第35話 アズールレヴィン

 エスがそう呟くと、私の目の前に突如ソイツは現れた。

 黒いボロボロのローブを羽織り、両手には2メートルをゆうに超える大鎌を振りかざす、まさに『死神グリムリーパー』。


 ギリギリギリ―――


 私はグリムリーパーの鎌を、既のところで氷の剣を拾い上げて受けきる。グリムリーパーの力は凄まじく、鍔迫り合いを長く続けるとこちらが不利になりそうな程に強力だった。


「あははははは! グリムリーパーだけじゃない、あれもこれも見える!」


 エスがそう叫ぶと、周囲には蛍光色のキノコや人面犬などが突然現れた。それだけではない、巨大な昆虫や、2、3体目のグリムリーパーも何も無い空間から現れはじめる。


「ッ――!、こんなんで止まる訳には行かないんだ!」


 私はグリムリーパーの鎌を無理矢理にでも弾き体勢を崩す。そしてそのまま、よろけたヤツの片腕目掛けて氷の剣を滑らせ両断する。

 それでもヤツはもがきも苦しみもせず片手で鎌を振る。


 私はそれをなし、鎌を絡めてヤツの手から弾き飛ばした。


「『ブレイクダウン』!」


 氷の剣を横一文字斬り。斬撃の風圧を飛ばし、グリムリーパーの髑髏しゃれこうべを胴体からぶった斬った。


 髑髏しゃれこうべが跳ねられたグリムリーパーは消滅し、残りのヤツらがゾロゾロと私に近づいてきた。

 とてもじゃないが、一人で捌き切るのは難しいこの状況に冷や汗をかいたその時。


「『雷歩カレント』」


 ピシャッ―――


 ゴロゴロゴロゴロ―――


 赤い稲妻が目の前で落雷し、エスの生み出したであろう気色の悪い植物や生き物が感電し焼き焦げていた。


「最強ブリッツちゃん復活! スノウ、大丈夫?」


 ブリッツは私を見てとても驚いた様子を見せる。


「え! 何その格好!? 目は大丈夫なの!? もしかしてそれって霊そ―――」

 敵に背を向け矢継ぎ早に私に質問をするブリッツを、グリムリーパーが後ろから大鎌で狙っていた。

「ブリッツ! 危な……」


 ブリッツは質問を止め、目を鋭く光らせる。


「『天鳴マキシマムベット』!」


 ブリッツは振り向きざまの回転に合わせて直剣を地面に擦り、一撃目の逆袈裟斬りでグリムリーパーの大鎌を弾いた。力が衝突をしてもなおブリッツは止まらず、二撃目の袈裟斬りでグリムリーパーの胴体をぶった斬った。


 グリムリーパーの髑髏しゃれこうべは、叫びをあげるような口を開いて消滅していく。


「あははは? 神の反逆者がもう起き上がってきちゃった!」


 エスは瞳孔の開いた目をとてつもない勢いで泳がせ、ブリッツが焼き焦がした環境をもう一度再生させた。


「スノウ、エスが錠剤の薬物をキメたらヤツは近距離特化じゃなく魔法特化になる。しかもこれが厄介で、幻覚で見えた物が現実に現れるとか言うチート魔法だ」


 ブリッツは何かを決めたような表情を見せて私の肩を掴む。


「スノウ、あんたのその状態は時限爆弾みたいなもんだ。魔法で全身を強化して自分の魔法の効果も高める。でも時間が経つと、周囲を巻き込む程のヤバい魔法を本人の意思とは無関係に放ってしまう。」


 ブリッツは更に続ける。


「そんな出力の魔法をバンバン撃ってたらあんたは死ぬ。その状態を解除するには、眠るか、気絶するか、死ぬかしかない」


 ブリッツはカイトシールドを収納し、金属の左腕を天に掲げ拳を握る。


「あたしら、わんちゃんここで死ぬな」


 彼女はニコッと笑い、直剣を地面に思い切り突き立てた。


 


「『蒼雷公アズールレヴィン』!」


 


 荒れ狂う吹雪の空に、怒髪天の霹靂へきれきが降り注ぎ始めた。

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