第17話 エンドオブヒプノシス

 フラムは私の秘部をゆっくりと優しく撫でる。彼の指が触れる度に、期待と興奮で身体が跳ねる。焦らしてくる彼の指先には、私の露がいやらしく糸を引いている。

 

「スノウ、俺のも………」

 

 フラムはベルトを緩ませる。ゆっくりとチャックを下ろし、彼の欲望を隔てるものは布1枚となる。

 

 私は彼のその大きな……

 

 大きな……

 

「フラム、これは?」

 

 私はフラムの小さな欲望を触る。フラムは照れくさそうに腰をつきだして私の顔をソレに近づける。

 

「ちっさ……」

 

 私は思わず声に出してしまった。

 上を向いているフラムのソレは、ボールペンの握る部分といい勝負な大きさだった。元気な状態でこれなら、もう彼からの快楽は得られないだろうと思ってしまった。

 

「えっ――」

 

 フラムは今まで見せたことが無いほど青ざめた顔で私を見る。上を向いていたフラムのソレは次第に元気を失っていき、どんぐり程のサイズにまで縮んでしまった。


 

 気分が落ちた私は、今の状況を振り返る。

 デンシャに乗りフラムと話していたら、急に甘い香りが漂い、有りもしない記憶の中にいた。なんの疑問も持たずに流されていたが、冷静になって振り返ると疑問点がある。

 

 そもそもここはどこなのか。なぜ鮮明に意識のある中自由に思考ができるのか。

 

「夢か催眠の類か…?」

 

 外界の獣にも、睡眠という生物の弱点を狙った嫌な奴がいた。ソイツはネズミのような見た目で小さかったが、ソイツの振りまく甘い香りを嗅いでしまうと一時昏倒してしまう。そしてそこで有りもしない夢を見させられ、ある種の洗脳状態に陥る。

 

 しかし、対処法もある。

 

「フラム」

 

 しょんぼりしていたフラムが私を見上げる。私はその目玉を潰した。

 

「ああぁああ! ス、スノウ、何するんだッ!?」

 

 私はフラムの言葉を無視して耳を噛みちぎる。次に鼻を折り、顎をぶん殴って骨を砕いた。

 

「悪いなフラム」

 

 私はフラムの金玉を蹴り潰す。フラムは大絶叫し、血涙で顔はグチャグチャになっている。


 

 

 この手の催眠の対処法は、現実の自分が行っている行動と乖離した行動を取る。そうすると、眠っている自分の意識の中で自己矛盾が起こり認識が歪む。歪んだ認識を正そうと頭が働き、勝手に催眠も正されていく。



 そして現実―――

 


「『ブレイクダウン』!」

 

 私は膝のついたフラムにロングソードを振り下ろしていた。フラムの後ろには、顔の赤い筋が鼠のように描かれている神らしき人物が立っていた。

 

 私はロングソードを気合いで逸らし、デンシャの床を抉った。振り下ろした際の風圧が斬撃となり、今いるデンシャの車両が割れそうな程大きな切傷が出来上がる。

 

「スノウ!」

 

 フラムは安心したかのような顔を見せて私の名前を呼ぶ。

 

「ハハッ! 夢から覚めたのかい!」

 

 神は私達から大きく距離を離し、自分の爪をぎょろぎょろと見つめる。そして神は私を指さしてこう言う。

 

「もう一度夢の国へ招待するよ! ハハッ!」

 

 私はロングソードをビジネスバッグに戻し、が来ることを全力で願ってパンドラボックスを振るう。

 

 神は私を指さしたまま片手を上げ、とても綺麗な音で指を鳴らした。

 

「『催眠の祭エレクトリカルパレード』!」

 

 フラムは傷だらけの背中を私に向け、一直線に神へ飛んでいき拳を振るった。神の顔面に直撃したフラムの拳は、橙の炎を散らせて神を吹き飛ばす。

 

「スノウ大丈夫か!?」

 

 私は心底安心した。全力で願った甲斐があったからだ。

 

 私は黙って神へ向かう。

 

「ハ、ハハッ! どうしてこっちに来るんだ!? それに、なんだその格好は!」

 

 おそらくあの神は、外界の獣と同じく甘い香りで催眠を促している。その証拠に、夢に入る前に甘い香りが漂ってきていた。

 それを防ぐために、私はこの姿を全力で願った。パンドラボックスで全身を覆い、皮膚や粘膜への攻撃を防ぐ防御特化の鎧を。

 

「『ガーディアンダウン』!」

 

 神へ飛び上がり、フラムがぶん殴った顔面に重ねるようにドロッキックをお見舞いした。

 

「吹き飛べ!」

 

 足に意識を向け、踵から勢いよく氷柱を出すイメージを浮かべて魔法を放つ。すると見事イメージ通りに氷柱が突き出し、神は顔に氷柱を貫通させながら今いる車両の端まで吹き飛んでいく。

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