第15話 男装は終了です。

「許さん」

多種多様な美女を集めていたので、静真に恋人を作ろうと思っていたが。

結局は息子がべたべたとまとわりつき思うようにならない。

静真が明日、結婚宣言をする息子の意中の相手だとは知らず。

国王は拳を握りしめた。


魁吏の部屋に入ると、静真は顔を洗いかつらを取る。

「地毛は濡れていないけど、かつらは駄目だし。スーツも着られない」

静真はそう言うと、魁吏が用意していたドレスを着てソファーに座った2人掛けの魁吏の隣に何も考えずに座る。

隣に座ってくれるのは嬉しい。

魁吏は隣に座った静真に嬉しそうに微笑みひじ掛けに持たれ見つめる。

静真には淡いピンクのドレスが良く似合う。


「家に予備のかつらと、適当なスーツをメイドに持ってこさせます。国王陛下に殺されちゃう」

そういって、手配をしようとした時だった。


「静真っ!」

国王は声を荒らげ鍵のかかってない部屋に入ってくるなり、静真は反射的に立ち上がると椅子に座る魁吏の後ろに隠る。

国王の手に握られているのは剣。

「少年はどこだ」


「ここに少年はいない。怖がらせないでくれ」


魁吏はそう言うと、背中に隠れる静真に手を差し出す。

「おいで」

静真は魁吏の手をとらず机に置かれたかつらとスーツをみる。

あればいつぞやのように、魁吏であればとっさに隠すこともしただろうが。

魁吏は隠す気がないのだろう。

動かない。


「可愛そうに。こんなに俺の妻を怯えさせるなんて、最悪な舅だな」

誰が妻だ。

まだ、妻ではない。

誰が舅だ。

まだ、結婚していないので国王は舅ではない。

静真は思うのだが、完全にばれると冷や汗をかく。


国王は剣を抜いていたのだが。

机の上のかつら、スーツ。

魁吏の後ろに見え隠れする静真に剣を鞘にしまうと控えている執事に手渡した。


・・・まさかな。


国王以外の人物も気が付いた。


魁吏は動かない静真に立ち上がると、静真の隣に移動してその額にキスをすると抱き寄せる。

「なっ」

解凍されたように静真は立ち上がると、魁吏から距離を置こうとするのだが。

「逃がさない」

静真は腰に腕を回され離れられない。

「18歳の成人を迎えるまで、不健全性的行為は犯罪です。ご自身の一族が決めた法律くらい守って。このキス魔!」

「一年遅く生まれて来た静真が悪い。そんなに可愛い静真が悪い。色気を醸し出す静真が悪い。長いキスをもうしているんだ。このくらい、そろそろ慣れろ」


魁吏はそう言うとドレスの胸元に視線を落とす。

「一か月。押さえつけられつづけて縮んだんじゃないか?」

「エッチ。今日は胸のパットが小さいだけ。そもそも私は貧乳です!」

「確かに、品のある乳だ」

「見た事ないくせに・・・」

全てを見せたつもりはないが。

健太に襲われ、体を確認した時に下着一枚で見られてはいるし。

泥酔したあの夜や、魁吏の小屋でシャワーを浴びた時にも覗かれている可能性はある。

静真は腕で胸を覆うと、自分が男装していたことを知っているだろう副隊長が国王の隣に居るので背に移動する。


「ヒールで走るのはやめてくれ。心配してしまう」

魁吏はそう言うとため息をつく。

「確かにこれは魁吏が痴漢、変態、大魔王様でなくとも。理性と本能勝負だな」

副隊長は美しくも、可愛くもある静真に苦笑すると、魁吏は頷く。

「煩悩を掻き立てられるだろう」

魁吏はそう言うと、静真は副隊長に頬を膨らませる。

「もう!副隊長もからかわないでください」

抗議をする静真に国王はデレデレと嬉しそうな顔をする。


「そうかぁ。静ちゃんがわしの娘ちゃんになるのか」

「明日。宣言するつもりだったが、静真の誕生日を待ち俺の伴侶として迎える」

「そうか。そうか」


国王はそう言うと、静真の両手を取る。

「怯えさせてすまなかった。”父”を許しておくれ」

さっきまで剣を握り殺そうとしていた相手にニコニコと言われ、静真は少し身を縮こまらせる。

さっきまで、牽制していた人とは同じに見えないわ。

親子揃って、豹変が凄いわ。

静真はデレデレとする国王に苦笑した時だった。


「俺の女に触れるな」

魁吏は静真を国王から引き離す。

「静真は俺だけが触れることができる女だ」


魁吏はそこで言葉を切ると、静真の頬に手をあてる。

「団員達に会いに行こう。今の姿で騎士団に参加した時に知ってもらっていないと、きっと奴らは手加減をして。静真が大けがをさせる事になる。会場に戻ろう」

会場に戻ると・・・。

魁吏が抱いて立ち去った静真が、天女のような美しさの女になっているが。

露骨に魁吏が大事にしていたので。

「静真!やっぱ、女だったのか」

「静真と手を繋いておけばよかった!勿体ない事をした」

「うわぁ!静真の隣に座っておけばよかった」

彼らは悔しがった。


そんな一同に静真は安心すると共に。

「魁吏。足を踏みつけてしまうわ」

あまりにも密着する魁吏に言う。

「上手に歩け」

上手に歩けって。

無理だわと抗議をしようとするが。

「生まれつき王子である俺は人に踏まれたことも、蹴られたこともない。踏みつけたら、抱っこな」

それは団員が静真を口々に褒め。もっと仲良く成っておかなかったことを後悔する声に対する嫉妬なのだが。

そんな魁吏の深層心理には気が付かず。

静真はめちゃくちゃだと、顔を引き攣らせた。


***

「静ぅ。酷いよぉ」

鳴き声に視線を向けると、分家の長男である静真と静流が花房に連れられやって来た。

「静真君。怪我はもういいの?」

「普通に歩く程度には支障はないよ。静流が逃げ出して、殿下にスカウトをされて大変だったな」

「少し大変だったけれど、楽しかったわ」


そんな会話をする静真と静真に周囲は携帯で写真を取り出した。

「やっぱ、静真だ!え?静真と静真?」

「そりゃ。男装されたら分からない」

「そっくりすぎるだろう」

口々に上がる騎士団員の声に静真は苦笑すると、そんな2人の静真に抱き着く静流を見る。


「静ぅ。お願いだよぉ。僕を守っておくれよ」


「静は魁吏殿下の婚約者として大忙しになるだろう。だから、明日から僕と静流は静流が2度と逃亡できないように騎士団の寮に入ることになったんだ」


分家の静真はそう言うと、本家の静真は静流の頭を撫ぜる。

「泣きべそをかかないの。お兄様だって、やればできるわ。ここの隊長や副隊長は教えるのがとても上手だし。団員の方は皆、面白くて、優しくて、素敵な人ばかりよ」

魁吏はそんな静流を冷たく見る。


「3秒以内にその手を離さなければ。蹴り飛ばすぞ」


兄だとはいえ。

誰の女に触っている。

魁吏はそういうと、静流は分家の静真だけに抱き着いた。


「俺がその腐った根性を叩きなおしてやろう」


「殿下自ら?僕の根性を?無理ですよぉ。僕には根性なんてものはないです。僕を鍛えるなんて、時間と動力とお金の無駄です。お願いしますぅ。殿下ぁ。僕は平和に穏やかに、毎日、お花を摘んで冠を作るような生活をしたいんです」


2人の静真はそんな静流に苦笑した。

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