第5話 魔導具と魔法陣

エルヴィーノが60歳の頃には更にエレミエンタ・マヒア魔導具や、コンジュラサオン・召喚魔方陣マヒアに言い伝えや、以前家族が旅の吟遊詩人から聞いた話を聞かせてくれた冒険譚のおかげで外の世界にも興味を持ち始める。


外の世界は三人から個別に話してくれた。

皆、好きな物語の系統があり、リーゼロッテは恋物語で甘く切ないのが好きらしい。

オリビアは世界紀行でいろんな場所に行き、風景や食べ物の話が好きみたいだ。

いつか、そこに行って食べたいと何時も言っている。

デイビットは冒険譚だ。

戦いと征服、剣技と鍛錬、血沸き肉躍る物語が好きみたいだ。


興味を後押ししたきっかけは些細な事で、家にあった本を読破し更なる知識への渇望を食事の時に話した。

「もっとマヒア魔法エレミエンタ・マヒア魔導具を勉強したいし、外の世界を知りたい」と。

簡単なビダ・マヒア生活魔法は既に覚えているので皆の役にたちたいと打ち明けるとリーゼロッテが近い内に取り寄せると約束してくれた。


数日経ちリーゼロッテが外出から帰ってくると、沢山のグリモリオ魔導書と幾つかのエレミエンタ・マヒアをプレゼントされた。

自分たちの好きな本もそれぞれ与えられ、エルヴィーノはそれぞれが読み終わった本を順番に読むことになる。

そしてエレミエンタ・マヒアに釘付けとなっていった。


メタスタシス・マヒア転移魔法とエレミエンタ・マヒア。

ブエロ・マヒア飛行魔法とエレミエンタ・マヒア。

こだわりの家を作るためのグリモリオ。

他にも、国が亡びそうな魔法だとか、訳の分からない物を召還する魔法だとか、いろいろあったが、エルヴィーノは戦いには興味が無かったので3つに絞り読みふけっていた。


転移魔法陣のグリモリオとエレミエンタ・マヒアを参考に、簡単な転移装置を作ってみた。

ススタンシア・コモニ物質通信魔方陣カシオンだ。

小さな箱に魔法陣の模様を描き、中に入っている物を指定した場所の魔法陣へ移動させる魔法の箱。

このエレミエンタ・マヒアと、ススタンシア・コモニカシオンを、長い名前なので略して・・・エマスコと呼ぶ事にした。

送る物は手紙だ。


今のダークエルフ達が小さな魔力で発動する魔法陣は紙を送るのが精いっぱいだった。

だが、非常に有効活用できた。

一か所への送信だけだが、エルヴィーノが山へ遊びに行き、デイビットが狩りへ出かけていても家から手紙で交互にやり取りできるからだ。

因みにエルヴィーノのエマスコ通信魔道具はリーゼロッテのエマスコと相互通信出来る。

デイビットが持っているエマスコと相互通信しているエマスコはリビングに置いてあり、出かける時に持って行く事になっている。

当然だが、中の手紙は直筆だ。




70歳を越えると、いろんなオスクロ・マヒアの応用を教えてくれた。

リーゼロッテが、本当は150歳の成人した際に教えるはずのダークエルフに伝わる魔法も密かに伝授してくれた。


オスクロ・エスパーダ暗黒剣・・・幅広であっちこっち尖っている片刃の剣。魔力の量で大きさに強度を変えられる。魔法剣なので物理攻撃値が異常に高く何でも切れる。(扱う者の熟練度によって形状と威力が異なる)


オスクロ・エスクード黒盾・・・体の成長と共に巨大化する盾。全ての魔法攻撃を無効化するらしい。恐怖の威圧感を纏い術者の周りを旋回してくれて、術者の意思で盾が自動的に攻撃を回避してくれる。(扱う者の熟練度によって形状と威力が異なる)


オスクロ・ネブロ暗黒霧・・・奇襲や、敵から逃げる時など、一切の光を消してくれる小規模から広域まで対応出来る魔法だ。目の前に炎が有っても温かいだけで見えない。光の魔法で照らしても同じだ。(扱う者の熟練度によって形状と威力が異なる)


オスクロ・リァーマ暗黒炎・・・炎も燃やす黒炎魔法。黒炎小で火の魔法の特大に匹敵する。幼い時はまだ使えないと思ったのか嬉しかったけど危険な魔法だと言われ怖かった。(扱う者の熟練度によって形状と威力が異なる)

爺さん先代のダークエルフ王は黒炎の龍を出す程の術者だったとリーゼロッテから聞いた。




400歳近くになっても美しい母親のリーゼロッテからの魔法の指導。

厳しくも充実した日々だった。

リーゼロッテがどんな思いで授けたのかは分からないが、伝授された時は厳しいながら寂しげな表情だった。


この頃エルヴィーノは、1人で魔法の練習をするために狩りの時や、エレミエンタ・マヒアと、コンジュラサオン・マヒア召喚魔方陣の作成時は首輪を外していた。

首輪を外した方が解放感あるし、魔力を惜しみなく使えるからだ。

後日、三人が首輪を付けていてもある程度魔力を使えるように首輪の魔法を調整した。

全員の首輪を外す事も可能だが、ローゼロッテに止められた。


「どこでエルフの監視の目があるか分からないから私達はこのままで良いのよ。ただエルヴィーノ、首輪を外すなら偽物の首輪をしなさい。それと、溢れる魔力を体内に抑え込む練習もしなさい! 」

「ハ~イ、分かりましたぁ」

溢れる魔力を体内に抑え込む練習。

それは無意識の生理現象を意識的に抑える事だ。

流石に、これは難しかったがオリビアから手ほどきを受けて少しずつ覚えていった。




80歳を過ぎた頃はエレミエンタ・マヒアの作成に没頭していた。

作成していた物はたいした物では無い。

ダークエルフが魔力を押さえられ、少ない魔力で作動するビダ・マヒアをビダエレミエンタ生活魔道具に置き換えれば生活も楽になると思ったからだ。

魔導書で空を飛ぶ魔法と魔法陣を参考にしたブエロ・マシルベーゴォの実証だ。


自分が飛ぶのは、それはそれで楽しいが大人のリーゼロッテ達はエルヴィーノより魔力が限られているので意味が無い。

板を浮かせるだけでは自由度が無い。

動作は前後左右上下だけだ。

想像するのは自由に飛び回れて数人、もしくは物を運んだりできる・・・板 ?

試行錯誤が始まる。


グラビダッド重力操作魔法ベロシダッド移動速度操作魔法(加速制御、減速制御、速度制限を含む)、セグリダデ・エキーポ安全装置(魔力枯渇の時に発動し地上まで降りる)、アイレ・レシステンシア・イン空気抵抗無効化盾バリド、テンペラトラ温度操作魔法

上空は結構寒いので温度調節の魔法付与。


一応、アタッケ・フィジィコ・デサティ物理攻撃無効化バド、マヒア・デ・アタッケ・デサティ法攻撃無効化バドの魔法などをデイビットと相談しなから考える。


付与する魔法が多いので、デイビットと一緒に大きな木の箱を作った。

四人が入れる広さのある木の箱だ。縦5m横2m高さ1mで床はある。

最初の発動はピクリともしなかった。

失敗した。


次は浮いた! 

進んだ! と思ったら全速で木に突撃して大破した。

ビックリした。

そんな失敗を繰り返し何度木の箱を作り直したか分からない。




三年の月日が掛かったが、まぁまぁの出来程度のお披露目用の試作1号機が完成した。

「独学だから仕方ないさ。だけど良く完成したな、たいしたものだ」

デイビットに慰められる。

皆が褒めてくれたので嬉しかったのを覚えている。

高度は30mほど。速さは20kmほど。ゆっくり加速、ゆっくり停止。

並行移動を全方向に可能。速さよりも操作性を重視し、快適な乗り心地を目指していた。


ブエロ・マシルベーゴォの完成記念に皆で遠足に出かける事にした。

山の中腹に見晴らしの良い場所があるとデイビットが提案し、リーゼロッテとオリビアがお弁当を用意してエルヴィーノは荷物をルシェ君の中に詰め込んでいた。

ルシェ君とは、完成1号機で魔法の乗り物“木箱”の名前だ。


昼食を終え初夏の日差しの中、エルフの国メディテッラネウスを眺めながらそれぞれ物思いにふけっていた。


「凄く楽だけどコレ、ルシェ君はあなたしか使えないのよね?」

楽しい遠足も終わり帰宅途中にリーゼロッテがエルヴィーノの顔を見て不満そうに呟いた。



「じゃ、みんなの専用を作ればいいの?」

リーゼロッテ、オリビア、デイビットが一様に話しかけてくる。

「じゃお願いね」

「私のも作ってくれるの?」

「本当か? やったー! 荷物運びが楽になるぜ! 」


エルヴィーノはそれぞれの要望を聞きながら、機能を落とした魔法の乗り物を作成していった。

箱は、ほとんどデイビットが作ったけど・・・




※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez




リーゼロッテ専用機

流線型で膝を曲げ、背もたれも傾いていた感じの湾曲した"くつろぎ"型式だ。1m×2mでお腹の上に来る収納式机が横に付く。

腰の部分から背もたれ部分が可動する。

「収納式机に背もたれが稼働する背もたれだってぇ? 」

エルヴィーノは作るのが面倒だったがデイビットに丸投げした。

乗り物全体はピンクで色を連続的に変化させるそうだ。

足元は濃いピンクで頭の方は薄いピンク。

頭、背中、腰にはフワフワのクッションを付ける予定だ。

なんて贅沢な。と内心思ったがクッションは自分で作るそうだ。


操作が難しいと我が儘を言うので、収納式机の横に可動式の加速棒(前後左右に傾く仕様)を付けるよう適当な絵を書き、デイビットが苦労して作っていた。

スライドする加速棒も収納式机の反対側に付けた。

停止位置から奥へ1目盛分押すとゆっくり進む。

目盛の分だけ奥へ押すと更に加速する。

停止から前進は5つ目盛がある。

後退は1つだけだ。

停止は停止位置の目盛まで加速棒を戻せばゆっくりと停止する。

後退は手前に加速棒を引けばゆっくり後ろへ移動する。


「お姫様? お嬢様? お母様仕様だ」

性能、最高速度・・・・30km(通常移動5~10km)

付与魔法。重力制御、加速制御、減速制御、速度制限、魔力枯渇の時に発動し地上まで降りる安全装置、空気抵抗無効化盾、温度調節魔法、物理攻撃-魔法攻撃-無効化魔法、自動追尾攻撃魔法(1度に3つまでのネグロ・グロボ) (全て低位水準)



オリビア専用機

1m×2m×0.15mに二人掛けの椅子を後ろ側に付けた型式だ。

椅子の後ろには板を置き、座って全身が隠れる高さにする。

後ろの板には認識阻害の魔法を付与する。


「飾り気の無い運搬仕様」

性能、最高速度・・・・30km(通常移動5~10km)

付与魔法。重力制御、加速制御、減速制御、速度制限、魔力枯渇の時に発動し地上まで降りる安全装置、空気抵抗無効化盾、温度調節魔法、物理攻撃-魔法攻撃-無効化魔法、認識阻害魔法。(全て低水準)

着色は無く木目のままだ。荷物を置ける空間を確保した実用性重視だ。



デイビット専用機

1.5m×1.5m×0.5mの足が低い椅子に座る型式。

正方形の箱でデイビット一人しか乗れないが小型化されて軽くした分早くなると思ったのだろう。

目立ちたいのか? デイビット専用機は何故か朱赤だ!

本人の要望で2倍の速さにしてある。

やはりデイビットは速さを求める男だった。


「簡素な最速仕様」

性能、最高速度・・・・60km(通常移動5~10km)

付与魔法。重力制御、加速制御、減速制御、魔力枯渇の時に発動し地上まで降りる安全装置、空気抵抗無効化盾。(全て低水準)

デイビットの依頼は早さだった。

他の魔法付与はいらないから、その分早く移動出来るようにして欲しいと。

それでも、もしもの事を考え最低限の魔法を付与する。



全員ほぼ同じ仕様でお一人様用だ。

「家に帰る」と指示すれば自動的に帰宅出来る機能も付与した。

同じ機能の追加は、リーゼロッテの我が儘から付けたスライドする加速棒だ。

停止位置から奥へ1目盛分押すとゆっくり進む。

目盛の分だけ奥へ押すと更に加速する。

停止から前進は5つ目盛がある。

後退は1つだけだ。

停止は停止位置の目盛まで加速棒を戻せば停止する。

後退は手前に加速棒を引けばゆっくり後ろへ移動する。

これを全機体にほどこした。

幼いメルヴィには専用機は無く、オリビアと一緒に乗る事になる。


後日、移動距離と安全装置(デイビットが魔力制御の首輪を付けての状態)の検証をエルヴィーノも搭乗してデイビットとおこなった所、約50kmで魔力の枯渇を感じたそうだった。

そして、自動機能が働いた。

デイビット専用機がぼんやり点滅してゆっくり地上に着地した。


この時は、ブエロ・マシルベーゴォで国と国が争う競争が起こるとは誰も思わなかった。

速さは単純だ。

同じ戦いでも血を流さずに大勢の観衆の元で観戦出来るブエロレースの始まりであった。






かなり先ですがブエロレースを開催します。しますよ・・・多分。

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