第7話 100歳を機にエルフの王都へ奉公にでる

エルヴィーノが90歳過ぎた頃、母親のリーゼロッテには首輪の脱着を自由に出来る事を話す。

リーゼロッテは多少驚いたがヤッパリ見たいな顔をしていた。

そしてリーゼロッテは重大な事を話してくれた。

父親の名はエルフの王、ディーデリック・フォン・デ・ブリンクスその人だと。

だがエルヴィーノはあまり驚かなかった。

(なんとなくそうじゃないかな?) と思っていた。

それは神聖魔法が原因だ。


リーゼロッテからは”その事を決して口外してはいけません”と念を押され、エルヴィーノは頷いた。

この事は当事者だけ知らなかったらしい。

(当然と言うか、仕方ないと言うか、デイビットとオリビアの心境はどうだったのだろうか? )

一瞬、頭を過ったが直ぐに興味が無くなった。

俺は俺だ。

皆も今まで通りに接してくれている。

”ありがとう”と心で思いながら感謝する。




90歳代はオスクロ・マヒア暗黒魔法エスパシオ・マヒア空間魔法の練習を中心に練度を上げる事を目的にしていた。

それとサント・マヒア神聖魔法だ。

ダークエルフが使えないサント・マヒアだがエルヴィーノは使える。

どうせなら、もっと練度を上げて他のマヒアも使えるようにしようと考えていた。


オスクロ・マヒアは低級でも超強力だが、派手で制御が難しいので広域や殲滅戦仕様だろうと思っていた。

そこでエスパシオ・マヒアだ。

静かに、目立たず、確実に! を原則に考えたのがバシーオ真空だ。

構想は以前からあったが、具体的に1人~多人数まで使えるように考えた。

対抗魔法としてエアラス酸素も考えた。

そして練度を積み上げた。




エスパシオ・マヒア空間魔法

バシーオ真空・・・敵の口に鼻や、一定の高さに広域な真空空間を作り出し窒息死させる。

エアラス酸素・・・魔法陣で別の場所から自分や仲間の顔もしくは気道に酸素を送る。

エアラス・グロボ酸素の玉・・・酸素の玉だ。

テンペラトラ温度操作魔法グラビダッド重力操作魔法ルス・マヒア光度操作魔法ベロシダッド移動速度操作魔法を使い水の中もこれで入れる。

ゆくゆくは魔導具を使った方が簡単だと考えた。

エスパシオ・ボルサ空間バック・・・空間内は何故か時間が停止状態で温度もそのままで保存される。

今はバックの容量だが、ハビタシォン部屋ボデガ倉庫ギガンテスコ巨大倉庫と熟練度が増すと拡大すると魔導書に書いてあった。


サント・マヒア神聖魔法は、エスクード・サガラド聖なる盾と、アルコ・サント聖なる弓と、サント・オペラシォン聖の魔法操作を頑張って覚えた。


最後に必殺技だ。

オスクロ・マヒアが一番得意だが、威力が大きくて目立ってしまう。

これにヒントをくれたのが、倉庫を掃除中に天井によく付いている蜘蛛の巣が頭に大量にくっ付き、洗わないと取るのが大変だった事だ。

蜘蛛事態も良く見たことが無かったし、どこからこの糸を出しているのかも知らなかった。


結論から言うと、蜘蛛の真似は出来ない。

と言うかしたくない。

ただ想像は出来た。

自分の体内にある魔素を糸状にして指先から出すのだ。

尻は無い。

あとは、その糸の強度や長さ何本出せるか? 動かせられるか? の練習をした。


指先から糸を出すのは初めて魔法の練習をした時と同じやり方をした。

兎に角想像だ。

空想でも妄想でも思い描く事が重要だ。

人差し指から細い糸を放出するようにゆっくりと体内の魔素を操るように指先へと集中する。

すると、ピュンと指先から5mm位の黒い線が出た。

真っ直ぐ伸びる線。

とりあえず失敗。

(糸だからさ、柔らかくないと)

そして自分の意思で自由に動くまで特訓した。


実を言うと、これが一番苦労した。

放出系などは割と簡単だが、出して維持しながら操作する。

難しいです。

あきらめました。何度も。

結果、数年かけて出来たのが両人差し指から直径1mmの黒い糸を出せるようになりました。

距離は測れない。永遠と出てくる。

ただ、出す速さは物凄く速くなった。

一瞬で、すごく遠くに飛んで行く。

あと、強度。太さ50cmほどの木に絡ませて、力を入れると粉々に切り裂いてしまうほどになった。


100歳前になると0.5mmの糸で自由自在に動かし、撫で切る、絡め切る、微妙な力加減で締め上げるなど。

本数は変わらないけど、糸を切っても糸は消えずに残り、本当の糸の変わりにも出来るようになった。

当然だが魔素が無くなると自然消滅する。

岩もチーズのように薄切りや賽の目状にするのも容易くなった。

蛇のようにゆっくりと近づき先端で突き刺したり、絞め切ったり、一瞬で1km先の岩を切ったりも出来ようになった。


独創的な必殺技が完成した。

近くに有る何十年も使っている低級な魔物の多い洞窟で実戦済みだ。

まぁスライムから始まり、ゴブリン、オーク、一番強いのがオーガ。

もはや実験場と化している。

エルヴィーノは必殺技をモルテ・メリソスと名付けた。

普段は不器用な左手しか、この必殺技を出さない。

右手は奥の手の、更に奥の手だ。




※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez




100歳を迎えエルヴィーノは働く事を決意する。

そしてリーゼロッテに相談すると、翌月には自分が王宮で働く事を教えられる。

デイビットとオリビアは反対したが、どうやらエルヴィーノの父親が頑張ったらしい。

たまに王宮に行った時にブリンクス王にお願いしたのか、攻め立てたのか? とにかく、王宮で召し使いの仕事をもらってきた。

(後から思ったがエルフ中にダークエルフが一人紛れ込むのだから大変だ。良く許されたものだ)

リーゼロッテが頑張ったのかブリンクス王が頑張ったのか分からないけど、とにかく嬉しかった。


勤め先は王宮でブリンクス王の親衛隊長ジャックの部下でミシェルの雑用係をする事になる。

ついては、王宮内で白い頭巾の着用も義務付けられる。

これは、エルヴィーノがダークエルフと解らないようにせる処置で、頭全体を隠すため肩まである頭巾だ。

眉のあたりから鼻の上までは白いレースが二重になっている。

だから黒い目も見えず口元しか見えない。

エルフの中にダークエルフが居たらまずいだろうと、その頭巾には認識阻害の魔法がかけてあり余り記憶に残らないと言う。

主な仕事は掃除など、こまごました雑用だ。


そしてエルヴィーノは運命の魔宮へと向かうのであった。

リーゼロッテと二人で魔法陣に入り、呪文を詠唱する。

すると、景色が変わり王宮であろう一室に出た。


王宮に転移して待っていた直属の上司であるミシェルと挨拶を済ませ、リーゼロッテと別れた後、エルヴィーノはミシェルと面談し頭巾を被ったまま説明を受け、仕事内容、宿舎、便所、食堂など、それぞれ持ち場の担当エルフの名前など聞いた後に最も重要な話しをされた。



「ここはエルフしか居ないので、お前のようなダークエルフが居ると騒ぎになります。だから決して頭巾を取らない様に」と。

そして「お前がエルフに危害を与えたり、騒動を起こしたり、物を壊したり、盗んだり、迷惑行為をすると、お前は罰せられ、お前の母親も罰せられる」と。

自分のしたことで家族が罰せられるとは、たまったものじゃない!エルヴィーノは「ハイ」と答える。


そして、数ヶ月経ち仕事も馴れていった。

エルフに迷惑をかけないようにするには、エルフと接しなければ良いと思い、エルヴィーノは友達も居ない一人ぼっち生活をしていた。

特に寂しいとは思わなかった。

仕事終わりや、休みの時などは図書館に行き魔道書や様々な本を読んでいた。



エルヴィーノの環境は充実していた。

好きな魔道書を読み耽り、世界の色んな知識を貪るように吸収していた。



そんなある日。

ミシェルから、たまにある荷物を取り行くお使いを頼まれた。

たいした使いでは無い。

いつもの花屋に行き「ミシェル様の使いです」と言えば荷物を渡されるので、それを持って帰るだけである。

自分に頼む位だからたいした物では無いと思っていた。

ちなみに花では無い。


エルヴィーノは宮中や道を歩くときに、人の気配を避け、人の居ない通りを急ぎ足で行動していた。

物を受け取り帰る途中、あと3つ角を曲がればミシェルの待つ部屋にたどり着く時、運命の歯車がガチャンと音を立てたが、気が付くはずもなかった。




目の前に後姿でも解るほどの綺麗なお姉さんが歩いていた。

エルヴィーノは早く帰りたいけど、ゆっくりとした歩調で、追い越そうか迷っていると、女性は曲がる予定の角を曲がってしまった。

仕方ない、曲がったら走って追い越そうと思って、早足で角を曲がると!!


“ドン”と何か柔らかい物にぶつかりエルヴィーノはビックリして尻餅をついた!

その時、エルフの女性に声をかけられる


「キャ! ビックリした。あら、大丈夫? あなたは何処の子なの?」

「は、はい、僕はミシェル様の元で召使をしているエルヴィーノと申します」

「そぅ・・・」

そして、しばらくやりとりした後ジロジロ見ていた女性から逃げるように去って行った。


「あぁぁビックリしたぁ、正体がばれたかと思った」


後から上司のミシェルに女性の特徴を伝えてあると

「あぁ、それはブリンクス公爵だ。まだ、若いが未亡人でね、結婚して直ぐにご主人を戦で亡くしてねぇ。アチコチから声がかかるらしいけど、かなり面食いらしいよ」


なるほどと頷いたが”面食い”の意味が分からなかったエルヴィノだった。

あの人の自分を見る目が怖かったが、バレて無さそうだし大丈夫だろうと思っていた。





さぁ、とうとう回り始めた歯車が二人の運命を変えていきます。

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