第13話 いつ少年が少女で婚約者だと公表しようか。
合宿が終われば。
魁吏と会う時間が減る。
寂しい。
王太子候補として、婚約者として自由に会いには行けるけれど。
超絶多忙な魁吏に静真は、そんなことはしない。
寂しい。
静真はそっと胸の前の服を掴んだ。
***
軍事強化合宿、終了。
「おい。エース。風呂入ろうぜ」
「最後くらい裸の付き合いしようぜ」
「そうだそうだ。ここの風呂は温泉で最高だぞ?」
僻地の合宿場から王都に帰宅という時、最後くらい一緒に風呂に入ろうと誰もが静真に声を掛ける。
温泉は惹かれるが。
自分は女。
混浴は絶対に無理、
「拒否。雑魚寝、大浴場、ゴリラ拒否」
180㎝ある屈強な男集団に静真は全力で拒否。
「ゴリラってお前な。確かに俺らはゴリラに似てない事はないが。それなりにお前ほどではないが、女子から人気もあるんだぞ」
「お前が女みたいにヒョロヒョロなだけだ」
彼らは引かない。
「裸の付き合いに行こうぜ」
隊長は静真の腕に手を掛けようとした時だった。
「大浴場はやめとけ。確かにそいつの性的対象は男だが、ゴリラの裸は目の毒だ。欲求の対象外だ」
妙な止め方をする聞きなれた声に静真はため息をつく。
もっとましな止め方はないの?
例えば・・・。
男性裸恐怖症とか。
「俺のような男が好みなんだよな?さぁ、二人でシャワーを浴びよう」
185㎝と高身長で、すらりとしているが固い筋肉で覆われている体に後ろから抱きしめられると抜け出せない。
ニコニコととんでもない提案を魁吏はすると、上半身に体形補正コルセットをしっかり着こんだ硬い体の静真の腰に腕を回し引き寄せる。
「変態、痴漢、露出魔王」
急接近してくる顔を静真は両手で押し拒否をするのだが。
周囲から見たら、美しい王子が可愛い男の子を口説いてじゃれているようにしか見えない。
「酷いじゃないか。一国の王子に向かって暴言は・・・」
彼はそこで言葉を切ると、静真の耳に自分の口を近づける。
「静真公爵令嬢。王族を侮辱することは断罪に値する」
断罪。
つまり・・・。打ち首!
やられかねない。
どこまででも低い。
奈落の底からの囁きのような声に硬直する静真を魁吏はお姫様抱っこで持ち上げた。
「ちょ!お嫁に行けなくなる」
本当にシャワーを2人で浴びる気なのか。
後、半年しなければ自分は成人にならず婚約者である魁吏と結婚はできない。
貞操観念の強い静真は暴れるのだが。
「責任は取る」
しれっというが、静真にとってはそう言う問題ではない。
乙女の純情は結婚するまで守り抜くと更に暴れようとするのだが。
周囲にはやはり王子が少年で遊んでいるようにしか見えず。
「お嫁じゃなくて。お婿の間違いだろう」
「静真は生まれて来る性別間違えたよな。女だったら顔も綺麗だし、好みの男もつれただろうに」
しかし、その笑いは2人が立ち去ると国王陛下。
魁吏の父親の登場によって消えて行った。
「25歳になって10名の婚約者を持ちながら、あんな少年にべたべたしているとは。潰す」
忌々しそうに国王は言うと国の行く末を案じて拳を握りしめた。
***
「軍事強化合宿。ご苦労だった」
王宮で行われる解散式には国王の姿があり、彼は渋い顔でじっと静真を見る。
「特に静真には礼を言う」
国王は魁吏、隊長、副隊長の後ろで完全に隠れている静真を名指しで声を掛けた。
しかし、その顔は明らかにお礼を言う顔ではない。
「国王陛下。勿体ないお言葉でございます」
その場で膝をつき、謙遜する静真に国王はゆっくりと近づいて行く。
「魁吏は今、ものすごく大切な時だ」
威圧的な国王に静真はそうなの?っと魁吏をちらりと見る。
「25歳という年齢にもかかわらず。結婚をしていなければ、決まった婚約者もいない。そんな息子が最近少し進展をさせた。お前のような少年が酒によった君を介抱し、負傷した際には抱きしめ介抱。その後も何度も親密に接している場合ではない」
父親も息子を心肺しているのね。
静真も合宿中、朝、昼、晩と両親からメールが来ており。
健太に襲われた夜は、魁吏が上手く両親に伝えてくれたようだ。
親が子を心配するのはわかる。
しかし、ここまできたらあと少し。
真実を伝える事が出来ない。
「更に一か月の訓練中に2日も寝室を共にしたそうだな」
静真は毅然とした態度を取りながらも、やましい事はないが。
確かに同じ部屋で眠っており、“寝室を共にした”という事実に少し鼓動が早くなるのが分かった。
しかし・・・。
自分は今、男だ。
男。
男。
男。
動揺してはいけない。
深く息を吐き呼吸を整える。
「1度目は泥酔状態。2度目は寝落ちです」
1度目は不可抗力。
2度目は自分から部屋を訪れ眠ったが、それは一人で眠るのが心細かったから。
「息子に男色の噂が立つのは困る。君には、婚約者を持ってもらおう」
「お断りします」
「貴様は男色なのか?」
更に鋭く威嚇をする国王の声。
女が女を持つことは悪いとは思わないが。
静真はそういう趣味はない。
魁吏もオーラが凄いが、国王もオーラが凄い。
どうしようかなと困る静真だったが、魁吏は膝まづいている静真の右腕を掴み、左腰に手を添えると立ち上がらせる。
「膝を付くな」
「礼を尽くすのは・・・」
国王に話しかけられ礼を尽くすのはあまり前の事だ。
令嬢であれば優雅に一礼する程度であるが、男装をしている今は膝を突き首を下げるのが正しい。
「礼を尽くす相手は俺だけでいい」
誰かに静真が頭を下げている姿は見たくない。
静真は俺の女だ。
はたから見れば、王子が少年を溺愛しているようにしかやはり見えず。
「静真。お前の存在は迷惑だ」
”存在が迷惑”
国王は言い放つ。
誰かに存在を否定されるのは悲しい。
それが、好きな相手の父親ならなお悲しい。
傷つく顔をする静真の頬に魁吏は手を添える。
「静真。お前は俺にだけ必要とされていたらいい。お前が抱かれたいのも、愛しているのも“俺”だけだよな?」
悲しい顔をするんじゃない。
魁吏はそう思う一方で。
父親は静真が王妃候補の静真だと知れば、きっと、掌を返し溺愛するだろう。
それに俺との中を引き裂かれそうになってここまで落ち込むなんて・・・。
なんて、愛おしいんだ。
そうか。そうか。
絶対に離れないし、離さない。
「な、な、何を確認されているのでございましょうか」
堂々と言う魁吏に静真は挙動不審になる。
「言葉。おかしいぞ?」
魁吏はあたふたとする静真に楽しげに言うと、顔を近づける。
「答えは?お前は女に必要とされたいのか?」
男性として振舞っているのだから、当然、女性と答えるべきなのだろうが。
「これは人生選択肢だ。嘘をついてみろ。生きている事を後悔させてやる」
魁吏に言葉を畳みかけられ。
その押しつぶされそうなオーラに静真は身震いする。
まるで虎が鼠をいたぶり遊んでいるようだった。
―――殺される。
「嘘発見器を持って来させようか?」
嘘をつこうとする静真に魁吏は提案をすると、静真は青ざめた。
「最後のチャンスだ。お前が愛しているのも、必要とされたいのも、性的対象となるのも“俺だけ”だな?」
「そうです!左様でございます」
全力で頷く静真に魁吏は上機嫌で笑う。
「よく答えれました。偉いぞ」
満足げに褒める魁吏に静真の事を少年と思っている副隊長以外は氷つき。
「ならん!!!!」
国王は声を荒げると、剣を抜いた。
ーーー殺される。
息子に殺されなければ、父親の方に殺される。この親子っ!怖い!
「小柄な色白クリクリお目目のキュート女子が好みです!」
王子に殺されなければ。
国王に殺される。
静真は声を上げると国王はそんな静真に満足げに頷いた。
「では、帰国後。独身男の全員に向けた大規模の合コンというなの夜会を開催する。全員、帰還後は王宮に用意したスーツに着替えて参加すること。スーツは合宿をやり遂げた褒美としておぬし等にプレゼントしよう」
いやぁぁぁ。
どして、こうなるの。
「スーツ姿は見た事がないな」
魁吏は楽しそうに言うと、静真をそのまま帰路の車に連行していった。
王都まで1日かかる。
「宿泊施設で静真を排除しろ」
「かしこまりました」
国王はそんな息子と静真を見ながら、花房に命じた。
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