第7話 入学
「皆さま、マギカ・パブリックスクール入学、おめでとうございます」
年月を重ね黒ずんだ床板と、大理石の壁で作られた学園内の講堂。そこに整列したマギカ・パブリックスクールの新入生。
彼らに対し、学園長から式辞とマギカ・パブリックスクールの説明が行われる。
マギカ・パブリックスクールは十九年前に設立された王国立の魔法学園だ。
それまで、魔法と言えば貴族の子弟が親から子へ教えるか、住み込みの家庭教師を雇って教えてもらうのがこの国の常だった。
だが二十年前の大災厄により状況が一変する。
蒼き山の大噴火、大地を割くほどの地揺れ、蒼き海からの黒い大津波。それらによってもたらされた破滅的な被害と、それを食い止めた最上位魔法の使い手。
より効率的に魔法を学ばせるために学園が創設された。
目標は最上位魔法を会得させることで、最上位魔法は大噴火や大津波といった災厄を止めることができる唯一の手段。
他の魔法では塵芥のように飲み込まれるか、優秀な使い手が束になっても時間稼ぎが精いっぱいだ。
「もはや平和とは言えない時代ではありますが、時代を切り開くのはいつも若者の勇敢と挑戦です。この学園生活が君らに時代を切り開く力の一助となることを祈っております」
「では、新入生代表、アンジェリカ・フォン・アールディス。答辞を」
教師の一人に促され、深紅の髪の少女が壇上に立つ。
「あの髪……」
白のブラウスやワイシャツと膝丈の黒のスカートまたはズボン、上から濃紺のマントを羽織った生徒たちが、にわかにざわめきだす。
この国の貴族なら、彼女を知らない者はいない。
アンジェリカ・フォン・アールディス。国王の一族である公爵家の後継ぎにして、最上位魔法を会得したアデラ様のご実家でもある。
五歳に満たずして魔法を会得し、火魔法に対し比類なき才を示すという。
「めちゃくちゃ美人じゃん」
「家柄も才能も外見もすごいとか、マジヤバいね」
「最上位魔法使えるようになるの、結局はああいう人なんだろうな。てか一族からすでに一人出てるし」
賞賛か諦観、どちらかの声が聞こえてくる中で、僕が抱いたのは闘志だった。
負けたくない。
絶対、最上位魔法を習得して見せる。
アンジェリカは確かに僕より魔法の才能はあるだろう。
僕より早く魔法を覚え、この場の誰よりも早く上位の魔法を使えるようになったという。
マギカ・パブリックスクールでも魔法を効率的に習得するため、上位の魔法までは色々と体系化が進んでいる。
だが最上位魔法だけは、どうすれば使えるようになるのか未だ解明されていない。
僕は腰のベルトに差したトネリコの杖の感触を感じながら、壇上のアンジェリカを見据える。
炎をそのまま髪にしたかのような深紅のポニーテール。整った鼻梁に彫りの深い顔立ち。髪と同じ色の深紅の瞳。
この前馬車に乗っているのを見かけたときは一瞬だったけど、こうしてまじまじと見ると本当に綺麗だ。周囲の女生徒から熱のこもった視線を向けられるのもわかる気がする。
壇上の彼女と一瞬だけ目が合うと、柔らかにほほ笑んだ。その仕草に一瞬だけ胸が高鳴る。
まあ、この世で一番かわいいのは僕の許嫁だけど。
そんな風に思索にふけっていると、
「いたっ」
隣に立つクリスティーナが僕の脇腹をつねっていた。ふくれっ面をして、僕のことを軽くにらみつけている。
「なにするんだよ」
「……なんでもない」
「なんでもないってことはないだろ?」
「……なんでもないったらなんでもない!」
軽く言い争っていると、列のそばに立っていた先生からとがめられてしまった。すると。
「ふふ。仲がよろしいですね」
僕らの隣から穏やかな笑い声が聞こえる。首からロザリオをかけた、栗色の髪の小柄な女子。
わざわざ制服の上から教会の道具を身に着けているとは、よほど信仰熱心なのか。
「でも過ぎたるは猶及ばざるが如し、ですよ。時間と場所をわきまえて」
「……ご、ごめん」
クリスティーナが珍しく素直になって小声で謝ると、穏やかな笑みで返して再び正面を向いた。
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