第40話 ザン・テツ・ケン
彼の燃え盛る拳を凍てつく拳で迎え撃ち、私の極寒の脚は灼熱の脚で止められる。
「もう死ぬだけの私を止めてみろ!」
私は『スノウホワイト』の副作用に苦しみ、目や口から血を吐き出す。純白の霊装が鮮血で染まるが、そんな事になっても自分の意思じゃ止まることはできない。
私は死にたくない。ここは死ぬべき場所ではないし、まだ妹に会っていない。それでも直感で分かる死への歩み。
「俺だって下界に帰らなきゃいけない理由があるんだ! 一緒に来たんだから一緒に帰るぞ!」
フラムのレーヴァテインは私と拳を交える毎に威力と速さを増し、焔の炎上を加速させる。フラムの瞳には青白く燃えている私の右眼が映り、その奥には彼の秘めた炎が垣間見えた。
フラムの過去―――
彼は人がよく、とても優しい少年だった。両親に暖かく育てられ、幼い頃からやっている格闘技の才能も秀でていた。当時の彼に格闘技を教えていた師匠は、下界の元狩人の老人だった。
フラムはその師匠にとても懐いていて、辛い修行にも文句を言わずにしっかり着いていった。
そんなある日、一人の門下生が師匠の寝首を掻き殺害してしまった。動機は、「修行に耐えられなかった」からだ。
その直後、その門下生は姿を消してしまう。
師匠を殺害した門下生は、師匠が格闘技を教えていた人々の中でも特に素晴らしい戦績を誇っていた。なぜそんな彼が師匠を殺害したのか、本当の理由をフラムは知りたかった。
大好きだった師匠が殺され、その犯人は失踪。行き場の無い怒りがフラムに蓄積されていき、彼は精神をおかしくしてしまった。
普段は温厚で人当たりの良い優しい性格だが、自分の身に危険が及んだり、自ずから戦闘の意思を見せると、『フラム』とは少し違った『フラム』が現れる。
瞳は鋭く殺気を放ち、冷静な判断で格闘技の知識と経験を活かす戦闘特化の人格が彼にはあった。
フラムと共生している人格はとても特殊で、普段のフラムと遜色ない物腰をしていながらとても好戦的。奇想天外な発想で戦いの場を制したり、優しい性格を持ちながら非道な行為を平気で行う。
まさに、狂人だった。
現在―――
「私はフラムから共闘しようと言われた時、お前を人質として利用して政府の避難所に乗り込もうと思ってたんだぞ! 体のいい捨て駒にしか思ってなかった!」
私はフラムに拳を振るう。
「それなのに、お前は私を庇って向こうで死んだ! こっちに来てからもお前に助けられてばかりだし、お前の目的は何なんだ!」
私はフラムに脚を振りかざす。
フラムはそれらを全て受け流し、熱い四肢で反撃を繰り出してくる。そのどれもが鋭く、本気で私を戦闘不能にさせようと伝わってくる。
「俺の格闘技の師匠は、師匠の一番弟子に殺された。それにソイツは失踪して、師匠を殺した真意が聞けずじまいだった」
フラムは私に焔を散らす。
「しっかり力を付けた今、その失踪者は避難所にいるかもと思って列車に乗った! でもそんな中で、昔の俺みたいな一直線しか見えてないような目をしたスノウに会った!」
フラムは私に火炎を浴びせる。
「放っておけなかった。目的地が同じなら、少しでも助けてやりたいと思った! たったそれだけの理由だ!」
私とフラムの戦闘は激化していった。激しく結晶が散り、ド派手に炎が舞い踊る。
霊装を着ていないフラムが、魔法も身体能力も劇的に向上している私と互角に戦っている。彼のポテンシャルは相当なもので、私は瀕死ながらも負けたくないと思ってしまった。
「ハァハァ……、ゴパァ――」
私は身体の限界で大量の血を吐いた。本当にそろそろ死ぬんだと、そう思った。
「そんな死にかけのスノウの攻撃なんか効くかよ!」
フラムは強力な回し蹴りをしてきた。私は腕を前で組み攻撃を受けきる。
「そんなに死にたいなら私が殺してやる!」
私は全身の怪我や疲れ、痛みや恐怖を一瞬にして消し飛ばしフラムを見る。
身体から出る冷気を急速に放出させ、私の周囲全てを一瞬にして凍結させるほどの出力へと変えた。
「来てみろ!!」
フラムは両腕両脚のレーヴァテインを激しく炎上させる。
私はこの拳に全身全霊を乗せる。身体の自由が効かないながらも、次の攻撃が私の最後だなと理解していた。
深く息を吸い込み、深く吐く。そしてフラムを一瞥して大きく踏み込んだ。
「『ザン・テツ・ケン』!!!」
一撃一撃に全身全霊を乗せ、血反吐を吐きながらも連打した。
打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って打って!!!
バリバリバリン―――
腰を落とし腕を前に構えて私の攻撃を受けたフラムは、私の連打が終わるとガラスのように砕け散った。
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