第5話 警告書
「おい待て、もう一つ話がある」
「話?」
意味が分からないと思い振り返ったキースの目の前に一枚の紙が突きつけられた。
「何だよこれ」
「盗賊課‥‥‥盗賊ギルドからの警告書だ」
「……警告書? なんの……」
まるで思い当たる節がない。
キースは肩をすくめるとそう問い返した。
しかし、ラモスは覚えがあるだろうと返事を返す。
盗賊ギルドなんてダンジョンのそこかしこに入り浸っては宝箱だの、トラップの罠の仕掛けの解除だの、伝説の中にある神話級のお宝が眠ると言われる階層を、数十のパーティを組んで独断と先行で攻略を仕掛けてみたら、見事に返り討ちにあって大勢の死傷者を出したこともある愚か者の集団だ。
そんないわくつきの他のギルドから警告書をもらうなんて理解ができなかった。
「お前が案内したマップを連中が解析したらしい。あまりにも生還率が高いというので戻ってきたパーティーの幾つかから、マップを買い取ったらしいな。既存の攻略されているサイトマップと照らし合わせたら、その中にはまだ攻略されていないはずの部屋があった。なぜかお前のマップには記されていた。そういうことらしいぞ」
「なっ! あれは……」
「言い訳でもあるのか」
「あれは違う。俺は何も秘密にしようとしたわけじゃない。ああいった部屋を通過するのが、結果的に一番早道だったからそうしただけだ」
「つまり最短の安全なルートお前は提供したというんだな」
「そういうことさ」
「じゃあ……なぜそこにあったお宝に手をつけなかった?」
「宝?」
「宝だ。お前にしか入れない秘密のダンジョンで、お前は何を手に入れた? 部屋を通過できるってことは、お前が攻略したあとだってことだ。しかし、宝箱だの与えらえるはずの攻略アイテムには手をつけていない。もしくは、もっと上等なものだけを攻略してどこかに隠したのかもしれない。連中はそう勘ぐっているぞ?」
「めんどくせーな。あいつら、馬鹿だろ……」
少し考えたらわかるだろ、頭の固いラモスめ。
その部屋を通過することと、宝箱を開けることはまるで別のクエストなんだよ。
部屋を通過できるレベルであっても、宝箱を開けられるレベルではないかもしれないんだ。
部屋に入るだけでは何も発動しないそんなクエストが設定された部屋だってあるんだよ。それを発動させずに通過するだけの話なのに……。
そんなことも理解できないのか。
キースの意見はそれだった。しかし、世間は違う見方をするようだ。
「あの部屋を通り抜けれるレベルと、宝箱を開けるレベルはまた別のものだ。少しでも危険に手を出すわけにはいかない」
「だから宝箱の存在をマップから隠した。そういうことか」
キースは素直に頷く。
自分が確保しているルートを他人に荒らされたくはない。
荒らされたくなければ、何がやって来ないような状態にしてしまえばいい。
誰もがそこをさっさと通り過ぎてしまうような、魅力のない空間にしてしまえばいいのだ。
たとえそこに古代魔法文明のとんでもないお宝が眠っているとしても。
「……実はな、これだけじゃないんだ」
「は?」
「盗賊ギルドだって、たった一枚のマップから割り出したそんな一つの事実だけで、噛み付いてくるなんてことはないんだ」
「数枚のマップが一度に捜査対象になった。そういうことか」
「そういうことだ。これまで案内してきた全てに調査が入ったそうだ」
「ちょっと待って。そんな権限誰が持ってるんだ、たかだか盗賊者ギルドがそこまで出来るはずがない」
キースが不審げな顔をしてそう言うとラモスは意地悪くニヤリと笑って返した。
その笑みの向こうに、青年はもっともっと大きな闇が蔓延っていることを知る。
「総合ギルドは王国の管理下にある。もっと分かりやすく言えば、内務捜査局なんてものが存在するんだ。成績のいいやつ成績の悪すぎるやつ、うまく何かをやって賄賂をえるやつ、権力を利用して私腹を肥やすやつ。そういった連中を相手にとことん追い詰めて法律の裁きを下す。そんな連中がいるんだよ」
「……俺は無実だ。ただ冒険者の皆に生きて戻ってきてほしかっただけなんだ。ラモス、あんただって長い付き合いだ。……理解してるだろう」
「いいや」
再び、黒い笑みを浮かべたラモスは理解なんてできないしたくもない。
そう言って肩に置かれたキースの手を払った。
「内務捜査局はダークエルフが関わっているらしいぞ。天然の暗殺者にして闇に仕えるエルフーー総合ギルドに組み込まれるまでは暗殺ギルドの一員だった何て噂までで出回ってる、ヤバイやつらだ」
「俺を俺を見殺しにする気なのか?」
まだ仲間だと思っていた男からそんなことを告げられて、キースはよろめきながら後ずさる。
ここから逃げろ今すぐに。
探索者として活躍してきた彼の本能がそう告げていた。
「お前は必ずどこかになにかを隠しているはずだ」
「俺はそんなことなんかしてやいない。勘違いだ。誤解だぜ、ラモス」
さあ、それはどうかな?
課長は信じられないと首を左右に振った。
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