第5話 意外な事実

 さくらにつき合っている人がいたなんて全く知らなかった。同じホテルに勤めるその彼はさくらと同じ年で、つき合って一年になるらしい。  


 さくらに結婚を打ち明けられた一週間後、彼に会った。  

 彼は家に上がると真っ先に仏壇の前に行き、真剣な表情で長々と手を合わせていた。ホテルマンらしく礼儀正しい青年だった。ケチのつけようもなく、彼との結婚を認めるしかなかった。さくらがいい人に出会えて嬉しいが、彼がさくらの事を「さーちゃん」と呼ぶたびに寂しい気持ちになった。  


 素直に娘の結婚を喜べないのは父親としての心境だろうか。僕は二人に笑いかけながら泣きそうになる。慌てて席を立ちリビング隣の仏間に行った。


 真由美に報告するふりをしながら、こっそり涙を拭った。その時、真由美の位牌の後ろに何かがある事に気づいた。何だろうと手を伸ばすと、見覚えのない位牌だった。位牌に記された文字には一年前の日付が記されていた。


 それは――僕の位牌だった。


 二人の会話が聞こえてきた。

「さーちゃんには見えるの?」

「うん」

「今も目の前に?」

「今はいないよ」

「そっか」

「見えない?」

「うん。残念だけどね。きっと、さーちゃんにしか見る事が出来ないんだよ」

「どうしてかな」

「すごく好きだからじゃないかな」

「私が?」

「さーちゃんとお父さんの両方が」  


 ハッとした。

 慌てて二人の前に戻った。


「さくら、彼に僕の姿は見えないのか?」  


 さくらの顔色がみるみる青白くなった。

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