第3話 同居希望
慶太の家に初顔合わせに行ってからというもの、
慶太が言うには悦江は明美をとても気に入ってくれたらしく、慶太との仲も更に深まり毎週末は明美の家泊まりに来るようになった。
そして悦江から明美も仕事で疲れてるのに休日までご飯の用意をさせて申し訳ないとお金を包んで持たせてくれたり、食べ物の差し入れなどをくれたりするようになった。
そして後日、自分の息子がお世話になったというお礼の電話までくるようになり、明美はさすがにお金をいただくのも申し訳なく、なにより中年同士の恋愛に親の介入があるなんて過保護も少し行き過ぎているのではないかと疑問に思うようになったが慶太には言えなかった。
その慶太すら疑問に思っている節はなかった。
そうして、慶太と悦江親子との関係性に疑問を持ちながらも明美と悦江との距離は急速に縮まっていかざるを得なかった。
後日、慶太の家で悦江と三人で夕食を囲んでいた。
悦江が近所の美味しい中華料理屋さんの出前を取るから一緒に夕食を食べたいと誘われたのだ。
悦江と話をしていると、さすが長年お店を持っていただけあって饒舌でユーモアがある。
普通の話をしていればただの面白いお母さんだ。
だが、悦江は4人兄妹の年の離れた兄達の中に生まれたただ一人の女の子でとても甘やかされて育ち、
自分でもそれを自慢していたし、外見も綺麗だったので周りからチヤホヤされるのは当然の事と自負していて18歳からはお水の道一本で生きてきた事が誇りだと言っていた。
悦江は料理も好きではなく、家事もほぼしない。
朝、昼、晩 コンビニ食かスーパーのお惣菜を食べている。
洗濯物や部屋の掃除は慶太がしているが、3LDKの慶太の家は物が多くところどころに散乱していてお世辞にも綺麗とは言える状態ではない。
食事はと言えば慶太も週末こそ明美の手料理を食べているが平日はほぼ外食かコンビニ食で済ます。
そして悦江はよく喋る。
そしてかなり我が強い。
悦江といると悦江の演説会、いや独壇場だ。
明美もヨイショが苦手な方ではなく悦江に気に入られたい気持ちもあり、悦江が気持ちよく喋れるよう相槌を入れお世辞も取り入れる。
そこが悦江に気に入られてもいる一つでもあるらしい。
そんな折、悦江から唐突に提案があった。
「明美さんはとてもいい人で、私、明美さんとだったら上手くやっていけると思うの。
うちの慶くんにはもう明美さん人ほどの人は現れないと思うのね。
だからどう?ここらで結婚を決めちゃってくれないかしら?
それでこの家で一緒に住みましょうよ」
慶太も「お袋、それは俺たちがちゃんと考えて決める事だから」と言ってくれたものの
「まぁ、明美がこの家で一緒に住んでくれたら助かるけど」
明美は戸惑いながらも
「私なんかにそう言っていただけてとてもありがたいです。前向きに考えさせていただきます」
と相手に期待させるような返事をしてしまった。
悦江は上機嫌になったが、思いついたらすぐ行動に移したいタイプで悦江から
早く引っ越して来てくれないか。
明美さんは働いているから昼は自分で適当にやるから朝ご飯と夜ご飯だけ作ってくれればいいから。
自分は何もできないけど洗濯とかお掃除よろしくね。
部屋は今慶太が使っている6畳の部屋で夫婦二人で我慢してちょうだいね。
またある時は明美さんちの冷蔵庫もうちのキッチンに入るかしら?
冷蔵庫は別々にしましょう。
そんな一方的な悦江の同居像を語る電話攻撃が始まるようになった。
だが、そんな悦江の希望の為に同居するのは正直嫌だ。
同居なんて現実問題すぐに行動に移せる問題ではなく、明美も適当にのらりくらり交わしてしまっていた。
それが悦江には気に食わなかったのか、
悦江の元々の性格なのか、
以降、悦江は自分の思う通りに行かないとあの手この手で自分の希望を通そうとしてくるようになった。
秋の色も深くなっていた10月中旬。
悦江は自殺未遂をした。
義母はモンスター 林さくら @sakura1112
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