第4話 解雇宣言
「そんなこと知らないな。第一、安い最低料金で最高の生還率なんてできないにきまってる」
「それをやるんだよ」
「無理だよ」
「無理じゃねーんだよ。世界一速くレベルアップできるのがうちの、売りなんだよ!」
「売りと言われてもなあ……ラモス、どうしたんだ、怒りすぎて頭がおかしくなったのか? どうして世界最速なんて目指さなきゃいけない? なんだよ世界最速って。俺たちの参加してるギルドは――探索者もそうだし盗賊も、商人もそうだがどこのギルドも安全第一で商売したいはずだろ? そんなリスクの高いことやりたくないって」
「各自個別に運営していたギルドが国に統一されてから、俺には余裕なんてもんはねーんだよ!」
王国の上層部によって設立された公的なギルド。
それが総合ギルドだった。やることは棄民を上手く利用しての迷宮開発だ。
そこには、これまで仕事ごとに分散して運営されたギルドが、一つに集めらている。
つまり、ラモスがその一部門の長として無能だと馬鹿にされる原因が、キースだということらしい。
心外だね、キースはそう言い頭を振る。そして、ラモスは管理職を任されている。
つまり、棄民ではないのだ。地下で成績を上げ、地上に栄転するのが、彼の野望なのである。
「なんで余裕がないんだよ?」
「でかい組織にまとまったら、次は上を目指すやつらの派閥争いだの、昇進だのが関わって来るんだよ……そんなことも理解できないのか? 俺が政治力をなくしたら、この迷宮探索課も低迷するんだぞ? 俺たちが迷宮を管理管轄して運営しなきゃ誰がするんだよ!?」
「あー……俺はみんながまとまることを悪いと思わないが、各ギルドのノルマなんてものはこれまでなかった。そんなものを与えることが間違ってる。みんなを共存させること自体が間違ってるだろ」
どういう意味だとラモスは怪訝な顔をした。
キースは細く長い指先を足元に向けて示してやる。
そこには、彼ら迷宮探索課が案内する地下迷宮が存在していた。
「地下のあれは、人間なんてちっぽけなものが管理できるような、そんな魔法施設じゃない。この『禍福のフランメル』なんて大層な名前を持つ地下迷宮は、古代魔導文明の頃に造られた遺跡だ」
「人間が管理しようなんて甘い考えだ。お前はそう言いたいのか?」
「管理なんてできない。俺はできないと思う。そんなものをしようとしたら、もっとも魔獣が多く生息する中階層あたりで、とんでもないトラブルが起こるはずだ」
「それはお前の個人的な意見だ。俺には関係ない」
「いやだってそうだろ? まだ最奥部のダンジョンコアまで至ったやつは誰もいないんだぜ? 管理するなんておこがましいだろ……」
ラモスの肩を掴もうとして、キースのその手は跳ね除けられた。
上司に従わず、組織に貢献もせず、自分勝手な判断で顧客を安全な探索ルートで案内するから、彼が担当した冒険者たちは不平不満を口にする。
迷宮探索課が広告に打ち出している、最速でレベルアップができる迷宮探索!
それをこの青年は、自分勝手な判断で捻じ曲げて顧客からもギルド内からも不満を買ってしまった。
安全性や危険率の低いクエストをこなすだけの彼は迷宮探索課のお荷物どころか厄介者。
そんな存在に成り果ててしまったからだ。
ラモスは悲しそうに首を振って最後通牒を言い渡した。
「殴っても理解しないお前にはもう何も言うことはない。お前のやり方はここには合わない……。ただ黙って高い案内所をせしめながら、他のどこの課よりも早く成果をあげてればそれで良かったんだ。参加する冒険者の生死なんてほっときゃ良かった」
「……それじゃまるで拝金主義だ。ギルドとしてのプライドも名誉も何もかも捨ててしまってる。それでもあんた元冒険者か?」
あーやってらんねー。
幼い頃、かつて憧れた冒険者は、自分の保身と組織の拡大のためにだけ生きる人間なってしまった。
「うるせーよ。今じゃこの組織を守るのが俺の仕事だ、俺の言うことに従わない奴はただの役立たずだ。間抜けで使いようのない野良犬にも劣るような、そんな役立たずだ」
「そこまで言うのか。じゃあ好きにすればいい」
子供のころ、何階層かも覚えていない迷宮の深層部。
そこで迷っていた自分を他の冒険者たちとともに救い出してくれたラモスは、ただの会社員になっていた。
ラモスの友人であり、育ての親であるに師匠に預けられたのはそれからすぐだ。
住む場所と食事と冒険者としての教育を与えてくれた。
そんな恩師はどこかにふらりと旅だったし、恩人のラモスは金と権力に薄汚れてしまった。
もう、大事な人はここにはいないな。
そう感じると、ここにいる理由がなくなってしまった。
「ならもう出て行け。お前の顔なんて見たくもない‥‥‥」
ラモスはこの部屋の入口に向かって腕を振った。
これ以上ここにいたらまた殴り合いになりそうだ。
さっきのラモスの一撃で奥歯がぐらぐらと揺れるのを感じながら、早々に退散することにした。
同じものをもう一回くらったらしばらくは悶絶して動けなくなるだろう。
潮時だな、そう思う。
そうしたら、声がかかる。どこか心配さを含んだ声だった。
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