第14話 男装している婚約者も見納めか。
「性的思考は聞いていたが。お前は男装、女装どちらが好みだ?」
国王から支給された上等なスーツを着用し、ネクタイを結んだことがなく鏡の前で四苦八苦していたときだった。
「勝手に部屋に入ってこないでください。紳士にならないからいいんです」
マスターキーで部屋の中に入ってくるなり、鼻で笑う魁吏に静真は言い返す。
「お前は本当に質問以外の答えをするのが好きだな」
うんざりしたように魁吏は言うと、自身のスーツのポケットから写真をだした。
それはピンクのお気に入りのワンピースを着て、高校の友人達と可愛いカフェで可愛いパフェを食べている写真。
「男装は健太の件もあるのでもうしませんが。どこから写真を?」
「家臣に。王太子妃候補の“八嵜嬢”の可愛い写真を用意しろと言ったら、沢山くれた」
しれっと魁吏は言うと写真に口づけをする。
「あぁ。可愛い。美しい。好みだ」
”沢山くれた?”
誰から沢山貰ったのよ?
我が家の両親?メイド?友人?それとも町の防犯カメラか何かを権力振りかざしてハッキングでもして家臣に収集させた?
「推定するに身長167㎝。体重48キロ。スリーサイズは上から84、59、83と言ったところだろうか?」
身長と体重は当たっている。
スリーサイズも測った事はないが、そんなものだろう。
「当たっているか?」
「知りません。測った事はないです」
「そうか」
魁吏はそう言うと再び写真に口づけをする。
「なんてものになんてことをしているんですかっ!」
「不健全性行為だと言ってキスを心行くまでさせてくれない静真が悪い」
慌てて止める静真に涼しい顔で魁吏はそう言うと、ちらりと静真を見る。
「現物にさせてくれるなら、やめるが?」
「させません」
「じゃあ。仕方が無い」
肩を竦めて写真に再びキスをしようとするとする魁吏から静真は写真を奪い取った。
「・・・1回だけよ」
「そうか」
魁吏は嬉しそうに言うと、静真の右手を握り、もう一方の手で静真の顎に手をあてる。
「目を閉じて」
優しく言われ静真は大人しく目を閉じる。
すると甘いキスが舞い降りて来た。
***
「わぁ。静真様だわ。かっこいい」
「本当に!なんて凛々しいのかしら」
女性陣は静真が会場に入ると、直ぐに甘い声を上げるのだが。
「なんだか、今日の静真様は色気がありますわ」
少し潤んだ静真の瞳に女性達は両手を合わせる。
「やぁ。皆、こんばんわ」
にこやかに静真は言うと、魁吏はそんな静真を鼻で笑う。
”1回だけ”それは、一瞬の短いキスというつもりで静真は許可をしたのだが。
それはもう、随分と長い間。
魂が抜けるのではないかというほど魁吏は執拗に静真から離れず。
ネクタイを結んでもらうために。
更に“1回”キスを許可し。
静真は完全に体が火照り男装をしているのだが、色気を放っていた。
「強化合宿では常に銃と剣の成績が王宮騎士団の中で一位だったと聞きました」
女の子達はそう言うと静真は頷く。
「努力の甲斐があって一位を死守できた」
魁吏はそんな静真をじっと見つめる。
少し気取った様子の静真も愛おしい。
それに・・・。
キスをしている時に。
“危機的状況下以外はもう二度と、金輪際、男装をしません“と誓わせている。
今日、この夜会が静真の男装の見納めだ。
あまり自分が静真にまとわりついていると、可愛い静真が女の子からモテモテな姿も拝めないし。
国王である父親に貴重な見納めの今日という日をぶっ潰されかねない。
女の子に取り囲まれている静真は危ない目に合わないだろうと、魁吏は監視をしながら壁に背を付け眺める。
「魁吏様。明日、王太子妃候補を1名にされると聞きました」
「あぁ」
静真は合宿に参加をしていて、静真の耳には入っていない様だがそう宣言する予定だった。
厳重警戒秘密事項にしていなかっただけあって、この場にいる女共は全員知っているか。
だから、誰も俺には近づいてこないのかと思いつつ、静真を眺め続ると話しかけて来た女は不快そうな顔をする。
彼女は隣国の武蔵野桜皇女殿下。
美しく気高く彼女を一度みたら視線を数秒は放さない美貌の持ち主。
「まさかとは思いますが。彼を婚約者になさったりしませんよね?」
彼?彼女なら、そうだ。
女がさしているのは、静真だろうから魁吏は頷くことはしない。
「私は隣国の武蔵野王国。第19王位継承者の武蔵野桜と申します。私は名前の通り、春の象徴である桜のように可愛らしく、華やかと有名ですのに視界に入れて下さらないのですか?」
彼女は言うが魁吏は視界に入れる事はしない。
魁吏の視界は全て静真だ。
―――刺さる。
視線がささる。
静真は魁吏から背をむけ女性陣と話しているが物凄い視線に身を縮こませる。
「魁吏は本当に静真が好きだな」
副隊長は桜を一瞥もしない魁吏に声にを掛ける。
「あぁ。愛している」
そんな言葉に国王は拳を握る。
「男子たるもの女性をダンスでエスコートすることは大切だ。静真、全員とダンスを躍りなさい」
国王はそんな息子に声を上げると、女性陣は一斉に静真の前に並び始めた。
ダンスか。
全員と踊る体力はあるが、なにせ女性パートは何度も踊って来たが。
男パートは踊った事がない。
運動神経は良い。
なんとかなるか、いつもやっている逆をやればいい。
「さぁ。踊ろうか」
静真はそう言うと、一番近くにいた少女とダンスを始めるのだが。
「下手糞だな」
隊長は笑いながら、ぎこちないステップを踏む静真を見る。
そりゃそうよ。
王妃教育をしっかり受けている関係で、女性パートは誰にも負けない自信があるが。
男性パートはその反対をするので、下手である自信はあった。
「ダンスで女性をリードできない。一流紳士には天地がひっくり返ってもなれないぞ?」
「ひょっとこダンスの方が上手いぞ」
団員がからかった時だった。
「無様」
魁吏はそう言うと、静真の腰に腕を回し。
少女と静真が片手になった瞬間に静真の手を取り、そのまま一回転して引き寄せられる。
体に染みつくほど女性パートのダンスを練習した静真は本能のように女性パートに切り替わると魁吏のリードで舞うように踊り出す。
反射的に女性パートを躍り出す静真は魁吏と距離を置こうと3歩下がるが。
魁吏は上手だ。
下がった分だけ距離を詰められる。
「甘い」
「やかましい」
スーツの事もあり動きやすく。
今度は足を踏みつけてやろうと距離を詰めるが、魁吏は優雅にその足を避ける。
「次期国王の足を踏みつけようとする奴は、大地を踏む必要はないな」
くすりっと魁吏は笑うと、静真の手を放し。
両腰を持つと、宙に浮かせた。
「ちょ!」
目立つ。
ただでさえ注目を浴びるにも関わらず。
そんな事をされれば、静真に興味のない者まで二人に注目をした。
とっさに静真は魁吏の肩に両手をつくと、真っ赤になる。
「可愛い」
地面に下ろすと魁吏は静真の頭を撫ぜる。
「驚かせてすまない。しかし、これはお仕置きだ」
魁吏はあたふたしている静真に上機嫌に笑った時だった。
「きゃっ!」
桜は少し悲鳴を上げると体勢を崩したふりをしてワインを静真の顔に掛けた。
わざとだな。
ワインは有害なモノではない。
掛けられたとしても特に人的な問題はない。
「大変だ」
魁吏は静真の静真の目元にかかったワインを自分の顔を近づけると口づけをして吸い取る。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。目に入ってません」
夜会の始まる前の長く甘いキスの効果もあり静真はぶるっと体を震わせると手で顔のワインを拭う。
「勿体ない。静真の味がする貴重なワインなのに」
「私は無味無臭です」
静真はメイドからタオルを受け取ると、魁吏は静真の腰に腕を回した。
やはり。
男装をされていると、十分に守ってやることができない。
「さぁ。着替えに行こう。手伝ってやる」
「結構です」
「ワインの舐め取りもだめ。着替えの手伝いもだめ。我が儘が過ぎるぞ?」
「変態」
ワインを舐めとる?
着替えを手伝う?
それを断るのが我が儘?
我が儘って言う方が我が儘だわと思うが魁吏は静真に用意してあるドレスを着せるのが楽しみで上機嫌。
「魁吏様っ!」
桜は必死で魁吏の視界に入ろうとするが。
「その女を排除」
魁吏は恐ろしいほど、冷たく護衛に指示を出した。
あまりにも恐ろしく桜はその場に腰を抜かした。
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