第2話 人も魔物も悪意でいっぱい

「「「「「「きゅあきゅあ~。」」」」」」

「きゅっきゅきゅ~。」


黒いのは自身が生まれた森のゴブリンを全て生まれ変わらせ、今森から出ようとしていた。ゴブリナ達は自身の変化に戸惑いながらも、今まで他種族を攫わなければ出来なかった自種族の繁栄が自分達の手で出来ると喜んだ。自分達がもうゴブリンとは違う物となった事には目を瞑るようだ。


ゴブリナ達に見送られて黒いのは森を出る。心なしか黒いのを見送っていたゴブリナ達に笑顔が多いような気がする。自分達を飲み込み生まれ変わらせる化け物を追い出してほっとしているのかもしれない。


「きゅっきゅきゅ~♪」


上機嫌にふわふわと目に付く物、気になった物を調べて動き回る黒いの。途中で会うゴブリンは最初の森と同じように飲み込み、ゴブリナに作り替える。


「ぶひ?」

「きゅっ?」


それはいつか見た光景の焼き回し。森から出て平原を進んでいる途中、丁度女性を襲おうとしていたオークの目の前に黒いのは飛び出してしまった。どうやら黒いのは別の物に気を取られオークの存在に気が付かなかったようだ。


オークとはゴブリンと並んで他種族に忌み嫌われる種族。力が強く、ぶよぶよの腹とでかい鼻を持った人型の魔物だった。オークも他種族の雌を攫いその腹を使って増える魔物で、まさにこの世界の悪意の塊と言っても良い魔物だった。


そんなオークと出会った黒いのは、オークの下半身を見て呆れたような目を向ける。まさにその視線は「お前もか・・・。」とどこかいい加減にしてくれとでも言いたそうな物になっていて、顔には苦笑も浮かべていた。


対してオークの方はというと、せっかくのお楽しみを邪魔されて怒り心頭だった。しかも自身の下半身を見て半笑いの黒いのに対して、自分の自慢のそれが笑われたと勘違いした。


「ぶひぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「きゅっ!?きゅきゅ!!」

「ぶひ!!ぶひぉぉぉぉぉぉっ!!」


怒りで声を荒げるオーク、たいして黒いのは何か怒らせたなら謝るよ!!とでも言いたそうに両手をオークに向けて突き出す。だがオークにはその行動が自分には勝てないからやめておけと言われたように感じた。


「ぶひぉっ!!」

「きゅっ!?」


拳を繰り出すオーク。黒いのはその拳をふわふわと浮きながら避ける。オークの拳は力の強さを表す様に風を切る音をさせながら黒いのに迫るが、浮いている黒いのは逆にその拳で起こる風に乗って容易に躱していた。


「ぶひぶひぶひぉぉぉぉっ!!」

「きゅ~。ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぶひょっ!?」


鳴き声を上げながら怒りに任せて拳を繰り出すオーク。落ち着かせるのは無理かと黒いのは諦め、オークをゴブリンと同じように飲み込むことにしたようだ。大口を開けて迫る黒いのに、驚いたオークは固まったまま飲み込まれた。


もぐもぐもぐ「きゅっ?」もごもごもご「きゅきゅ。」ごーりごーりごーり。「きゅっ!!」ぷっ


ゴブリンと同じように変化させようとしたのだろう。黒いのはいつも通り咀嚼していたのだが、途中で違和感が在ったのか咀嚼の仕方を変えた。最後には何かをすりつぶすような音が体の口から聞こえ、納得できたのかオークが口から吐き出される。


「ぷひ!?」

「きゅっきゅっきゅっ♪」


吐き出されたオークの姿は大分様変わりをしていた。人の形だったオークは4足歩行になり、肌はピンク色に、顔はオークのままだが体はかなり縮んだ。くるんと丸まった尻尾と貧弱な手足に重たい体、元オークは自分の変化に驚いて固まっている。


「ぷひぷひっ!!」

「きゅっきゅきゅ~。」


黒いのに抗議する元オーク。だが黒いのは一切取り合わない。するとゴブリンの時と同じように騒いでいた黒いのと元オークの元に別のオークが姿を現した。


「ぐあうっ!!」

「ぶひっ!?」


黒いのは躊躇わなかった。ここで様子を見ていてもゴブリンの時と同じことになると思ったからだ。


オークを探し、体の口で飲み込み、作り替える。次々と4足歩行のオークが生まれ、平原にぶひぶひではなくぷひぷひとかわいらしい声が響く。


作り替えられたオークはその性欲が抑えられ、のんびりとした性格に変わる。今も変化したオークはそこら辺の草を食べ、そこら辺で転がりのんびりと昼寝を始めていた。


「きゅ~。」

「「「「「「ぷひー。」」」」」」」


この平原のオークを作り替えるのにそこまで時間は掛からなかった。森と違って見通しの良い場所だ。オークを探す事等浮かんでいる黒いのに掛かれば簡単な事だったのだ。


「きゅ~。」

「う、うぅ~ん・・・・。」

「きゅっ?」


やれやれ、いい仕事したぜ!とでも言いうように、手で額を拭くふりをする黒いの。するとオークに襲われそうになっていた女性が目を覚ました。黒いのは大丈夫?と言った風に声を掛ける。


「あら、あなたは?」

「きゅっ?きゅ~?」


僕?さぁ?とでも返事をしたのだろうか、首を傾げながら返答する黒いのの様子に女性はクスリと笑顔を見せる。


「確か私はオークに襲われて・・・。あら?オークが見当たりませんわ?」

「きゅっ!!」

「ぷひ?」

「これがオーク?」

「きゅきゅっ!!」


女性の疑問に黒いのは生まれ変わった元オークを指で示し答える。女性の問いかけに頷いて返す黒いの。その返答に女性は何かを考え込むような顔をする。


「これが本当にオークだったとして・・・。これはあなたがやったのですか?」

「きゅっ!!」

「ふふふ、そうですか。」


女性のさらなる問いかけに頷いて答えた後、黒いのはなぜか女性から気持ちの悪い気配が漂ってきているのに気が付いた。笑顔を浮かべる女性から少しずつ距離を取る黒いの。


すると次の瞬間には女性は黒いのを捕まえようと襲い掛かって来た!!だが黒いのはもともと警戒していた為にその手をするりと抜け出し、逃げ出す事に成功する。


「きゅ~♪」

「ちぃっ、逃げられましたわ。こんな魔物は見た事ありませんもの、他の魔物を作り替えられるとしたらどれほどの値段で売れるか。ふふふ、楽しみで仕方ありませんわ。」


女性から感じる嫌な気配はだんだんと濃くなって行く。まさかそれがこの世界にありふれた悪意であり、人も魔物もその悪意に汚染されている事等気が付かない黒いのは、ゴブリンやオークにしたようにその気持ち悪い物を食べる事にする。


「ぐわぁっ!!」

「きゃっ!!」バクンッ!!


ポリポリポリ、ぺっ


突然体が大きくなり、体が裂ける様に生まれた口に驚いた女性はそのまま黒いのに飲み込まれた。体を何かが満たしていく感じと、まるでスナック菓子を食べている様な軽い音がした後、黒いのは女性を吐き出す。


これまでと同じように女性の姿が変わる・・・・事は無く。女性は女性のまま外に出て来た。だが変化は目に見える程の物だった。


「あらあらまぁまぁ、ごめんなさいね。せっかく助けて頂いたのにお礼もしないなんて。私ったら恥かしいわ。」

「きゅ~?」

「あら心配して下さるの?大丈夫ですわ。なぜか今はとても体の調子が良いの。心も羽の様だわ。」


おほほと笑う女性。その笑顔に先ほど見えた影の様な物は映らない。その事に安心した黒いのは、ここでの用事は終わったとばかりに空に飛びあがり、別の場所を目指そうとする。


「あぁ!お待ちになって!!」

「お嬢様!!ちっご無事でしたか。」


手を伸ばし、黒いのを引き留めようとする女性。そこに武装した集団を連れた執事の様な若い男が姿を現した。


「あぁゼバス、来てくれたのですね。」

「えぇ、ですがどうして無事なのですか?今頃オークに襲われているはず。」

「何を言っていますの?」

「きゅ~?」


何か様子がおかしいような?と黒いのは思っているのだろう。空中から話を続けている女性と男性を観察している。後ろに引き連れた集団も武器を抜き、何やら物々しい雰囲気を醸し出している。


「お嬢様こそどうしたのですか?いつもであれば迎えが遅いだの、高級なお茶と菓子を用意しろだのわがまま放題を言うはずなのに、今に至っては何も要求していない。もしやオークに襲われ気でも狂われましたか?」

「私はオークに襲われていませんわ。服も無事でしょう?」


女性の言葉にゼバスと言う男は服装に目線を向ける。確かに女性の言う通り服に若干の土はついているが、引き裂かれ乱暴された痕は無い。その姿にゼバスは作戦の失敗を悟る。


「ちっ、仕事を頼んだ連中は何をしているのだ!!お嬢様をオークに襲わせ、傷心のお嬢様を介抱して傀儡とし、ブラド家を乗っ取る手筈だったのに!!」

「まぁ!!そのような恐ろしい事を考えていたのねゼバス。」

「もとはと言えば貴様らブラド家の行いの所為だ!!貴様らのせいで我がノウム家は没落し、私の家族は一家離散したのだ!!これはその復讐だ!!ブラド家を私の手で滅ぼすのだ!!」

「きゅ~きゅ~。」


どうやらこの男と女性の間には浅からぬ因縁があるようだ。なるほどなるほどと頷く黒いの。未だに女性以外は黒いのの存在に気が付いていない。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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