黒い何かの創造神話

コトスケ5

第1話 生れ落ちた黒いの

その日、その世界に1つの純白の魂が落ちて来た。その魂はこの世界とは別の世界で生まれ育った魂だったが、なぜかこの黒く淀んだ世界に辿り着いた。


魂はこの世界の根幹である悪意を取り込み、己の体としていった。白い魂の周りには次々に黒い悪意が纏わり付き、体を作っていく。


まずは体が出来た。次に頭が、そして手が生えた。だが足だけは生えず、霞の様なもやもやした物が体から空中に流れ出ているように見えた。


次に体の中心に赤く大きな宝玉が生まれた。腕には材質の解らない鈍く金属の様な光を宿す籠手が、頭にも同じ材質の兜が形作られた。


60cm程の大きさしかないその生物は、人が見れば幽霊、もしくは悪魔だと言われただろう。周囲の悪意を取り込み己の体としたその生き物は、ふわふわと宙に浮きながらゆっくりとその黄色く大きい両目を開けた。


「きゅっ?きゅーーー!?」


第一声は可愛い鳴き声だった。あたりをキョロキョロと見回し、自分の体を見て何やら驚いている様子だ。頭を抱えてその場でぐるぐると回っている。


「きゅきゅ?きゅう?」


おっと、自身に関する記憶がなにも無い事に気が付いた様子だ。しきりに首をかしげて自分は何者かを考えている。


「きゅ~。きゅきゅ!!」


必死に思い出そうとしたが思い出せなかった様だ。解らない事は仕方ないと割り切る事にしたのだろう。何やら両手を上げて叫んでいる。言葉にすれば「何も思い浮かばないからまぁいいか!!」という所だろうか?


「きゅっきゅきゅ~♪」


生まれたそれは、歌でも歌うかのように鳴き声を上げながらふわふわとそこら辺を動き回り始めた。見るもの全てに興味を持ち、眺め、触り、匂いを嗅ぎ、口に入れた。


「きゅっ!!きゅっ!!」


どうやら口に入れた植物はお気に召さなかったようだ。舌を出しながら一生懸命口から含んだ物を出そうとしている。おや?この生き物が出す音につられて悪意の塊である魔物が寄って来た様だ。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


緑色の皮膚を持ち、不潔な体と醜い顔、そして鉤鼻を持つその魔物の名はゴブリン。他種族の雌を攫い、その腹を使って増える全種族から嫌われている魔物だ。当の本人たちは喜んで襲っているのだから始末に負えない。


「きゅ~?」

「ぐぎゃ?」


お互いが初めて見た者同士。ゴブリンも黒い方もお互いに首を傾げながら観察している。もしこれが小動物同士の行動であればとても可愛らしいと思うかもしれないが、今回は幽霊とゴブリンである。片方は見方によっては可愛いかもしれないが、もう片方は完全に化け物だ。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

「きゅきゅ?きゅ~う~!!」


黒い方を指さして笑うゴブリン、それに対して両手を振り上げて怒る黒いの。そして何を思ったのか黒いのはゴブリンに向かって勢いをつけて空中を突き進んでいく。


「きゅ~!!」

「ごぎゃ!!ぎゃーぎゃーぎゃー!!」


黒いのが行った突進を受けて吹き飛ぶゴブリン。だがダメージはそこまででもなかったのかすぐに起き上がり、近くに在った木の枝を掴み黒いのに向かって振り回し始めた。


「きゅっ!?きゅきゅっ!?きゅあっ!?」

「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃ!!」


3度まで振り回された木の枝を避けた黒いの、だが4度目の攻撃が頭に当たり、地面にビタンと叩き落される。その様子を見たゴブリンが両手を上げながら小躍りをして笑っていた。


「ぎゅぅ~!!」

「ぐぎゃ?」


地面に横たわる黒いの、だがその黒いのから先程とは違った、少し太い声が響く。その音に驚いたゴブリンは木の枝を黒いのに向けた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐぎゃーーーーーー!!」


起き上がった黒いのの姿は一変していた。先ほどから喋っていた頭部の口ではなく、赤い宝玉が嵌っていた場所に大きな口が開いていた。垂れ下がる舌の先には体に在った赤い宝玉が嵌っている。そしてその口が開いた体はどんどんとその体積を増やしていた。


突然大口を開けた化け物に変化した黒いのを見て、ゴブリンは叫び声を上げながら逃げようとする。だがそれより先に黒いのが動く方が早かった。


「ぐあう!!」

「ぐぎゃっ。」ぱくんっ!!


もぐもぐもぐ、ぺっ!!


大口を開けて襲い掛かった黒いのはそのままゴブリンを丸飲みにし、口の中で咀嚼する。黒いのは何かが体を満たしていくのを感じながらしばらく口の中をもごもごと動かしていた。そして、体を満たしていた何かが無くなったそれを最後に口の中の物を吐き出した。


「きゅあ?」

「きゅきゅ~♪」


吐き出されたのはゴブリンだった物は、あたりをキョロキョロと見回した後に自身の体に違和感を覚えたようだ。しきりに自分の体を触っている。


どのように変化したのかというと、元ゴブリンは薄いピンク色に肌が染まり、醜かった顔は輝く瞳と控えめな鼻、そして小さなプリンとした唇と赤い頬に変わり、体には乳房が生え下半身の男の象徴は消失していた。遠くから見れば人間の美少女が居るとしか思わない容姿だ。


歪だった手足はすらっとした物に変わり、伸びていた爪も短くなっていた。腰も括れ、逆に胸と尻が女性だと象徴するように大きくなっている。それに剥げていた頭部には長くそして艶やかな強いピンク色の髪の毛が生えていた。それはもうゴブリンとは呼べない新たな生物だった。


「きゅあ~~~っ!?」

「きゅっきゅっきゅっ♪」

「「「「げぎゃ?げぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」」」」」


自身の体の変化に驚く元ゴブリン、そしてその様子を見て笑っている黒いの。するとそこに叫び声を聞いて他のゴブリン達が姿を現した。新たに表れたゴブリン達は先ほど生まれた元ゴブリンを見て下半身を隆起させる。元ゴブリンは雌としてロックオンされた様だ。


「きゅあ!!きゅあきゅあ!!」

「げぎゃ?げぎゃーぎゃっぎゃっぎゃっ!!」

「きゅあーーー!!」

「きゅきゅ?きゅ~きゅきゅ。」


黒いのに目もくれずに元ゴブリンに殺到するゴブリン達。必死に元仲間を説得しようとする元ゴブリンだったが、本能に突き動かされたゴブリン達は止まらず、自身の身に何が起こるのかを察した元ゴブリンは目に涙を浮かべて逃げようとした。その様子を見た黒いのは、さすがに可愛そうだと思ったのか手助けする様にしたようだ。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「「「「「げぎゃっ!?」」」」」」

「きゅあっ!?」


もぐもぐもぐ、もごもごもご、ぷぷぷぷぷぷぷぷ


先程ゴブリンを変化させたように、体の口で集まったゴブリンを一息に飲み込んだ黒いの。その様子を見た元ゴブリンはその体の大きさに驚きその場で固まってしまった。食われてしまったゴブリン達は自身に何が起こったのかも分からずに、体から何かが抜けていき、そして新たな何かが流れ込むのを感じていた。


そして咀嚼が終り、黒いのは口から次々と元ゴブリン達をまるでスイカの種を口から飛ばす様に吐き出していく。


「「「「「「きゅあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」

「きゅあきゅあ。」

「きゅっきゅっ♪」


吐き出された元ゴブリン達が自身の体の変化に驚き叫び声を上げ、先に変化していた元ゴブリンはそうなるよねと言わんばかりに頷いている。対してこの騒動を起こした黒いのはご機嫌でその様子を見ていた。


そしてまた、叫び声に気が付いたゴブリン達が姿を見せる。変化した元ゴブリン達にまた襲い掛かろうとして先ほどと同じように黒いのに食われ、変化した体に驚き叫び声を上げた。


繰り返される行動は黒いのが生まれた森のゴブリンが居なくなるまで続き。森に居たゴブリン総勢5000匹は全てピンク色の新たな魔物へと変わった。後にこのピンクの元ゴブリン達をゴブリナと呼び、彼女たちの住む森はゴブリナの森と呼ばれた。


世にも珍しい、女性ではなく男性を、しかも元同族のゴブリンを積極的に襲うゴブリナは、人々から対ゴブリンの切り札として重宝され手厚く保護される事になり、ゴブリン達の恐怖の対象となった。


なぜならゴブリナから生まれた子は全てゴブリナになるのだから。しかも他種族の交配は可能なまま。ゴブリンが増えるより早くゴブリナは増えるのである。ゴブリン達に逃げ場はなくなった。この出来事はこの淀んだ世界を変える最初の契機となる。


だが、今この時に将来そんな事になるとは黒いのは思っていなかった。


「きゅっ♪きゅっ♪きゅ~♪」


ただただ黒いのは、自分に意地悪をしてきた種族から、自分に必要な何かを奪い取ってやったと思っているだけ。それがこの世界の根幹を揺るがしているとも気が付かずに。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


2022/8/8 新作でございます!!今回は人外主人公を書いて見たくて書きました!!そのうち絵も書いて近況ノートに乗せましょうかね。創造しずらいでしょうし(;'∀')


出来ればこちらの2作品も応援よろしくお願いします!!


VRMMO ランダムを選んだら攻撃力が無かったんだが!?

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985173965


スキルは補助輪でした。あなたの才能伸ばします。

https://kakuyomu.jp/works/16817139557309795588

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