第3話 お嬢様なの?
「なんと恐ろしい事を・・・。」
「・・・・・本当にどうされたのですかお嬢様?いつもであれば高笑いを上げてやれるものならやってみなさい!!とでもいう場面ですよ?」
「私はもうそのような事をする気はありませんの。家に戻ったらこれまで我が家の行って来た愚行を清算し、民の為に働く所存ですわ。」
「何を言っている?だから見逃せと言うのか?それに民に手を差し出したところで噛まれた挙句に引きずり降ろされて終わりだぞ?何を考えている?」
「きゅっ♪きゅっ♪きゅっ♪」
ゼバスは声を荒げたおかげで少し落ち着いたのか口調が丁寧に戻り、女性の言葉でまた混乱したのか口調が乱れている。その様子が面白くて黒いのは空中で笑っていた。女性の言葉に何やら大変困惑しているゼバス。後ろに居る集団も武器を持ったままお互いの顔色を窺っている様だ。
「私は今日生まれ変わりましたの!!ゼバスの言葉を聞いて今解りました!!今人々の心は荒んでいます!!そんな中あの方は神が遣わせて下さった精霊なのですわ!!人々の悪しき心を浄化し、世を正しく導くために降臨された使徒様なのです!!私はこれからあの方の示された道を行くのです!!」
「きゅ~?」
なにやら突飛な事を言い始めた女性。その目線はばっちり黒いのに向いている。もちろん黒いのはそのような使命を受けた覚えも、女性にそうしなさいと言った覚えもない。そもそも浄化なんかした覚えもなく、黒いのは唯感じ取れた気持ちの悪い物を取り除いただけのつもりだった。
だが女性からすればいつからか心にずっと淀み、溜まっていた嫉妬や妬み、怒りや悲しみ、恨み辛みが綺麗さっぱり消え去り、生まれて初めて晴れ晴れとした気持ちでいるという状況。自分の中に溜まっていた淀みを全て消し去った黒いのを神の使いにしてしまうくらいに彼女の心には心地良さがそれはもう、崇拝してしまうくらいに襲い掛かっているのだった。
「はぁ・・・。もう良い。このような気狂いを妻にするつもりは元からない。殺して遺言をでっち上げるとしよう。」
ジャキンッ!!
ゼバスの後ろに居た武装集団が全員女性に向けて武器を構える。ぶつけられる殺意に対し、女性は唯ふんわりと笑っていた。
「何がおかしい?」
「いえ、私も先ほどまであなたたちの様だったのだと可笑しくなってしまっただけですわ。」
「ふん、まぁいい、覚悟しろ。者ども掛かれ!!」
武器を持ったまま女性に襲い掛かる武装集団。空からそれを見ていた黒いのは、ゴブリンがゴブリナに襲い掛かる様子を思い出していた。そして集団から溢れ出すあの嫌な気配。そのとても濃い気配を受けて黒いのは即座に動いた。
「あんがぁ!」
「「「「「「なっ!!」」」」」」
「あぁ使徒様!!また私を助けて下さるのですね!!」
バリボリバリボリ、ぽきっぺきっぱきっ、しゃくしゃくしゃくしゃく。ぷーーーー!!
大口を開けて武装集団とゼバスを飲み込む黒いの。30名にも上る人数を飲み込込もうとした黒いのからは変な声が出ていた。そして突然空中から大口を開けた化け物に襲われた集団は成す術もなく食われる。咀嚼する黒いのの横ではいつの間にか女性が黒いのに膝を着き、手を組んで祈りを捧げていた。
そして勢いよく吐き出された集団は、地面に身を投げ出された後自身の頭を振りながら立ち上がる。そして黒いのに向かって祈る女性を見て慌てた。
「お嬢様!!申し訳ありません!!このような事を引き起こして我らはどう償えば・・・。」
「良いのです。今までの行いは全て使徒様がお許しになられました。これからは使徒様の示した道を共に歩むのです!!」
「おぉっ!!なんと慈悲深いお言葉!!我等一同ヤクア様にご同行いたします!!」
ヤクアと呼ばれた女性は、黒いのに食べられて性格の変わった彼等を見て満足そうに頷いていた、しかし1人足りない事に気が付きあたりを見回す。すると、探していた人物は今まさに、自分の持っていたナイフで自身を突き刺そうとしていた。
「やめなさいゼバス!!」
「・・・・止めないで下さいお嬢様・・・。私は償えない行いをしたのです・・・。我が家が没落し、路頭に迷う私に見せしめの為だとしてもお嬢様は生きる道を示してくださった。なのに私はお嬢様にひどい行いを・・・・。人間生きていれば何でも出来るというのに、恨みに囚われお嬢様を亡き者にしようと・・・。我が家が没落したのはもとはと言えば我が父と母の浪費癖の所為。お嬢様の家は貴族の習いとしてそれを諫めて下さろうとしただけなのに・・・。」
「いいえゼバス、それは違います。あなたのご両親の浪費癖を利用して領地を切り取ろうとしたのが私の両親です。恨んでも構わないのです。復讐しても良いのです。それだけの事を私達はしてきました。私もあなたを公衆の面前で使えないと罵倒し、鞭で打ちました。恨まれても当然なのです。」
「いいえ!!それでもお嬢様はきちんと食事を下さりお給金も払って下さいました!!」
「それもすぐに死なない様にと給金も払わないケチな貴族だと思われないための建前なのです。」
「だとしても!私はそれで救われました!救われていたのです・・・・。」
「ゼバス・・・。」
「きゅ~?」
ヤクアとゼバスのやりとりに、涙を流す武装集団。黒いのと言えば、どうして泣いているのか分からずに首を傾げていた。
「きゅっ♪きゅっ♪」
「待ってくださいまし!!」
とりあえずここはもう良いか♪と鳴き声を上げながら上機嫌にその場を離れようとする黒いの。その姿を見たヤクアが慌てて黒いのに声を掛ける。
「きゅ~?」
「この度は我々を救って下さってありがとうございます。これから使徒様は何処に行かれるのですか?」
「きゅ~?」
なに~?からのさぁ~?という鳴き声、だが黒いのの鳴き声の意味が解らない彼女たちは大変困惑した。
「なんておっしゃったのでしょうお嬢様?」
「・・・・・・。なるほどですわ。」
黒いのの声を聴いて何やら考え込んでいたヤクアは、何かに納得しながら顔を黒いのに向けた。
「恐らく使徒様はこれから浄化の旅に出られるのですわ。恐らく使徒様だけが感じ取れる何かが在るのでしょう。その証拠に真っ直ぐに目指す場所がある様ですわ。」
「なるほど!!あの方角に我々と同じように悪意に満ちた人物が居ると!!ってあそこは我々の住むゴーツクではありません!?」
「えぇそうですわ。我々の住む街には、私達よりも強大な悪が蔓延っているのですわ。」
まったくの間違いである。黒いのはただ街の中に建てられた時計塔が気になって見に行こうとしていただけである。
「では我々もお供を?」
「もちろんですわ!!使徒様の最初の従者として浄化の手出すけをしませんと!!」
「きゅっ!?きゅ~きゅっ!!」
えっ!?そんなのいらないよー!!と言いながら腕を振り回す黒いの、だが彼女達には全く別の行動に見えている様で・・・。
「ほら、使徒様もやる気満々ですわ!!」
「お嬢様の言う通りですね。では者共!!使徒様と共にゴーツクに向かうぞ!!」
「さぁ使徒様は私と一緒にきましょう!」
「きゅっ!?」
いつの間に!!と声を上げる黒いの。ヤクアは瞬時に黒いのに近づき、自身の胸に抱きあげていたのだ。その動きが全く見えなかった黒いのは、ヤクアに対して若干の恐怖を覚えた。
「きゅっ!!きゅきゅ~!!」
「あん、暴れないで下さいまし。やる気なのは解りましたが少しは休憩も必要ですのよ?使徒様はここでゆっくりとお休みください。」
「きゅ~・・・・。」
体長60cmの黒いのではヤクアの腕から逃げられなかった。体の口を解放すれば良いのだろうが、ヤクアに言われた通り今まで休みなく動いていた為に若干疲れている。黒いのは彼女の言葉に甘えて少し休むことにした。
「きゅぴ~。きゅぴ~。」
「あら、寝てしまわれましたわ。」
「では静かに行きましょう。」
寝ている間に黒いのはゴーツクに運ばれて行く。果たして黒いのはあの街で何を引き起こすのだろうか?
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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