第三章 男装を止めた後の話
第16話 溺愛したい王子と、甘え下手な婚約者
合宿、夏休みも終わり静真と魁吏の会う頻度は激減。
平日は学校と生徒会に所属し、文化祭の準備。
土日も国事を手伝う為に王宮を訪れたが、各大臣と会って帰宅。
この1週間、魁吏と静真は会っていなかった。
「静流にこれを届けてもらえる?」
土曜の昼下がり。
母親は寂しそうな娘にそういってお使いを頼み。
静真は花柄のワンピースにヒールという姿で、長い金髪の髪をなびかせながら王宮騎士団の練習場を訪れた。
「静ぅ。108回脱げだしたのに、108回捕まったんだ。僕を誘拐しておくれ。僕の細腕じゃここで生き残れない」
静流は静真の姿を見るなり泣きついてきた。
「お兄様。逃亡回数を数えて、泣く体力があるならまだ頑張れるわ。さぁ、鍛錬してください」
「鬼教官の素質がありそうだな」
「副隊長。そうかも知れないですね」
声を掛けて来た副隊長に静真は肩を竦める。
「私も少し遊んで行っても良いです?」
「勿論。静真の場合、2人がかりくらいがちょうどいいかな?今の格好だとか弱いお嬢様に遅い掛かる暴漢達という絵面になるが。1人で向かう勇者はいない」
副隊長はそう言うと、数人の顔見知りが名乗りを上げた。
「見かけに騙されないでね。手加減したら、大怪我よ」
***
体を動かすのはやっぱり気持ちが良いわ。
休憩をしながら、静真は芝生の上で静流が頑張る姿を眺めつつここにはいないであろう魁吏を目で探してしまう。
「魁吏は早朝に来ていたから、今日はもう来ないと思うぞ」
誰かを探しているような様子に、副隊長は声をかけ。
明らかにしょぼんとする静真に苦笑する。
「今の時間だと、執務室にいるんじゃないか?」
尋ねればいいと副隊長は思いながら言うのだが。
「私が婚約者に会いたいと言って、訪ねるようなタイプに見えますか?」
今朝。
魁吏も体を動かしにきていて・・・。
無意識に静真を探していたので。
「静真なら、公爵邸だろ?遊びに行くか、呼び寄せたら?」
と提案すると。
「そういう柄ではない」
と副隊長は言われていた。
似た者同士だな。
「会いたいから会う。好きだから尋ねる。普通の事だぞ?」
副隊長はそう言うと、三角座りをして膝に顔を埋める静真の隣に座る。
「なんと言って会えば良いかわかりません」
副隊長はそうかっと言うと、隊長は副隊長にニヤリと笑い走り出した。
「魁吏は正妃1名、側室2名持てるのです。常に私が付きまとっていたら、殿下はあと2人の女性を囲えない」
「正妻と側室を待てても持った国王は少ない」
「持つ気はなくとも誘惑されて、持っちゃうかも?意地悪で、煩悩の塊発言もするけど。顔はいいし。・・・寝ている間に頭の毛でもむしって、誰も寄り付かないほど醜悪な不細工に変身させようかしら?」
そう呟いた時だった。
「やれるものなら、やってみろ」
ガシッと静真は頭を掴まれる。
隊長から花房は連絡を受け、魁吏に静真が会いたがっていると伝え。
魁吏は走ってやって来たのだ。
すると、自分が寝ている間に髪の毛をむしると副隊長に話している婚約者がいる。
「・・・魁吏」
驚きながらも、嬉しそうな顔をする静真であるが。
「簡単にむしらせる気はない。眠る時はお前を嫌と言うほど、可愛がり。毎夜毎夜動けないほど愛してから眠ろう」
意地悪を言う魁吏に静真は再び膝に顔を埋める。
「・・・別々のお家で寝ているのに出来るわけない」
イジける静真に魁吏はピクリと顔を引き攣らせる。
無自覚なのは、1番タチが悪い。
このまま部屋に連れ帰り。
実家になど帰さず、学校にも行かせたくない。
ずっと側に置いておきたい。
それになんなんだ。
嬉しそうな顔をしたかとおもえば、いじけだしやがって。
まるで、静真一人が会いたがっていたようだ。
俺だって会いたかったのに。
なぜ、抱き着いてこない。
「今週末の三連休。北西の領土の視察に付き合ってほしい。金曜の夜に出発で、月曜の朝に学校に間に合うように戻る。部屋も2つとる」
部屋は2つとるが、どう使うかは静真に任せる。
静真はそんな魁吏にもう一度顔を上げると、嬉しそうに笑いぽんぽんぽんっと魁吏の足のつま先を両手で静真は叩いた。
だから。
こいつ。
このまま、部屋に連れ帰り幽閉でも・・・。
危険思想に陥った時だった。
「紳士殿下。添い寝フレンドでお願いします」
副隊長は静間の頭から手を離した魁吏の手を取り大きな声ではっきり言うと。
静真もお願いしますと満面の笑みを浮かべ。
「ぶっ!殿下っ!がんばれ!」
「ははははははは。若い子と付き合えて良いですなぁ」
「紳士殿下。応援してますぞ!」
周囲は大爆笑をする。
「全員、腹筋千回。フルマラソンを走って来い。次期国王命令だ」
こいつら、面白がりやがって。
静真も静真だと思いながら。
静真の手を引っ張り広い王宮の散歩を始めた。
***
「魁吏。またね」
3泊4日が終わった月曜日の朝。
乙女の園と呼ばれる清楚華憐純粋無垢な箱入り令嬢ばかりが通う。
男に対する免疫の“め”の字もない学園の制服を着ると、なんだかんだで純粋無垢な静真は魁吏の右手を両手で掴み。
少しだけ照れたように微笑むと学園に向かった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
3泊4日が終わった。
大きなため息をつき。
壁に手をつく魁吏に同行をしていた副隊長、花房はお腹を抱えて笑い出す。
「見事でした!静真嬢が何も考えず接近しても手を出さなかった殿下は素晴らしい!」
「いやぁー。なんつう、精神力。感無量。我々凡人であれば、初日で屈していたたまろうな。真似できない。さすが魔王殿下は自分に対しても厳しい」
メイドから聞いた話では、静真は可愛いパジャマから色気のあるパジャマまで母親が用意して着用。
朝、昼、晩と魁吏は意地悪を言ったり、からかったり、煩悩エロ発言をしたが静真をなんだかんだ溺愛。
痴話喧嘩はすれど仲睦まじい2人。
「毎夜、毎朝。栄養ドリンクを飲み。ほぼ不眠不休で、紳士的な振る舞いご苦労だった」
国王はゲラゲラ笑いながら部屋を訪れると、魁吏は大きな息を吐いた。
けれども。
満面の笑みで“魁吏。またね”と去って行ったあの顔を思い出すと悪い気はしない。
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