第14話 神の意志
カーラはまだ整地していないところへ移動し、他のクラスメイトともに作業再開した。
「私の意志は、神様の意志」
「最上位魔法も、その他の魔法も神がお授けになったもの」
「私は、神の栄光のために働くだけ」
そう言いながら風魔法使いの証である、サルスベリの杖を振った。
風が大地に黒い影を刻んでいく。
神に祈りを捧げるかのように胸の前で杖を立てたカーラが、聖歌のように魔法を詠唱するたびに風の刃が大地を刻み、下草や灌木を薙ぎ払い、整地していく。
カーラの性格をそのまま几帳面で、丁寧だ。
切り口を見比べると、他のクラスメイトは切っていく方向も切れ跡もまちまちだ。 だがカーラの区画だけは彼女の歩みとほぼ平行に切れており、灌木の切れ跡もほぼ水平。
あれほど正確に魔法を行使するのに、どれだけの才能と訓練を要するのだろうか。
「……私も。負けない」
クリスティーナもミズナラの杖を手にし、天に高く掲げた。
すでに整地された区画。水が枯れて乾燥し、ひび割れた川床だけが目立つ川跡。
かつては豊かな水でこの年を潤したであろう川は、見る影もない。
周囲の地形と重ねてみると、昔年よりもずっと細く、浅い川でしかなくなっていた。
クリスティーナの持つ杖の先に、一滴の水が宿る。水色の髪の少女が杖をゆっくりと下ろしていくと、朝露のように地面に垂れていく。
一粒の朝露は、見る間に大きさを増していく。
地面に撒いた一粒の種が、数百の種子を実らせるように。クリスティーナが魔力で作り出した水は、鉄砲水のような激流となって底がひび割れた川に流れ込んでいった。
水は川べりを削り、川幅を広くし、川底も深くしてかつての状態に戻していく。
だが突如増水した川は、急速すぎるほどに広がった。これ以上は市街地や農地まで被害が及ぶ。
そう感じた僕は土魔法で川べりを補強し、アンジェリカが破壊した巨岩のかけらで護岸し、大水で削られないようにした。
だが強力な魔法を使った反動か、クリスティーナは膝をつき、杖を地面に差してやっと体を支えているという有様になる。
それにクリスティーナという水の供給先を失ったことで、流れは急速に弱弱しくなっていった。
徐々に川から、流れる水がなくなっていく。
だけど。
クリスティーナがいる地点からさらに川上。新たな流れが川を下ってやってきた。
変わってしまった川の流れを再び別の水魔法使いたちが戻し、上流とつなげたのだ。
この川幅と水量なら、理想的だ。
朽ち果てた町に、やっと万物の母たる水が戻ってきた。
次々に整地されていく大地と、元の流れを徐々に取り戻す川を僕はぼんやりと眺める。
さっきまで大きな溝でしかなかった川を、クリスティーナは他の水魔法使いと協力してとはいえ元の状態に戻してしまった。
カーラも、クリアも相応の魔法を持っている。
だけど僕ができることと言えば、川べりを補強したり種子の成長を促進させるといった、地味なことだけ。
最上位魔法云々の前に、僕と彼女たちの間にはこれだけの開きがある。
魔法の達人が最上位魔法を使えるわけではない、というけれど。
彼女たちを追いこす日は、本当にやってくるのだろうか。
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