が岩崎さんをほっとかないでしょう。」
「そうかしら?」
圭吾と付き会う前までは、本当にそうだった。毎日のようにご飯へと誘われたし、駅に立っているだけで連絡先を聞かれた。モテ期なんて言葉があるけれど、生まれてからずっとモテなかったことなんてなかったから、ピンとこなかった。
圭吾と付き合い始めてからは仕事にも打ち込むようになって、それからはあまり声とかけられることは少なくなった。圭吾と結婚すると思っていたから、それでいいと思っていた。だけど、現実は本当にうまくいかない。
「私も岩崎さんみたいに美人になりたいです。」
「私もー。」
聞き飽きた言葉は、頭痛を引き起こす。そんなの口先だけで、どうせ心の中では「どんなに美人でも岩崎さんみたいにはなりたくない」くらいに思っているのでしょう。軽く談笑をすると、二人が先に化粧室を後にした。
一人残された私は、盛大な溜め息を脳が引きずり出されるくらいに吐き出す。きっと私なんて、高飛車かなんかだと思われている。ただ、圭吾へ釣り合う女になりたかっただけなのに。私のすべては、圭吾への想いだけでできていた。だから、こんな気持ちのまま次の恋を探そうなんて気分にもならない。その場を堂々巡りするだけだ。
「岩崎さん、見てもらっていいですか?」
フロアへと戻ると、仕事が私を待っていた。仕事だけを頑張る日々に憂鬱を感じながらも、それを打破することができない。心の支えを失った今、私はどう生きていったらいいのだろう。
終業時刻になると、どこそこから「お疲れ様でした」と元気な声があがる。私はそんな社員らを横目に見ながら、いつも残業をする。仕事が終わっていないわけではない。一人の家に帰ると、何をしたらいいか分からないからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます