第37話 クリスタルドラグーン

 私はエスを、ブリッツはエスの魔法生物を分担で攻撃する。エスの鋭く重い拳を避けて、受け流し、決して軽くはない氷の特大剣をバットのように振り回してエスの体をじわじわと傷付けていく。


「くっ……、ほんとに厄介ねその『霊装』……。」


 エスは両手を大きく広げる。すると次々に気色の悪い植物や生き物が出現した。

 迫り来る雑魚には目もくれず、私はエスのみに特大剣を振るう。


「『通電雷公ボルトレヴィン』!」


 ブリッツは私の周囲に迫っていた雑魚に蒼い落雷を落とす。空の怒号と魔法生物の悲鳴が溶け合い、塵となって風に流されていく。


「『クリスタルフロストバイトダウン』」


 私は氷の特大剣に薄い氷を纏わせる。特大剣は白い気体を漂わせ、いかにも危険な刃物という風貌になった。


「何がクリスタルなんちゃらダウンよ!」


 エスは私に飛びついて拳を振るおうとする。私はその拳を特大剣の刃で受け流した。その際、ほんのちょっぴりエスの手が切れるように刃を向けた。


 バリン――


 刃の当たったエスの拳が一瞬にして凍結され、その凍結範囲はみるみる拡大していく。


「なっ、なにこれ!?」


 私はエスが狼狽えているうちに彼女の懐に入り、氷の特大剣で下から上へと斬りあげる。


 しかし既のところでエスは刃を躱し、自らの凍った腕を切断して凍結の拡大を防いだ。


「この……! クソアマがああああ!!!」


 何を思ったのか、エスは捨て身の特攻をしてきた。しかしそれは、私にとっては好都合だった。

 ちょうど雑魚を減らしきって手が空いているブリッツが、直剣の血を払っている光景が見えたからだ。


「ブリッツ! 合わせろ!」


 私はブリッツにそう叫び、氷の特大剣を地面に突き刺す。そして以前、パンドラボックスの刀で行った様な脱力と極限の集中をエスの目の前で敢行した。

 

 氷の鞘、氷の刃、氷の鍔、氷の柄を左手にイメージし、右手を開いて目を閉じた。


「しょうがない!」


 目を瞑っていてもブリッツの構えが分かる。おそらく彼女は肩に直剣を担ぎ構え、もう既にこちらへ走り始めている。蒼い稲妻と共に。


「死ねえぇぇ!!」


 エスは私の眼前で助走の勢いを利用し飛び蹴りを繰り出しているだろう。私に届くまであと1メートルも無い。


 ブリッツとの一撃に、この先のわたしの運命を賭けた。




「「『龍氷雷尾クリスタルドラグーンダウン』!」」




 速さと重さを兼ね備えた最高峰の突進斬りと、一撃必殺の居合抜刀。蒼い稲妻と青白い結晶が交差し、軌跡には二匹の龍が静かに宙を渡った。

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