第34話 アウェイキング


 私は叫んだ。自分の想いと力を声に乗せ、獣の咆哮のように自分の存在を誇示した。


「くっ……!」


 エスは私の威圧に気圧されて私から距離を取った。


「ここであんたを殺さなきゃ、私はまた何も出来ないまま終わる」


 失った右眼が疼きだす。


「殺す――ッ!」


 私は天に手を掲げる。すると雲が集まり、次第に季節外れの雪が舞い散る。

 この時、私には何でも出来るような全能感が全身を支配していた。


 舞い散る雪は次第に吹雪に変わり、荒れ狂う雪は私を覆いつくす。


「大層な魔法ね!」


 エスは私に向かって走り出し、私を覆う雪に飛び蹴りを繰り出してきた。




「『スノウホワイト』」




 私は飛んできたエスの脚を掴む。その衝撃で、私を覆い尽くす雪は晴れた。


「――!?」


 私はエスの脚を掴んだまま彼女の顎に目掛けて掌底を放つ。彼女の顔は恐ろしい速さで弾かれ、思い切り地面に叩きつけられた。


 私は一瞬にして氷の剣を生成し、地面に倒れているエスに追撃を試みた。


「キクねぇ〜!」


 しかし、エスは倒れている状態から身体をひねらせ、風の切れる音が聞こえるほど力強いウィンドミルを行う。

 私は安易に近づく事が出来ず後方に飛んで距離を置いた。


 立ち上がったエスは頭を抑えながら私を見た。


「スノウちゃん、何その格好……、さっきと全然違うし、その右眼――!」


 ここでようやく、私は自分の格好が変わってることに気づいた。

 純白のロングブーツに膝上程の丈のスカート、腹の出た長袖のパーカーに、シルバーの金属の装飾があしらわれたファーコートを袖に腕を通さず羽織っていた。


 そして咄嗟に生成した氷の剣の刃で顔を確認した。そこには、失われたはずの右眼が青白く燃えている自分の顔が写った。目玉は無い。しかし、確かに青白く燃えている何かがあった。


「あたんただけは絶対に殺す!」


 私は氷の剣を地面に突き刺し、弓を構える動作を行った。すると、左手には弓、右手には矢の羽根が段々とせい生成されていく。

 弓を引き絞り終わる頃には既に氷の弓が完成していて、私は氷の矢を空高く打ち上げた。


「『アルテミスダウン』!」


 直後、荒れ狂う吹雪が全て氷の矢に変わり、私の意思に呼応するように氷の矢はエスに向かって飛んで行った。


「これは捌ききれるか心配だなぁ」


 エスは深呼吸をしてファイティングポーズをとる。そして次の瞬間、飛んでくる氷の矢を片っ端から殴る、蹴る、殴る、蹴る。


 見事に大量の氷の矢を砕いていった。


「こんなんじゃ終わらない!」


 私は氷の弓を地面に投げ捨て、鎖を回すようなイメージと動作を行う。

 すると、左手には草刈り鎌、右手には鎖が握られており、回している鎖の先端には分銅が付いている鎖鎌が生成された。


「『クリスタルアサシンダウン』!」


 分銅をエスの方へ飛ばし彼女の脚に巻き付ける。氷の矢を打ち落とすのに必死になっていたエスはまんまと引っかかり、矢の追撃が彼女を襲う。

「ぐっ……」

 

 私はエスの脚を巻き込んだ鎖を引き戻した。エスは体勢を崩し宙へ放り出される。

 

「ちょっ――」


 この勢いを殺すこと無く私はエスのいる宙へ飛び上がり、左手の草刈り鎌で無防備なエスを切り刻んだ。


 それだけではない。脚に巻き付けた鎖をエスの首に回し、宙から地面へと振り下ろす。


 ズウゥゥゥン―――


 エスの体が地面に抉り込むほどの衝撃が地面に伝わり、彼女が倒れている所を中心にして地面にヒビが入った。


「まだだ!」


 エスは全身血まみれになりながらも立ち上がり、懐から錠剤の入った袋を取りだした。


「これは使いたくなかったんだけどな……」


 エスはその錠剤を渋々服用した。


「ああああぁぁぁ!! キタキタキタキタ!!」


 錠剤を服用したエスは、先程とは打って変わってとてつもない笑顔を見せていた。そして私を指さして一言。


「『グリムリーパー』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る