第56話 F・サイド
彼は走っていた。風を切り、土を蹴り、空を射るように。
彼は襲いかかる大量の上位人達を無力化していた。腹を打ち、首を蹴り、脳を揺らす。そうしてバタバタと倒れていく上位人を、木の上から観察する者がいた。
「まぁたここまで来ちゃったねぇ!」
「飛んで火に入る夏の虫だ」
赤いメイクに黒いゴスロリ、爪痕のロゴが入った缶ジュースを持つマイン。全身を黒いコートで多い、片目に傷のあるオールバックのウェポン。
この2人が、この戦場における最初のフラムの相手だった。
彼女らはフラムを見ながら作戦をねっているようで、一般人を相手にしているフラムを今すぐに殺そうという気は無かった。
「あれぇ? フラムどこ行っちゃったぁ?」
観察し思考をめぐらせている時の、ほんの一瞬の隙にフラムは彼女らの視界から消えた。フラムを襲っていた上位人の群れは、1部を残してほとんど倒れている。
マイン、ウェポンが周りを見渡していると、彼女らの周囲の温度が上がった。
「『
彗星の如く現れた火炎は、周りの木々を燃やしながらマインとウェポンの乗る木を打ち燃やし砕いた。
「やっぱりお前らは来るんだな」
既に熱を帯びているレーヴァテインを構え、フラムは五天の2人を睨む。
マインはウェポンに指示を出さずに地面を指さす。それに乗じてウェポンはフラムへ大きく前進し、地に足を付けずに飛び蹴りを放った。
「俺が出る」
フラムの蒼眼は鋭利な刃のように鋭く殺気を放ち、黒くたなびく髪は燃え盛るように炎をあげる。
ドズゥゥゥン―――
フラムは拳を突き出していた。拳の先にはウェポンの右足があり、お互いの攻撃は威力を打ち消しあって相殺された。
彼はウェポンの足を振り払いマインを真っ直ぐに見る。肉弾戦を仕掛けるウェポンより、後方で即死級の支援を行うマインから先に排除しようと考えたからだ。
彼は2回もマインの地雷を経験している。対処の方法を知らずとも、当たらない方法は知っている。
マインの目線と指先を見て予測し、彼女が地雷を置いたであろう場所を避けてマインへと走っていった。
「うわぁ! こっち来たぁ!」
マインは先程指さした地面にもう一度指を指し、今度はその地面をなぞるかのような動きをさせる。
「遅せぇ!」
フラムは空へ飛び上がり右足に炎の龍を纏わせる。炎龍は吠え、フラムの赤く燃える脚と共にマインへ飛んでいく。
「お前には飽きたんだよマイン! 『
マインの眼前に迫った炎龍は顔を横に倒し、彼女を噛み殺そうと口を開ける。フラムの右足の蹴りがマインの頭の左側に直撃しようとしたその時。
ガギイイィィィィィン――ッ!!
「『ダイヤウェポン』」
ウェポンはその分厚いコートを広げマインに向けて小さな剣を向けている。
マインに当たったと思われたフラムの炎龍は、世界一硬い物質に阻まれた。
「コートの下はそうなってたんだな」
ウェポンのコートの内側には、大量の小さい剣が掛かっている。黒ひげ危機一髪というおもちゃに使う剣ほど小さいそれらは、一つ一つが異なる色を放っていた。
「遮二無二に来い」
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