第1話 捨て子ダミア

ダミアには両親がいた。酒飲みで暴力的な父と何もしない堕落した母だった。当時6歳だったダミアは家事の全てを任されていた。

「おい、ダミア!酒持ってこい!」

もう、日付を過ぎた時間だ。同い歳の子供なら既に寝ている時間だった。しかし、ダミアは寝ることを許されない。急いで台所に向かった。

「ダミア、ここ掃除しておいてって言ったわよね。今すぐ、やりなさい。」

台所に向かう途中母に声をかけられる。そこは昼の間に掃除したはずの所だった。きっと父が汚したのだろう。

「だって、でも父さんが…」

母の平手打ちによってダミアの言葉は中断されられる。

「言い訳はいいから早くやりなさい。」

そう言って母はどこかへ行ってしまった。ダミアは急いでその場を磨き、台所へ走った。父の元へ酒を持っていくと、父は真っ赤な顔をしていた。酔っているせいもあるだろうが、それ以上に怒っているように見えた。

「ダミア、遅すぎるぞ。すぐ持ってこいよ、すぐ!」

瓶の割れる音と共にダミアの頭に激痛が走る。床に散った自分の血を見て、瓶で殴られたのだと分かった。

「ごめんなさい…」

絞り出した声で父に謝罪する。

「あぁ、もういい、早くどっか行け!」

ダミアは静かにドアを閉め、部屋を出ていった。

ダミアにとってこれは日常茶飯事だった。クラクラする頭を抑えながら、自室に行き、ベットに倒れ込んだ。


翌朝、ダミアがリビングに行くと珍しく父が起きていた。

「ダミア、やっと起きたか。実はお前に言うことがある。」

父の酔ってない姿を見るのはこれが初めてだった。何を言われるのか、期待と不安が混ざり合い、変な気持ちになった。

「今日で、ここはお前の家じゃなくなる。お前はもういらない。」

実の父から告げられた言葉に耳を疑う。どうして、沢山働いてるのに。口に出そうとしても、かすれたヒューヒューという音しかでなかった。

「お前の分の食費が勿体なくてな。それが無くなればもう少しいい酒が飲める。」

そう言って父はダミアを追い出した。酷い扱いを受けてたとはいえ、ダミアにとってはそれが両親からの愛だった。その歪んだ愛すら、受け取れなくなることでダミアの心は少しづつ死んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る