第38話 ヒーロー
エスの身体にはクロスの切り込みが入り、その直後に、首元、右肩、左肩、下半身の4つにぶった斬れた。断面からは血液やオイルのような液体が吹き出て、エスの周囲は体液の雨が降る。
エスは程なくして声も上げずに絶命し、白目を向いたエスらしい死に顔でくたばった。
ズキン―――
今までの神より数段強かった神との戦闘から一息もつけないまま激しい頭痛が起こり、私は膝から崩れ落ちてしまった。
「おいスノウ!」
ブリッツが私の身を案じて近寄ってきてくれるが、私はもう自分で自分を御する事が出来なかった。
「ああぁぁぁ!!」
私は悲鳴に近い叫びをあげる。その瞬間、身体からとんでもない冷気が溢れ、私の周囲に辛うじて生きていた草花や散らばった瓦礫が段々と凍結していく。
「マズイ、もう『霊装』の副作用が来たか!」
ブリッツは、自身が凍結していくのなんかお構い無しに私を揺さぶり意識を飛ばそうとしている。
しかし私は止まらない、自分でも止められない。冷気の範囲はどんどん広がっていき、もはや私の周囲に近づく事なんて不可能だった。
「ああああぁぁ!!!」
私はブリッツの手を振りほどき、さらに冷気の出力を上げる。もう彼女は半分凍っており、このままでは命に関わる。
「ごめんな……」
ブリッツは笑って涙を流した。それも瞬時に凍ってしまい、涙の結晶となって地面に落ちた。
私はまた恩人を殺してしまうのか、と、上界に来て何度目か分からない絶望を感じたその時だった。
「『
凍てつく冷気の充満している駅前に、隕石のような燃える何かが空から落ちてきた。ソレは激しい炎と共に私とブリッツの目の前に着地し、周囲の冷気を己の内から湧き出る炎で相殺していく。
「待たせたなスノウ」
燃え盛る拳を地面に打ち、彼はヒーローのように登場した。
私が放出している周囲の冷気は段々と緩和されていき、ブリッツも解凍されていく。
「騒がしいし寒いと思ったら、嬢ちゃん、霊装使えたのかい」
フラムとは反対側から男の人の声がした。振り返ると、黒い金属のビジネスバッグを肩に担いだサルが立っていた。
「フラム、サル、近寄ったらダメだ!」
私は強烈な冷気を周囲に解き放つ。エスと戦っている時は豪雪と落雷が空を覆っていたが、今では何も無い空中から氷柱が降るという超異常気象へと変わっていた。
「ハァ……、サル?」
動けるようになったブリッツがサルを睨む。
「六天のサル――ッ!」
ブリッツは左腕のカイトシールドを展開し、蒼い稲妻がほとばしる直剣を構えて真っ直ぐサルに突っ込んで行った。
「うぉっと!」
サルは担いでいたビジネスバッグを振りブリッツの攻撃を受け止めた。
「せっかく直してやったのに、霊装の解除も出来なかったのか。仕方ないから助けてやろう、兄ちゃんは嬢ちゃんを気絶させてくれ。俺はこの暴れん坊将軍を止めよう」
サルの持つパンドラボックスは、片腕に装着する杭の射突が可能な武装、『パイルバンカー』へと変形していた。
「スノウ、俺実は1回お前と戦ってみたかったんだ」
フラムはレーヴァテインを構え、親指で鼻を撫でる。
「今の私は容赦できないぞ」
私は両腕両脚に氷の装甲を纏い拳を握った。
「行くぜスノウ」
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