第8話 ロザリー・ファン・デ・ブリンクス公爵婦人

未亡人の心の隙間に見知らぬ親子の光景が衝撃と共に闇が落ちて行く・・・




その美しい女性は未亡人だった。




白磁のような白い肌、大きな二重瞼の目には青空のように透き通るような碧眼、スッとした高い鼻、薄紅色であまり大きく無い厚めの唇、小さく鋭角な顎、黄金に輝くウェーブのかかった髪を左側にまとめて胸に置き、ふくよかな双丘は重力を無視して下着も着けず前方へ起立していた。

それとは対処的にくびれた腰を境にさほど大きく無い臀部だが、引き締まった臀部は丸く弾むような大きさで双丘に負けないほどである。


100年前のダークエルフとの戦いで夫を亡くし未亡人を貫いて、亡き夫エミリアンに操を立てる貞淑な女性として、エルフの中(特に既婚女性に)とても信頼が厚い。

そんな性格も良い、たぐいまれな容姿を持つ未亡人を世の男達エルフがほって置かないのだが、例外無く玉砕し独り身を貫いていた。

亡き夫エミリアンはエルフの王ディーデリック・ファン・デ・ブリンクスの第2子だった。


エミリアンの死後、エルフ国メディテッラネウスにおいてエミリアンの内政の功績を後世に伝えたいとブリンクス王に嘆願し公爵の位を受け継いだ。

甘く透き通るような綺麗な声、シミやシワも無い女神のような美しさのこの女性。

実は心に闇を抱えていた。

人には言えないその闇とは・・・




小さい男の子を対象に抱く愛情・執着・・・少年愛好家だ。




元は正常思考だったが亡き夫と性に目覚め、性技の限りをつくし行為に励んでいた。

しかし夫が亡くなった後再婚の話も数えきれず出て来るも、自分の性癖がエルフとして度を越していると自覚するあまり再婚しても以前のようなメクルメク快楽の彼方へは行けないと考えていた。


そんなある日、散歩しながら街の景色を見ていると何組かの親子が遊んでいた。

珍しくはないが、エルフは長寿の為余り子供は出来ないのである。

早くに未亡人となった彼女にも子供は居なかった。


公園の近くの椅子に座り一休みしながら親子達を見ていると、ロザリーの目に衝撃の光景が映る。

ほとんどの親子が母親と子供で、一番近くで見ていた親子は母親と男の子。

それがキスをしたのである。

ロザリーの目の前で。

廻りの親子も同じである。


ロザリーは目を見開き、身を震わせた。

まさに衝撃であった。

電気系の魔法を当てられたかの衝撃がロザリーの全身に走ったかに思われブルッと身震いをする。

(実際は単なる親子の触れ合いだ)

ロザリーは、いそいそと自宅に帰る途中ブツブツと小声で喋りながら睨むような眼差しで・・・まるで遠くを見るように帰って行った。


ロザリーは公爵である。

地位があり、金もある。

信頼のおける家臣もいる。

私利私欲のために、そこそこの事は出来る。

専属の召し使いの中でも信頼の厚いメイド長ナタリーと、専属の騎士の中でも影の仕事もこなすグンデリックが居る。


二人はロザリーが産まれる以前からロザリーの実家であるコルト家に身を置き、ロザリーが幼き時よりしつけや、魔法に学問、一般的な世の中の事まで教えてきたつもりである。

160歳の時に公爵家に嫁ぎ、幸せ一杯のロザリーを影ながら御世話をするのが二人の生涯の楽しみになっていた。

ところが、ダークエルフとの戦争でわずか40年足らずの夫婦生活が終わり、そのまま未亡人として暮らしてきたが、八方からの再婚の声も全て断る始末。

あれから100年も経ち二人が再婚を諦めた矢先にロザリーからトンでもない爆弾発言が二人に投げられた。



「エルフの100歳前後から赤子までの名前と両親を調べよ」と。



二人は「何故?」と聞いた。

ロザリーはこう答えた。

「私の理想の夫を育てます」

二人ともポカーンとしているとグンデリック問いただす。

「ロザリー様!一体どう言うおつもりか?」


グンデリックの思想一般のエルフ的な考えは裕福な家の娘として類い稀な美貌と、知識にマナーを身に着けた自慢の娘が、何を言っているのか信じられなかった。

娘の居ないグンデリックは本当の娘のような思い入れを少なからず持っていたからだ。


ただ、ロザリーとグンデリックが話しているとナタリーは「カシコマリマシタ」と告げる。

その言い方と表情は、ハァ仕方ない・・・的な感じだ。

ナタリーは知っている。

当然女同士なのでグンデリックには解らない事もあるし、ロザリーのこのような態度と話し方は、自分の考えを変えない事も。


確かにエルフは長寿だ。

成人してからも若い時間が長い。

ロザリーはまだ若いからと、ナタリーも勝手に考える。

過去も”まぁまぁ”とナタリーがグンデリックをなだめる事も多々あった事だ。


数日経ち、ロザリーの執務室へ報告書を持ってグンデリックとナタリーがやって来た。

ロザリーが「どうですか?良さそうな子は居ましたか?」と期待しながらたずねた。

一応ナタリーとグンデリックが二人で検査して身元の確かな、ある程度身分の高い子を選別してロザリーに見せた。

一応魔法で両親と本人の姿が見えるようになっている。


まず、階級、両親の名前、職業、家族構成、年齢、だいたいの身長、おおよその体重、性格などが調べられてあった。

その数10人。5歳から12歳まで。

一通り目を通してロザリーの口からは「これだけですか・・・」ナタリーが思うに、どうやら気に入らなかった様子。

何度も写真を見て最終的に二人に絞るがロザリーから「暫くこの件は保留にしましょう」と告げられる。


グンデリックはヤレヤレ的なチョッとほっとした気分だった。

ずっと見てきた我が子のように思う娘が自分の夫を育てたいなどと。

グンデリックは正気の沙汰とは思えなかった。

ナタリーは理解していたようだが「俺には解らん」と納得がいかない様子だった。




これは王宮内でバッタリとエルヴィーノに合う10年前の出来事で、人知れず変態が発生した時の話である。

実際にそんな野望は難しく、子供に話しかけても怖がられ回りからは誘拐犯に見られたりと、人を使っての説明も怒られ怒鳴られ交渉で雇った旅人のエルフにも冷たい目で見られたり。

もっとも、身元のしっかりした子が簡単に手に入る訳もなく、今までの苦労は何だったのかと半ば諦めていたこの頃だった。


そしてロザリーにとって運命の出逢いが待ち受けていた。

何も知らないエルヴィーノにとっても宿命の歯車が回りだす。





この後、幼気な子羊が淫魔に食べられていく展開です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る