第4話
「あの……。」
「なに?」
恐る恐る黒髪ボブが話しかけてきた。これ以上怖がられるのも嫌だから、努めて優しい声色を出したけれど、自分でも驚くほど事務的な声が出た。私のそれに、茶髪ロングが両肩を震わせる。一体、前世でどんな業を積めばこんなことになるというのだろうか。
「……岩崎さんも、参加します?人数、女の子の方が一人足りなくて。」
私は「ええっ。」と声をあげながら、肩をガクッと落とした。まさか、気まずそうにしていた理由がそれだったとは。現在私が三十路の独身女ってことは、周知の事実だ。だから変な気を使わせてしまったのだろう。私は盛大な溜め息をついて言った。ついでに腕組をしたうえで右手の先で額を抱える。
「いいわよ、そんな気を使わなくて。私が行っても話が合わないでしょう。」
「分かりました。なんか、すみません。」
最近分かったことは、気を使われる方が余計に惨めになってしまうということだ。後輩の謝罪が嫌味に聞こえてしまうほど、私は荒んでいる。いや、荒まずにはいられない。どうして他人の憐れみを受けなければいけないのか。
「別に謝らなくていいのよ。私も独身だから気を使ってくれたんでしょう。」
努めて笑顔で言うと、今度はそれができた。それに後輩たちはあからさまにほっとした笑みを浮かべる。
「岩崎さんって、ご結婚されないんですか?」
そこで黒髪ボブが、甘ったるい声で爆弾を投下してきた。まだ若い彼女には、それが爆弾だと気づいていないのだろう。しかし、私はしっかりと被弾した。
「結婚は一人じゃできないからね。」
今の私の、精一杯の意地だ。結婚、したかった。もし時を戻せるなら、やり直したいとさえ思う。だけど、圭吾は違う人を選んだのだ。
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