第2話 パンドラボックス
その弾丸は、弾除けを貫いて政府の兵士を絶命させた。後方を確認すると、フラムの握っていた銃から硝煙が昇っていた。
4人の兵士の生死を確認し終えた私は、肉壁となってくれたフラムの方へ戻る。
穴の空いたフラムに近寄ると、僅かに息があった。
「おい、生きてんのか」
フラムは指で床を叩く。治療をするために、フラムを担ぎあげたその時。
ズガガガ!!―――
轟音と共に列車に大きな揺れが起きた。
「まずい、来る! 生きてるやつは逃げろ!」
戦闘に巻き込まれなかった乗客に急いで車両移動を促した。
やがて兵士と戦闘していた場所から、金属を切断するような音と火花が散り始めた。直後、今いる車両が輪切りになり、外の景色と共に見たくない敵影の姿があらわになった。
「『遊撃ドローン』か…」
鳥をモチーフにした形の機械で、その羽はチェンソーのように高速で回転する刃が付いている。空からの急襲や敵陣への遊撃として、戦闘の一線を担う政府のオモチャだ。今握っている銃やナイフではとても太刀打ちできない。
私は持参していた武器を取りに、今いる3両車から4両車へと戻った。
3両車へ戻ると、既に乗客は避難していたようで人っ子一人いなかった。
車両後方に乗客の荷物を乗せたトランクがあり、私はそこまで走った。
ギリギリギギィィ!――
再び金属の切断音と共に火花が散り始める。
トランクの鍵を銃で打ち壊すと、数十人の荷物が出てきた。
「あった―――ッ!」
金属製のビジネスバッグを手に取ると、車両の天井がひし形に切り取られて空が見えた。
私は、その切り取られた天井から列車の外に出た。
カチカチカチ――
列車の屋根へ行くと、遊撃ドローンは鳥のような仕草をして私を見ていた。やがて遊撃ドローンは、ついばむように私に襲いかかってくる。
私はビジネスバッグでついばみを受け、すかさずバッグでぶっ叩いた。すると遊撃ドローンが怯み、威嚇する素振りを見せた。
「お前をぶっ壊させてもらう。この『パンドラボックス』で!」
私はビジネスバッグを振る。すると、金属の擦れる音と共に形がドンドン変わっていく。
サーベルの峰に着いた銃口と銃身、グリップ付近には6連装シリンダーとトリガー。
「ガンブレードか」
遊撃ドローンは羽のチェーン刃を高速回転させ空に飛ぶ。飛び上がった遊撃ドローンは体をひねり、羽の刃の回転をより複雑にして突っ込んできた。
私はガンブレードを強く握り、グリップの根元から伸びるトリガーに指を掛けた。
「『ブラスティングダウン』!」
トリガーを引いて刀身を高熱状態にさせ、更に遊撃ドローンと刀身が接触した瞬間にもトリガーを引く。豪快な爆発と鋭い切れ味で、遊撃ドローンはボロボロに崩れ落ち、果物のように真っ二つになる。その勢いで遊撃ドローンが列車の両脇落ちていき、しばらくすると大きく爆発した。
遊撃ドローンとの戦闘を終えて、ガンブレードを元のビジネスバッグの形に戻す。排熱の蒸気と甲高い音が吹き出る。
戦闘後の余韻を後に、私は傷だらけのフラムの元へ急いで戻った。
フラムの倒れている3両車に戻り、横たわる彼に近づくが、彼には既に息がなかった。彼は最後の最後に力を振り絞り、出会ってまもない私を助けてくれた。フラムは敬意を払うべき行いをし、力尽きたのだ。
「彼の事助ける?」
声のした方へ振り返ると、辺りが真っ白になった。横たわっていたフラムも、転がった死体も、輪切りの列車も無い、真白い世界。
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