7.学校と書いて戦場と読む

私は家から1時間以上かけて高校に通っている。

本当は地元の高校のほうが近いし、定期代だってかからないからよかったんだけど、その選択肢だけはどうしても選べなかった。


だから必死に勉強して……そう、一人で勉強して、遠いけど地元高校よりも偏差値の高い学校に入ることができた。


嬉しかった。本当に嬉しかったよ。

だって、それでやっと変わると、その時は信じてたから。



学校の最寄り駅で降りると、同じ制服の生徒がたくさん下車して同じ方向に歩いていく。

途中、同じクラスの生徒が集団になって前方を歩いているのが見えたから、私はスピードを緩めて、なるべく彼らと距離をとって歩いていく。


あいつらに気づかれでもしたら……


だめだ朝から不愉快になる。


そう思いながらなるべくゆっくりと歩いていると、他のクラスメートたちが私を抜いていく。


私のほうをチラリと見て、隣のやつとこそこそ笑いながら。


このやろー。聞こえてんだよ。絶対わざとだろ。


「……我慢、我慢。いつものこと。いつものこと……」


そう。いつものことだ。別に昨日今日、始まったことじゃない。


容姿が特段優れているわけでもない。体重は残念ながらぽっちゃり系だ。アニメとゲームばっかりしてたからか、いつの間にか眼鏡をかけるようになってしまった。

お母さんには「勉強のしすぎなんだよ」って主張するんだけど、大量の漫画とゲームを指差されたら、反論も残念ながらできない。

その眼鏡もオシャレなものにしようとがんばったつもりだ。


そう。

がんばって周りについていったつもりだった。


でも


でも、いつの間にかどのグループからもハブられてしまってて……


見た目も運動も頭も、ぜんぶイマイチな私は、私だけの世界を作って耐えていくしかなかった。



高校だから、中学の時とは多少は違っている。

物理的というか、あからさまな事は確実に減ったと思う。それはありがたいと素直に思えた。

少なくとも下駄箱にセミの死骸が入ってたり、「ブス」「デブ」「死ね」なんて書かれた紙が大量に入っていることもない。


それでも、今でも全員ではないにしろ、私への嘲笑は絶えることはないし、私に対して友好的な子が出てくることもなく、教室では私はいつも一人だ。

手紙が私の前後左右で回ってることも中学時よりは減ったけど未だに続くし(よくそんなに暇だな、と思う)、それを回してるときの、先生が見てないところでの彼女たちの視線は、十中八九、私へと向けられるのだ。

もちろん、それに加担しない女子もいてくれるけど、かといって味方をしてくれるわけでもない。


マシにはなったんだ。

そう。マシになった。


そう思えば、少し心は穏やかにもなれる気がする。


でも――でも、やっぱり私の気が本当に休まる場所は、休み時間の保健室か、放課後の図書室しかなかったんだ。



だから、私は『周りはすごく幼稚で、あほな集団なんだ。群れて行動するしかできない臆病者なんだ』って思い込んで、『あの子達と私は違うんだ』『私は一人でも生き抜いてみせる』

と思って、毎日を耐えていくしかできなかった。


絶対に学校だけは休まなかった。


私だけの人生だから。

お母さんは、お父さんと離婚してから、本当にがんばって私を養ってくれているから。

大好きなお母さんに、悲しい思いだけはさせたくなかったから。


だから私は、『教室』という地獄へも、震える足を踏み入れることができていた。

あともう少しだから。


後もう少しで、『もっともっと大人な人たちがいる世界』が、私を待ってるだろうから。


……でもまず痩せなきゃかな、やっぱり……


腹立たしくも、スカートの上にむにゅっと乗っかっているお腹をつまんで、教室に入っていった。


私の、『戦場』へと。


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