第7話 キル

「君たちが下界の人間だね」

「君たちが下界の人間だね」

 

 神は全く同じ声で喋り全く同じ動きをする。私から腕は見えないが、そいつらの殺気はひしひしと伝わってきた。

 

「フラム、周りに障害物は?」

 フラムは首を回し、よく観察する。

「ある程度開けてる。でも人が結構いるからここで戦うのはちとまずいかもな」

 

 フラムと私は臨戦態勢に入る。

 

「君達、殺す」

「君達、殺す」

 

 神の顔半分の金属部分から赤い筋が走る。今回は鬼のような模様ではなく、鳥類に似た模様が浮かび上がる。

 

「スノウ、あいつら腕が変わったぞ。あいつらは筋肉隆々じゃなくて鳥の羽みたいだ」

 

 次の瞬間、2人の神は互いが互いを引き寄せ、やがて1人の形に変わった。そこに人間らしい肌は無く、顔面の両側が金属に、鳥類の顔を模した模様だけとなった。

 

「来るぞスノウ!」

 フラムは手を神に掲げる。炎の玉や火炎放射など、様々な魔法を繰り出す。しかし、神はそれを軽く避ける。地面での素早い動きや、宙に飛び上がって滞空するなど人間離れした様子を見せる。

 

 私が今握っているのは刀、滞空している神への攻撃はもちろん、素早く動く敵に対してもあまり強くない。言ってしまえば、今回のパンドラボックスは相手との相性が悪い。

 

 私は極力力を抜き、相手からの接近攻撃を期待してのカウンターを狙らう。近づいてきた瞬間の抜刀なら、一撃かつ的確に当てれる自信があるからだ。

 

「フラム、私の事は気にせずバンバン神に攻撃してくれ」

 

 私は目を瞑る。真っ白い世界から視界を遮断する。黒い長髪と、人の形をした金属を目の前から消す。音と感覚だけでプレッシャーを感じるこの漆黒に、私は私の全てを乗せる。

 

 フラムの私を気遣う声、炎が燃え盛る音、神の靴が擦れる音や、人の動きでたなびく風。全てを大きく感じながらじっと待った。


 

 目を閉じているのに見えてくる。まぶたの向こう側が。

 

 神は空に飛び上がる。フラムに何かを飛ばし、こちらに振り向く。宙で姿勢を落とし、風を起こす。

 

 まだ遠い……

 

 あと3メートル……

 

 あと20センチ……

 

 

 

 今!


「『奈落』!」

 

 極限の集中と脱力から一転、目を見開いて神を視認する。眼前まで迫っていた神を、爆発的な緊張で筋肉を動員し刀を抜刀、神の身体を下から上へと斬りあげる。

 

「「え?」」

 左右対称で神は地面に転がる。斬られた神はまるで、打ち上げられた直後の魚のようにビクビクと痙攣する。しかし金属の部分にある赤い筋の鳥模様は消えていない。

 

「スノウ、トドメ刺してくれるか? 周りに人が集まってきた」

 

 私は頷いて神に刀を向ける。金属の首めがけてその刀を振り下ろした。

 

 にゅるにゅる――

 

 分かれた神から突然生身の半身が生えてきた。

 私はそうそうにトドメを刺そうと再び刀を振るう。

 

「やっぱりダメだスノウ!!」

 

 フラムが叫ぶ。しかし止まれない。


 

 

「ダメじゃないか、君」

「ダメじゃないか、君」

 

 神は手を掲げていた。掲げられた手は、何かを持っているかのような形をしていた。私の振った刀は神の目と鼻の先で止まり、神にトドメを刺すことは出来なかった。

 

「スノウ……、お前…」

 

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