第15話 バラ

 私とフラムはデンシャに揺られていた。電車内には甘い匂いが漂っている。

 

「普通の乗客は駅がぐちゃぐちゃでもなんとも思ってなさそうだな」

 

 周りの上位人は楽しそうに談笑している。周りの景色など見向きもせず、仲間内しか見えてない無いといった様子に近い。

 

「こうやって乗り物に揺られてると、俺たちの初めての出会いを思い出すなぁ」

 

「いや、会ってからそんなに時間経ってないだろ」

 

 フラムはレーヴァテインを見ながら小ボケをかます。

 

 私と彼は出会ってまだ1日も経っていない。それなのに彼の言うとおり、こうして乗り物に揺られてると彼との初コンタクトを思い出す。



 

「なぁスノウ、いいじゃねぇかよ」

 私はフラムに身体をまさぐられていた。何故か口も身体も動かせず、目だけが動いて意識がはっきりしている。

 

 フラムはゆっくりと私の髪を触り頭を撫でる。子供をあやす親のように、それでいて、愛する者に優しく愛撫するように。

 

 これは彼との出会いの思い出ではない。そんな事は分かっている。でもなぜか、この状況に疑問はなかった。

 

「スノウ……」

 

 フラムは顔を近づけると、私の唇にフラムの唇がふれる。長いようで短いそのキスは、次第に激しくなってくる。淡く濡れた互いの唇は開き、唾液を交換して舌を絡ませる。

 

「フ…ラム……」


 私はフラムの襟首を掴む。彼と唇を合わせ舌を絡めた時、私は既に出来上がってしまったのだろう。解けた表情で彼を見つめ、そのを期待してしまっている自分がいる。


 

 一方フラムは――


 

「おいスノウ! 早く起きろ!」

 

「ハハッ! もうぐっすり夢の中だね!」

 

 彼は神と対峙していた。背が低く、神特有の金属の半身から赤い筋が浮き出ている。その筋はまるで、鼠のような前歯と大きな耳を描いている。

 

「僕は幻惑魔法が得意でね! 特に催眠術が得意なのさ! ハハッ!」

 

 フラムは神の言葉を聞くと、ピタリと攻撃をやめて突然突っ立つ。

 

「ならお前は俺と相性が悪いな」

 

 彼は周囲に強烈な殺気を出し、鳥の神と戦った時とは違う武術の構えを始めた。

 

 彼の手は風を起こし、彼の足は炎の花を咲かせる。散る炎が花びらのように舞い、彼の殺気は鋭い眼光に乗り神を刺す。

 

「『紅薔薇べにばら』」

 

 フラムは神に手招きをして挑発する。神は誘いに乗り、金属の半身から伸びている鋭利な爪でフラムを切裂く。

 

 フラムに神の爪が触れる瞬間、フラムは大口を開けて笑い、神のみぞおち目掛けて炎を纏った拳を叩き込む。

 

「ははは! お前じゃ俺に勝てねぇよ!」

 

 フラムは続け様に炎を纏った拳を神へぶち込んだ。2回、3回、4回と、拳を連打する毎に彼のレーヴァテインは赤熱化していく。拳に纏った炎も、橙色から深紅へと変わっていく。それはまるで、殴る毎に薔薇の花びらが散っているように。

 

「グボァ!―――」「アガっ!―――」

 

 顔や体、腕に脚と、殴られていない部位が無いほどに神はフラムの連打を受ける。反撃の隙も与えないフラムの連打は、彼の身体能力と鋼技こうぎ屋で得たレーヴァテインの特性あっての相乗効果だろう。

 

「ゆ…、『夢の催眠さいみん』…!」

 神は力を振り絞り指を鳴らす。

 

「今更無駄だって分かんねぇのか!?」

 

 それでもフラムは止まらない。神の血とフラムの薔薇が散り、彼ら二人の周囲は深紅に彩られる。

 

 ガチャガチャ――

 

 フラムは何かの機械が変形するような音を聞いた。そして次の瞬間には、目の前にいたのは、ぶん殴っていた神ではなく。

 

「スノウ!?」

 

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