第11話 和解

 二人して懺悔室を出る。ただでさえ蒸し暑い初夏の日に長々としゃべったものだから、汗だくでシャツが体に張り付いてしまっている。

 カーラの濃紺の服は体のラインが浮き出ることもなく、汗で透けることもない。

「いつも告解を聞く側なのに、今日は私が聞いてもらいましたね」

「ところで、ヴォルトさんは信者になる気はありませんか? あなたなら、きっと敬虔な信徒

になれます」

 カーラの勧誘に、僕は苦笑しながら首を横に振った。

「いや、いいよ。最上位魔法は神様が授けたっていう説もあるから、ヒントがないかなって思ってるだけ」

「……カーラ。君なら、最上位魔法を習得できるかもね」

 口にすると悔しさが込み上げるけど、そう思う。

 これだけ熱くてまっすぐで、自分の間違いをすぐに認められる人を僕は知らない。

 神様。ほんとにいるのなら、こんなに一生懸命な子が報われてもいいじゃないか。

 万物の創造主である神がいるという、天上に向かってそう叫びたくなる。

「いえ、私など信仰はまだまだです。聖書についての知識は乏しくても、ヴォルトさんの方がずっと神様の御心に叶った生き方をしていると思います」


「最上位魔法は神様が授けてくださったもの。あなたはいずれ最上位魔法を獲得すると。私、カルラ・フォン・カルダーは確信しています」


 カーラは胸に手を添えながら、僕の目をまっすぐに見据えて、そう言い切った。

 見開かれた茶色い瞳には一片の曇りもなく、その言葉には一切の揺るぎがない。

 つらい過去といつも向き合っているせいだろうか。神様に祈りを捧げているせいだろうか。カーラの言葉には重みがある。

 同時に、こんなに敬虔な子に認められたことが嬉しくなる。

 今まで何度もあきらめかけた最上位魔法の習得が、できそうな気がしてくる。

 王都にある教会なだけあって、僕の故郷である北部のそれより何倍も広い。

 道に迷いそうになって、適当にドアを開けようとすると。

「そちらに行ってはダメです!」

カーラが鋭い声で制止した。

「その奥の部屋は教皇様や大司教様など、ごく限られた人しか入室を許可されていないのです」

 クリスティーナに案内され、やがて再び祈りを捧げる間である聖堂に出た。

 別の入り口から入ると、側面の壁に描かれた絵に気が付いた。

 聖堂には壁画が描かれることが多く、とくに神の物語が描かれることが多い。最近はさらに一つの物語が追加されている。

 ヤギの角にオオカミの毛皮、人のしゃれこうべを抱いた身の毛のよだつような悪魔の肖像画。それが蒼き山や海に立ち、災厄を引きこそうとする。

 それを神様に選ばれた最上位魔法の使い手が、悪魔たちを討ち果たし再び地上に平和が戻る、という物語だ。

「クリスティーナさんには、申し訳ないことをしたと、お伝えください」

「いや、君が言った方がいいかな。本音をぶつければ、きっとわかってくれるよ」


 翌日。その通り、クリスティーナとカーラは仲良さげに登校していた。


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