3.夢遊病?
「―ん、あれ……ここ……家?いつの間に……?」
あの恐怖の瞬間の後の記憶が無い。
気がつくと、自分の部屋のベッドで眠ってた。
慌てて時計を確認すると…………
「え?うそ!?あれから10分も経ってない!…………って、ア、アニメまだ間に合う!!」
時計を見るなり、いつも見ているアニメの放送時間にぎりぎり間に合ってることに気づき、さっきまでの恐怖は一旦頭のどこかへ行ってしまった。
ひとまずはテレビをつけねば、とリビングまで降りていった。
リビングにはいると、奥の台所で母がまだ食器を洗っているところだった。
「あ、ただいまお母さん」
「あぁ、おかえりなさい。…………って、あなたさっきも言ってたでしょ」
「え?さっきって?」
「ついさっきよ。帰ってくるなりいつになく元気な声で『ただいまー!』って。顔はこっちに出さずにそのまま二階に上って行っちゃったけど」
「…………え…………?」
「…………ど、どうしたの、その反応。なんかあったの?」
うそだ。
全く記憶に無い。
だってだって、あの真っ黒な、大きな口で食べられる!!って思って、しばらくして目が覚めたら、もうベッドの上だったんだ。
何だろう、この気味の悪い感じ――。
心配そうに母が顔を覗き込む。
「大丈夫かい?顔、真っ青だよ?」
しばらく考え込んで、私は母をまっすぐ見てこう言った。
「…………ねぇお母さん、私って小さな頃夢遊病だったりした?」
「なに、いきなり。そんなわけ無いでしょ」
「じゃ、じゃあ、最近変なことがない?れ、冷蔵庫の中身が勝手に無くなってたりとか…………」
「冷蔵庫の中身は私の知らないところで無くなっていってるけど、それはあなたが私に隠れて何かしら食べてるからでしょうが」
「うっ…………!そ、それは…………そう、だけど…………ってお母さんやめておなか触んないでってば!」
ち、ちがうの母さん。わ、私が隠れてケーキ食べてるとか、夜中に我慢できなくてちょっとお菓子食べちゃったりとか、そういうことじゃないんだってば。
それは無意識じゃなかったし。
そう説明するんだけど、母は首をかしげて否定するばかり。
「んー…………やっぱりそんなそぶりは無いわよ?もしそうならさすがに気づくでしょうし。無意識に夜中に出歩いて、目が覚めたらぜんぜん知らないところにいた、なんていうこともなかったでしょう?」
「う、うん…………確かに…………」
「よく分からないけど、ちょっと疲れてたんじゃないの?お風呂に入ったら?」
「うん…………ありがとう…………って、そうだ、テレビ見に来たんだった」
「もう。終わったら入るのよ」
「はーい」
変だ。何か変だ。
薄ら寒く感じながらも、極力考えないようにしてテレビにできるだけ集中した。
残念ながら、その回の内容はぜんぜん覚えてないけど。
そのあとお風呂に入って、今日起こったこと――帰り道に遭遇したあの真っ黒な生き物のことを思い出して、どうして無意識だったはずなのに無事に家にたどり着いて、お母さんにただいまの挨拶までしてたこと――を反芻した。
考えてるうちにやっぱり怖くなってきて、窓の外から覗いてるんじゃないかとか、鏡の中にいるんじゃないかとか、いろいろ考えてしまって、警戒しながら体を洗ったりしてたけど、結局何も起こらなかった。
「はぁ…………何だったんだろう。疲れたー…………」
今日見たことも、結局気のせいだったのかも。
お母さんはああいう風に言ってるけど、私どこかおかしいのかもしれない…………。
どうしよう、精神科か心療内科かな…………なんて思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
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