第2話 スーパー

 だけど、次の日、彼女と色っぽい事が起きるはずがないのを知った。


「いらっしゃいませ」

 大学の講義が終わった夕方、スーパーのバイトをしてた。

 レジに立って、商品をスキャンしていく。

「お会計、3526円です」

 機械になったつもりで、決まった動作を繰り返していた。

「いらっしゃいませ」

 手順通りに次の客に言った。

「あれ?君?」

 驚いたような声に、初めて次の客の顔を見た。

「あっ!」

 同じく驚いた。

 昨日カフェで会ったのび太君発言をした女の人だ。

 さらに驚いたのは、女の人の隣にいた存在。

「お母さん、本読んで来ていい?」

 小学生ぐらいの子どもが女の人に言った。

 お母さん――。

 その響きが似合わない。年上には見えたけど、子どもがいる感じには全然見えなかった。

「奇遇ですね」

 女の人が笑顔を浮かべた。

「ここの店員さんだったんだ。見覚えがあるはずよね。私、毎日買い物に来てるから」

「そうなんですか」

 言われてみればスーパーでも女の人の顔を見た事があった気がする。

 話をしていると、列に並んでる客が早くしろという風に睨んで来た。

 とりあえず機械的に商品をスキャンする。

 だけど、女の人にじっと見つめられ、体が熱くなった。

 やりづらい。

 商品が手から滑った。

「失礼しました」

 慌てて、菓子パンを拾った。

 子どもが好きそうなチョココロネだった。

 カゴの一番底にはコンドームの箱があって動揺した。

 他の客だったら何も考えずに商品をスキャンするだけなのに、それを使う所が浮かんでしまった。

「気まずいね」

 目が合うと女の人が言った。

「お会計、5963円になります」

「ゴクロウサンね」

 ご苦労さん。その言葉がピッタリだと思える程、気まずいし、緊張する。

 女の人が六千円で出した。


「37円のお返しになります」

 レシートと一緒に小銭を渡した。

 その時、指先が触れた。

 触れた瞬間、さらに緊張した。


「佐々木君ありがとう」

 名札を見て最後に女の人が言った。

 さも親しそうに。


「ありがとうございました」

 無表情に答えた。

 動揺してるのを知られるのが悔しい。

 のび太君(頼りなく弱い男)じゃない所を見せたかった。

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