第9話 下田

 一宮は厚生労働省の少子化対策局長である。JB関係のトップと言っても過言ではない。日本の少子化を止めるプロジェクトが始まってからずっと、キャリアとしてこの局で働いている。

 彼が最も信頼している部下の下田は、予算立てをし、システムを作り、JBによる出生率の増加を進めてきた。年間80~100万人の赤ん坊が生まれる状態をキープし続けられるようにこのプロジェクトは始まった。現在約40万人になったJBは今後も増え続け彼の計画は達成されつつある。

 省庁の局長室で一宮はコーヒーを飲みながら下田に話しかけた。


「最近のJBの集まり具合はどうだ。」


「順調に月に1万人をキープしています。」


「そうか、人数的には順調だな。」


「はい。今後第1世代が社会にでていくようになることで、財政的にもこれまでの投資が花開くことでしょう。」


「そうでないとな。JB一人に1千万以上の経費がかかっている。今まで国が総額5兆円以上も投資したことになる。しかし、これで少子化が止められるなら安いものだ。」


「はい、私の試算どおりです。」


「ところで変なうわさを耳にしたのだが、例の話を外に漏らそうとした者がいたとか。」


「大丈夫です。監視班や処理班が動いていますから。」


「そうか。それならいいが、これは重大な国家プロジェクトである。人権団体などが動き出すと面倒くさいことになるからな。蟻の一穴で城が崩れることもある。遺漏のないようにな。」


「はい、承知しました。」


 下田が部屋を出ると、秘書が年金局の芦田から連絡があったと告げた。芦田に電話し、昼休みに外で一緒に食事をすることになった。下田は、妙に感じ、処理班の浅田を帯同させた。

 個室での会話は、ヒロの疑問についてだった。下田は誰からその話を聞いたかを聞き出し、絶対そんなことはないと否定した。なんなら、明日にでも移送先の施設を記した資料を見せようと言った。芦田は約束を取り付け、納得し店を出た。

 下田は、部屋の外で待機していた浅田に耳元でささやいた。


「今いた人物を始末せよ。」

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